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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅7

 「ふう……。」


 サキは現世に戻ってきた。今は何か情報がないものかとみー君がうろついていたとされる観光地を散策中だ。


最近肌寒くなってきているのでストールを身体に巻きつけ、秋らしく黒のキャノチェをかぶっている。紫のワンピースを着、黒のストッキングを履いていて秋らしい雰囲気の格好を目指した。


しかし、雨が降っており、紅葉を楽しみながら散歩するような気はしない。


 「ふーん。今はこんなのも人気なのかい。ワインレット色とか?」


 サキは情報を探している。今は若干脱線気味だ。町の中にあるオシャレな服屋のショーウィンドウを眺めながらサキは真剣に歩いていた。


 ……ん?あ!あたしはこんな事をしている場合ではないんだよ!


 サキはしばらく散策し、やっと本来の目的を思い出した。


 ……と、言っても情報なんてどうやって見つければ……


 「あ!」

 サキはすぐにみー君が言っていた事を思い出した。


 ……そういえば着色ついているから歯の掃除に言った方が良いって言っていたっけねぇ。


 ……とりあえず……着色を落としに行けばいいのかね?


 ……あのみー君があのタイミングで全然関係ない事を言うわけないしねぇ……。


 サキは一人頷くとさっそく近くの歯科医院の検索をはじめた。


 ……って、歯医者って予約制じゃないかい……。いますぐに着色取ってくださいなんて迷惑極まりないよ。


 そう思いながらサキはスマホで近くの歯科医院を検索した。検索した結果、やたらと口コミが多い歯科医院を一つ見つけた。なぜかわからないがとても評判がいい。


 名前はパールナイトデンタルクリニック。


 距離はここから少し離れているが行けない距離ではない。むしろこのあたりではこの歯科医院しか検索に出てこなかった。


 「……んん……この歯科医院でなんか情報があるのかね?……でもこれしか手がかりないし……行くかい……。」


 サキは乗り気ではなかったがとりあえず行くことに決めた。電車の時間を検索すると一時間に一本ペースで電車が出ている。サキはため息をついた。


 ……一時間に一本……。鶴で行こう……。


 サキは電車を待つのが面倒くさいので鶴を呼んだ。鶴はどこから来たのかすぐに来てくれた。


 「よよい!また太陽の姫君かよい!」

 人型になっていない鶴が駕籠を引きながらこちらに向かって来た。


 「またあんたかい……。」

 サキは一言つぶやくとさっさと駕籠に乗り込んだ。毎回この鶴が来るのでだんだんと突っ込むのが面倒くさくなっていた。


 「場所はどこにするよい?」

 特徴的な話し方で鶴はサキに声をかける。


 「ああ、えーと……パールナイトデンタルクリニックってわかるかい?」

 「……。」

 サキの質問に鶴は黙り込んだ。


 「鶴?聞いているかい?」


 「聞いているよい。少し前の事件を思い出しただけだよい!知っているよい。」

 「事件?まあ、いいや。とりあえず知っているなら行っておくれ。」

 サキが寝る体勢に入りながら鶴に命令をした。


 「なつかしいな……。」

 その時、鶴がふと声を低くしてつぶやいた。


 「なつかしいって?普通の歯科医院なんだろう?まあ、気にしないようにするけどなんであんたはそんな一般的な歯科医院を知っているんだい?」

 サキの質問に鶴はふふんと笑った。


 「一般的?なめちゃいかんねぇ。あそこの医院長は以前、深い闇を抱えていた立派な神だよい……。」

 鶴はどこか楽しそうにサキに言い放つと羽を広げ雨空に舞い上がった。


 「神……。」

 サキが知らないその少し前の事件で鶴が何かしらで関与したようだ。サキは聞くのが面倒だったのでそれ以上は聞かなかった。


 


 気がつくとサキはまた寝ていた。本当に緊張感がないなと自分で呆れるほどだ。


 「ついたよい!」


 鶴の声がしてサキは目覚めた。降りるのが面倒だなと思いながら重い腰を上げ、駕籠から降りる。


雨は止んでいた。あたりを見回すが、何と言うか周りは山だらけだった。


近くは田んぼで先程の観光地とは雲泥の差だ。よく見ると街灯すらもない。というか家がない。サキは顔をひきつらせながら後ろを振り向く。サキの後ろにはこじんまりした白い建物が建っていた。


 看板を見ると塗りたての文字でパールナイトデンタルクリニックと書いてあった。


 ……最近できたばっかりなのかね?


 サキは疑いながら隅々まで建物を観察する。中を観察すると待合室に座れないくらい患者さんがいた。


「うわあ……。どこにこんなに人が住んでいるんだい?」


 サキは思わず声を漏らした。近くにいた鶴がふふっと笑っていた。人型になっていないため、本当に笑っていたのかはわからないがおそらく笑っていたのだろう。


 「じゃ、やつがれは行くよい!」

 「え?ああ、そうだね。ありがとう。」


 サキはてきとうに返事をすると鶴と別れた。鶴は駕籠を引きながら優雅に空を飛んでいった。


 「と、とりあえず……はいるかい……。」

 サキは頭を切り替え、歯科医院のドアを開ける。


 「こんにちは。」

 すぐに女の人の声がした。どうやら受付の方らしい。


 「って……アヤ!?」


 サキはギョッと目を見開いた。受付にはかわいらしい顔つきの少女が座っていた。肩先で切りそろえられた茶色の髪を振りながら少女も驚いていた。


 「サキ!?」


 アヤと呼ばれた少女は仕事場という事も忘れ叫んでしまっていた。周りの視線が気になったのかアヤは顔を赤くして席に着く。


 アヤとサキは友達だ。そんなに会わないが、暇な時はよくショッピングをしたり、カラオケに行ったりと普通に遊んでいる。ちなみにアヤはサキと同い年の神である。サキと同様、アヤは人間の目に映る特殊な神様だ。


 「バイトしてたのかい?」

 サキはアヤの方へいそいそと近づいた。


 「ええ。まあ……色々あってね。あなたは何しにきたの?」

 「着色取りにきたんだよ。うん。確か。」

 サキは顔を曇らせながらつぶやく。


 「確かって何よ。予約はいっぱいだから後日になるわね……。」

 「後日じゃダメなんだよ!」

 サキはアヤに突っかかった。アヤは迷惑そうにサキを見つめた。


 「着色なんて後でも大丈夫よ……?それとも……なんか違う用事で来たのかしら?何があったの?」


 「何かっていうか……。あたしもよくわかんないんだけどさ、天御柱神が今大変でさー。」


 「天御柱!?」

 「あれ?アヤ、会った事あったかい?」

 アヤの反応が異常だったのでサキは恐る恐る尋ねた。


 「ええ、ちょっと前にね、色々あって襲ってきた竜巻でイドと一緒に飛ばされた時にお面かぶった神に会ったのよ。その神、イドが天御柱神だって言っていたから……。」


 「イド!?え?井戸?」

 サキはみー君が関わりそうな言葉を素早く聞き取る。


 「イドを知っているの?」

 「井戸って古井戸かい?」

 「はあ?」

 「ん?」

 サキの言葉にアヤは首を傾げた。会話が噛みあっていない。


しばらく沈黙が続いたがアヤの方がすぐに気がつき、会話を継続させた。


 「ああ、私が言っているのは井戸の神様で龍神の龍雷水天神りゅういかずちすいてんのかみっていう神でね、井戸の神様だからイドさんって皆に呼ばれて親しまれている神の事で東のワイズ軍にいるわよ今……。」


 「誰だい?それは……。神じゃなくて古井戸関係の話聞きたいんだけどさ……。」

 「何よ?古井戸って……。城の近くの古井戸しか知らないわよ。」


 アヤは眉を寄せながらサキと会話していた。患者さんがつかえていて早く話を終わらせたいようだ。


 「その古井戸で人が何人も落ちている事件を知らないかい?」


 「……。天御柱神って確かワイズ軍よね……。だったらここの院長に話を聞くといいわ。ここの院長もワイズ軍だったのよ。……ごめんね。ちょっと忙しいの……。」


 「え?ああ、そうかい……。すまないねぇ……。お仕事中だったね。じゃあ、また今度どこか行こうじゃないかい。」


 「ええ。いいわね。院長は中にいるわ。医局で待ってて。今、院長は手が離せないから。」


 アヤはサキを診療室へ案内した。サキは診療室へ入り、キョロキョロあたりを見回した後、スタッフルームの札を見つけ、歯科医院独特の音をうんざりしたように聞きながらそちらに向かった。


スタッフルームのドアを開けると黒い髪の少女がビクッと肩を震わせていた。


 「うわああ!なんだ!びっくりした。」

 「ああ、ごめんよ。ちょっと院長を待ちたいんだ。」

 黒髪短髪の元気そうな少女にサキはなるべく笑顔で言葉を発した。


 「太陽の姫君か!またなんでこんなとこに……。」

 「あれ?あたしを知っているのかい?」

 サキはこの少女を知らない。今会ったばかりだ。


 「あんたは有名なのさ。ちなみにうちも神だ!西の剣王軍所属、武神で今は三人で一人の神だけど小烏丸こからすまるって言うんだ。歯科衛生士やっているぜ。」


 小烏丸と名乗った少女はえへんと胸を張った。


 「ずいぶん難しい名前だけどあんたも神かい……。この医院は神しかいないのかい?」

 「ん?まあ、今のスタッフはそうだな。」

 不思議な病院だとサキは思った。


 「で、武神がなんで歯科衛生士なんてやっているんだい?」


 「まあ、昔、ちょっと犯罪をしてしまってだね、剣王と戦って負けて力を三つに分散されちゃってさ、いまや、こんなちっさい姿で武の神としての力もなく、こうして平和に日々を過ごしているってわけよ。人間と関わりすぎたのか人に見えるようになっちゃったしな。」


 小烏丸は楽しそうに笑った。


 「ちょっと!サボってないで手伝いなさい!」

 「何やってるのー、手伝ってよぅ!」


 二人が話していると突然スタッフルームのドアが開いた。目を向けると茶髪のポニーテールの女の子と金髪のショートヘアーの女の子が不機嫌そうに顔だけ出してこちらを見ていた。


 「ああ、わりぃ。今行く。ああ、あいつらはうちの連れ。というか元々うちらは一人だったんだけどね。三分割ってこういう事よ。剣王に逆らうと怖いんだぜ。今や、三人になって三人とも歯科衛生士やっているけどな。」


 小烏丸はニコリと笑うと足早にスタッフルームを後にした。

 一人残ったサキはボウッとしたまま、先程ワイズが言っていた事を思い出していた。


 ……西は死罪になる神も戦場で死ねって考えで剣王と闘わされる。あの武神も弐の世界で剣王と闘わされたんだねぇ。たまたま生き残ったのかね?三分割されて……。一人の神が三人になって……力が分散されて……って……神の仕組みってどうなっているんだい?


 ふうとサキはため息をつくと近くにあった椅子に腰かけた。そんなに苦労してないはずだがなんだかとても疲れた。


 しばらく何もする事がなく、スマホでジャパゴの主題歌を歌っているヒコさんのツイッターを眺めて時間を潰した。


時間が経ち、どれだけ待ったかわからないがツイッターも飽き始めてきた頃、そっとスタッフルームのドアが開いた。


 「君が太陽の姫君かい?」


 男の声がした。サキは眠い目をこすりつつ、ドアの方に目を向ける。そこには白衣を着た黒髪の青年が立っていた。青年はドアを閉めるとサキのすぐ横に腰かけた。


 「あたしは太陽神の輝照姫大神こうしょうきおおみかみだよ。あんたは例の院長かい?」


 「ああ。」

 青年は微笑みながらサキに答えた。


 「そうかい。あんたが何者か、なんで人に見えるのか知らないけどさ、とりあえず、聞きたいことがあって来たんだよ。」


 「来ると思っていたよ。天御柱神だろう?懐かしい名だ。俺もワイズ軍にいた時はよく顔を合わせていたものだ。」

 青年はサキが来ることを予想していたらしい。


 「ワイズ軍にいたのかい?いたって事は今はいないのかい?」

 サキの質問に青年は顔を曇らせた。


 「いないな。というか俺は高天原追放の罰を受けている。」

 「何かしたのかい?……あんたはみー君を知っているんだね。」


 「知っている。……まあ、とりあえず罪を犯したんだ。俺は。……ちなみに俺は元厄神だ。今は違うけどね。」

 青年の黒い瞳が赤く鋭く光る。サキはビクッと肩を震わせた。


 「へ、へえ……それでみー君はここに来いって間接的に言ったのかね……。」


 「そうか。天御柱神にここに来いって言われたのか。古井戸の件……だろう?確かに神力は天御柱のものだ。共通している事はそれと……古井戸に落ちた人間は皆、弐の世界に行こうとしていたって事だね。」


 「弐!?……寝れば行けるじゃないかい……。なんで井戸なんかに落ちるんだい?」


 「そうだね。寝ればいけるんだが……向こうに行っている時の記憶はうっすらとしかなくて、夢という判断で流されるだろう?正確には自分の心の中の世界をまわってこっちに戻ってきているだけだ。


機械的に現世で自己を保つために行っている行為に過ぎない。だから人間は弐の世界に行っているという感覚がない。


それが普通で、実際何があったか知らないが、そういう世界があると気がついてしまった人間がはっきりとした目的を持って井戸に身投げしているんだ。井戸に落ちて意識を失えば記憶を持ったまま弐に入れると思っている。それが不思議だ。」


 「でも突き飛ばしているのはみー君なんだろう?」

 青年の言葉を聞きながらサキはうーんと唸る。


 「いや、突き飛ばしているかどうかはわからない。ただ、神力が残っているだけだな。俺が調べた結果だと。」


 「じゃあ、みー君じゃないのかい?」

 「いやー……それもなんとも言えない。」

 青年はサキの質問責めに困った顔を向けた。


 「とりあえずあたしもその井戸に落ちてみるって手もあるね……。」

 「行くならば近くの図書館に行くべきだと思うね。」

 青年の言葉にサキは眉をひそめた。


 「ん?図書館だって?」


 「そう。簡単に弐に行けるよ。そこにいる神に話を聞いてみたらどうだい?」


 「図書館から弐に行けるのかい?」

 「とりあえず行ってみなさい。そこに神がいるから。」

 青年はそう言うとサキに笑いかけた。

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