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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅13

 金と青には自分が行きたくない方向に歩いて行ってもらった。野性の勘を逆に使う方法だ。落ち着かずにオロオロしている金と青を急かしながらサキは歩いている。


 「そ、そろそろはっきり感じましぇんか?」

 青が怯えた瞳でサキを仰ぐ。


 「……確かに、あたしも感じてきた。うっすらと……だけど。」


 サキもやっと周囲を警戒しはじめた。足元の世界は赤と黄色の世界だ。青空に紅葉と銀杏の葉が絶えず地面に落ちている。


 「ずいぶんと今の季節にあった世界だな。食べ物が……。」

 「あー、わかったわかった。わかったからその嫌な気の本体を見つけてくれ。」

 サキは金の言葉を途中で切り、さっさと活動させた。


 「ふむ。あれだな。」

 「あれでしゅね。」


 金と青が急に止まり、同時に下を指差した。界下では二人の少女が楽しそうに遊んでいる。お互いに紅葉を巻き上げながら走り回っていた。


 「……あれが?……そういえば少女を探してて……まさか……。」

 サキは笑い合う少女達を何とも言えない顔つきで見つめた。


 「ふむ。人間の少女達であったか。」

 金はひまわりを持っていないかチェックしている。


 「そうだ!あんた達、ちょっとハムスターになって偵察に行っておいでよ。その方があの子達も安心するだろうし、いきなりあたし達が行ったらびっくりしそうだからさ。」


 サキは我ながらいい案を出したと思った。しかし、金と青の表情は複雑だ。


 「うーん……ハムになったら人間は大きめの肉食動物にちか見えないでしゅ……。怖いでしゅ。」


 青のつぶやきを聞き、サキはなるほどと頷いた。確かにハムスターからすれば慣れていない人間は肉食動物に見えるだろう。人間の足首くらいのサイズしかない動物にとって人間は恐ろしく巨大な生き物である。それは確かに怖い。


 「太陽の姫が守ってくれるというならばなってやってもいい。」


 金は相変わらず偉そうにサキに発言した。このハムスターは人間との駆け引きがよくわかっている。頼まれているとわかると偉そうになり、命令されるとしゅんとなる。


 「わかったよ。守ってあげるからさ。あんな少女達のどこに脅威があるんだい?あたしにはわからないよ。」


 サキは手をヒラヒラと振ると二人を送り出した。金と青は渋々ハムスター姿になるとその世界に向け勢いよく落ちて行った。


 サキはゆっくりと見つからないようにその世界に侵入した。


 「でね、神様はいるんだなって思ったよ。日本には神様が多いんだってね。やっぱり日本だから日本式で会った方がいいんじゃないかと思って……。それで……」


 「誰か来たね。」

 セレナと真奈美は楽しそうにおしゃべりをしていたが口をつぐんだ。警戒が二人を包む。


 「な、何?」

 二人は地面を見て驚いた。落ちた紅葉がモゾモゾと動いている。


 「ん?」

 二人はほぼ同時に声を発した。紅葉から顔を出したのはサツマイモ色をした大きなハムスターとグレーに黒いラインの小さなハムスターだった。


 「ハムスター?」

 セレナと真奈美の警戒は溶け、顔を出したハムスター達を柔らかな表情で眺めた。


 「かわいい!もこもこ!ふわふわだね!」

 真奈美は興奮しながらグレーの小さなハムスターをすくいあげ眺める。


 「どこから来たんだろうね?」

 セレナはサツマイモ色の大きなハムスターを指で触りながら微笑んだ。


 「わかんないけどおとなしいね。」

 「かわいい!」


 セレナも真奈美も突然現れたハムスター達に夢中になっている。小動物は子供の心に深く入り込む生き物だ。緊張を解くのもとても早い。


 「ハムちゃん達も井戸から落ちたの?」


 セレナの問いかけには答えずサツマイモ色のハムスターは髭をピクピクと動かしているだけだった。


 「あの井戸にね、落ちて私、本当に良かったと思っているの。真奈美に会えたし、真奈美を助けてあげられる。」


 にこりと微笑んだセレナの瞳は突然赤く輝き、体からジワジワと禍々しい神力が沸き出した。ハムスター二匹はその神力に怯え、丸く縮こまった。


 「そこまでだよ!」

 ふとどこからか鋭い女の声がした。セレナはビクッと身体を震わせ、漂わせた神力を消した。


 「誰?」

 セレナは声のした方を仰ぐ。木々の間から白いストールに黒のキャノチェをかぶっている女が現れた。


 「青、金!もういいよ。戻っておいで。」


 女はセレナに何も言わずにハムスター二匹を呼び寄せた。青と呼ばれたハムスターと金と呼ばれたハムスターはそれぞれ少女達の手から飛び降りると突然、人型になった。ハムスターだった少女と青年は素早く女の後ろに隠れる。


 「 Sino ito ?」


 セレナは今度同じ言葉をタガログ語のようなもので聞いた。セレナは元々フィリピン出身だ。多少の会話ならできる。セレナは女に自分が日本人ではない事に気がついてほしかった。ここは日本ではない全然違う場所ですという事を伝えたかった。つまり、出て行ってほしかった。


 自分達の世界を汚されたくなかった。


 「何言ってるのかわからないよ?さっき誰って日本語で言ってたじゃないかい。あたしは日本の神様だよ。あんたはここにいちゃいけない。元の世界に戻った方が身のためだよ。」


 女は自分が日本の神であると告げた。そしてここに残るなと言ってきた。

 セレナは眉をひそめた。


 ……日本の神様は悪い神様もいるって聞いた……。もしかしたら私と真奈美を引き裂く悪魔みたいな神様かもしれない。


 「 Huwag sirain ang ating mundo !」

 セレナはまた異国の言葉で叫んだ。


 「だから、何を言っているのかわからないよ……。」


 女は戸惑っていた。これも狙いだった。何を言っているのかわからなければいずれ去っていくだろう。でもやっぱりこの言葉だけは相手に知ってほしかった。セレナは今度、日本語で叫んだ。


 「私達の世界を汚さないで!」


 「!」

 セレナが叫んだ刹那、周りの世界が大きく動き出した。セレナが手を前にかざすと落ちていた紅葉がフワッと竜巻のように舞い上がった。


 「……!」


 セレナは驚いたと同時にこれを使って悪い神様を追い出せばいいと考えた。


 ……私を見守ってくれている日本の神様もいる。日本は神様が一人じゃない!私が信じている神様は違うけどきっと今、良い日本の神様が力を貸してくれているんだ。


 セレナの瞳がまた赤く輝く。後ろにいる真奈美をふと振り返ると真奈美は微笑みながら頷いていた。


 ……真奈美は日本人だからきっと日本の神様の名前もわかるだろうね。


 「真奈美、一緒にあの悪い神様を追い出そう!」

 セレナは真奈美の手をとり微笑む。


 「そうだね。今ならなんでもできる気がするよ。」


 真奈美もセレナの手をとり、ニコリと笑った。二人は手をとり合うとキッと目の前に立つ女を睨みつけた。二人は映画のヒロインにでもなったかのようにどことなくワクワクした気持ちになっていた。

 



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