かわたれ時…3理想と妄想の紅6
光が消え、みー君は跡形もなく消えた。
「みー君はどうなったんだい?」
サキの質問にワイズはうんざりしたように答えた。
「封印だYO。ふういん。冷林め……。」
ワイズはこぶしを机に叩きつけた。
「そうかい……。もうみー君には会えないのかい?」
サキは残念そうな顔をワイズに向ける。
「会えるわけないだろうがYO。……ん?いや、証拠があれば無罪だYO。」
「証拠ねぇ……。」
サキが考え込んでいるとまた頭に冷林の文字が浮かんだ。
―ワイズニモ……キンシンショブンヲ……クダソウトオモウガ……ドウカ。―
「……っち。」
冷林は全員に聞いたのだがワイズはもう答えがわかっているようだ。軽く舌うちした。
「ワイズはもうわかっていると思うけど、これは仕方ないねぇ。それがしもワイズの謹慎に賛成だよ。冷林がなんとかしたから今回はうまく収まったけど本来は君の仕事だ。このまま人間の被害が増えていたら大変だったねぇ。」
剣王は何か腑に落ちない顔をしていたが言葉では決断をしていた。
「……。しかたあるまい。これはお前の責任だ。ワイズ。お前は一応上に立つ者だ。責任は逃れられん。」
オーナーは目をつむりお茶を飲むとすっと立ち上がった。
「もう行くのかな?君は。」
剣王はオーナーをぼんやりと眺める。
「私はここで退出させてもらう。もう話は大方ついただろう。」
「ふーん。なんか冷たいねぇ。ま、それがしももう行くけど。」
剣王は大きく伸びをするとオーナーに続き、立ち上がった。
「なんだい。なんだい。あんたら、自分には関係ないからってさ。」
サキは剣王とオーナーの態度に対し、怒りをぶつけた。剣王はサキの方を振り向きニヤリと笑った。
「当たり前だ。これでそれがしはこの女の監視を抜けて好きなように動ける。」
「!」
剣王の気迫と言雨にサキは一瞬怯んだ。言雨とは言葉に神力を乗せて重圧をかける一部の神しかできない技だ。言葉が重圧となり雨のように降り注ぐ事からこう呼ばれている。
「なーんてね。」
剣王は両手を広げるとニコリと微笑み、オーナーと共にエレベーターに乗り消えて行った。
「な……。」
サキは何かを言い返そうとしたが間に合わなかった。
「いいYO。私達はお互い仲がいいわけじゃないからYO。こんなもんだYO。しかし、困ったNE。東が弱くなってしまうYO……。」
「どういうことだい?」
サキはうなだれているワイズに質問をする。
「ああ、謹慎はただ、領土にいればいいってわけじゃないYO。領土に帰ったら光の輪で拘束されて他の神との干渉をすべて遮断されるんだYO。ああ、まいったYO……。ろくに会話もできないYO。」
「謹慎ってそんな感じなんだねぇ……。」
サキがそうつぶやいた時、冷林が部屋から退出しろと言ってきた。
「まさかあのエレベーターにまた乗れとか言わないよねぇ?」
サキは青い顔で冷林を見つめる。冷林は呆れたのかため息のようなものをつくと高天原に売っているグッズの一つ、ワープ装置を起動した。
「なんだい?それは……ワープ装置かい?高天原にはそんなのもあるんだねぇ……。」
サキのつぶやきに冷林はこくんとひとつ頷いた。
「……。」
ワイズは冷林を睨みつけるとサキと共に冷林の前に立った。冷林は青い宝石が散りばめられた指輪を取り出した。これが高天原のワープ装置である。冷林が指輪をかざすと青い光りがサキとワイズを包んだ。
「わっ?なんだい!?これは……。」
サキが不思議がって青く輝く光を眺めていたがふと気がつくと冷林のビル前に立っていた。
「ええ?外に出ちゃったよ……。何が起きたんだい?」
きょろきょろとあたりを見回しているサキを見、ワイズは呆れた顔でサキに言った。
「高天原のワープ装置も知らないのかYO。」
「知らないよ。」
サキは何やら興奮した顔でワイズを見つめる。
「高天原は現世の先を行く世界。おまけに霊的世界だYO。これくらいの技術は東にも普通にあるYO。他にも古典的な道具もあるYO。物運び用の空飛ぶ羽衣とか西の奴らがよく持っているNE。」
「へ、へぇ……。」
サキは普段太陽に住んでいるため、あまり高天原には詳しくなかった。
サキが感動している横でワイズが難しい顔をしてブツブツと何かつぶやいていた。ワイズはワイズで今は自分の事で精一杯らしい。サキには目も向けず、これからどうするべきかを必死で考えているようだ。その独り言の中ではっきりとではないが聞き取れた所があった。
それは
「これはKに頼むしかないNE……。あいつを使おう……あの元厄神に。」
の一言だ。
「K?」
ワイズのつぶやきにサキは素早く反応した。
「あ……いや、なんでもないYO。」
ワイズは焦りながら話をもみ消そうとしたがサキが許さなかった。
「Kって何さ。」
「……。」
ワイズは難しい顔をしながら黙り込んだ。サキは睨みつけながらさらに問う。サキ自身が知らない利になるような事を神々はそれぞれ隠しながら持っている。その情報の切れ端をサキは今、ワイズから掴んだのだ。
「Kって誰さ。」
「っち……最近調子悪いYO。それくらい自分で調べろYO。」
「じゃあ、取引だね。あたしがみー君の証拠を掴んでくるからあんたはあたしにKの事を教えるんだ。あんたの謹慎がどれだけ続くかわからないけど剣王が何かしでかすかもしれないし、あんたはいち早く謹慎から抜けたいはずだよ。」
ワイズに教える気がないとわかったサキはカケに出ることにした。
「小娘に指図をされるほど困ってないYO。そんな子供じみた取引じゃあ私は動かないYO。」
ワイズはふふんと鼻で笑った。ワイズの発言で取引は一方的にサキがお願いする形となってしまった。
「なんでそんなに余裕でいられるんだい?剣王が動くかもしれな……」
サキは開きかけていた口を閉じた。ワイズがサキを嘲笑していたからだ。
「馬鹿だYO。剣王の話をまともに受けたのかYO?あいつは動かない。いや、動けない。あれもあれで自分の事で精一杯だからNE。」
「どういうことだい?」
「お前は聞いてばかりだNA。ま、いいだろう。教えてやるYO。剣王も部下の不始末で追われている。私が謹慎を喰らっている間にその部下を消そうと考えているんだYO。有罪なのか無罪なのかもわからないうちにNE。
この件を知っているのは私だけ。私が監視をしなければ部下を消しても証拠がないから罪を犯した部下がたとえ無罪でも剣王は有罪にならない。死刑になる西の罪神は邪魔の入らない弐に連れて行かれ、剣王と戦わせられるんだYO。
そして剣王に殺される。剣王を殺せたら罪がなくなるらしいYO。戦闘狂ばかりだから剣王はそう言う風にしたんだろうNE。武の神なら例え罪神でも戦場で死ね……それが西のルール。」
「西らしいねぇ……。で、なんで剣王は有罪か無罪かもわからないその部下を消そうとしているんだい?」
「それは知らないYO。なんかあったんだろうYO。私がこの件を知っているという事を剣王は知っているんだYO。だからあいつはさっきああ言った。なんか弱みを握ってやろうと思ってたんだがYO。謹慎になってしまったらしかたないNE。」
「まあ、それはいいや。それよりKって誰だい?」
「だから自分で調べろYO。」
ワイズの壁は厚い。
「そんなに大事な情報なのかい?」
「別に。お前もその内わかるYO。」
ワイズは一言そう言うと待機している鶴の元へと歩いて行ってしまった。
「だったら教えてくれればいいのにねぇ……。」
サキは肩を落として歩いているワイズをため息をつきながら見つめていた。




