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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」理想を抱く厄神の話
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かわたれ時…3理想と妄想の紅5

サキはみー君がいなくなっている事に気がつき、廊下をうろうろしながら探していた。


そんな時、サルから会議が開かれる事を知った。


招集は冷林からだった。


……なんか嫌な予感がするねぇ……。


サキは不安げな顔でサルの報告を聞いていた。


「と、いう事でこれから北の冷林方へ行ってもらうでござる。駕籠を外に待たせているでござる。」


「あー、はいはい。」


サキは暁の宮の門を通り、橙色の空間に出た。この橙色の空間は暁の宮の外。緑や土はない。ただの橙の空間だ。その橙の空間の中にポツンと白く生える鶴の姿があった。駕籠を引きながら待機している。


「鶴、またお世話になるよ。」

「よよい!今回は北だよい!」


「またあんたかい。」


人型にならないかぎり鶴の顔の区別はわからない。だがこの特徴的なしゃべり方の鶴はよく覚えていた。

サキは頭を抱えながら駕籠に乗り込む。


「では出発するよい!」

「よろしく頼むよ。」

サキがそうつぶやいた時、鶴が羽ばたき、駕籠が空に舞った。



駕籠が心地よく揺れ、眠くなってしまったサキは乗った直後に寝た。鶴の声掛けで失っていた意識を呼び起こすと、もうすでに北の冷林の居城にたどり着いていた。

自分の緊張感のなさにサキは頭を抱える。


「ああ、眠い。もうついたのかい?」

「着いたよい!」


鶴が元気よく返事をする。サキは眠い目をこすりながら駕籠の外に出た。あたりは何もなく、荒野のようだった。緑もなければ建物もない。


高天原もさすが北といった所か秋だからというのもあるがだいぶ寒い。サキは霊的着物に羽織を羽織ると大きく伸びをした。


この何もない荒野にポツンと場違いな建物が建っている。ガラス張りの超高層ビルだ。


間違いなくここが冷林の居城だ。北に住む神々は真面目な者が多く、ほぼ現世で修行している。北に集まる神々は生物の心に関係している神が多く、高天原にいるよりも現世にいる方が良いようだ。


故にほとんど北には神はおらず、このような荒地になっている。

サキは目の前のビルを鬱陶しそうに見上げると自動ドアから中に入って行った。


「ようこそ。こちらでございますわ。」


キノコのような頭をしている女がすぐにサキを出迎えた。サキはキノコ髪を呆然と見つめながら女に案内されるままについて行った。


まわりはオフィスビルのような感じで受付はないが高い天井に休むためのソファ、タイルでできている床、遮光ガラスの大きな窓などがある。


サキは促されるまま、それらを通り過ぎ、エレベーターに乗った。


「もう皆さんお揃いでございますわ。ただ、月照明神姉妹だけ連絡が間に合わずに陸に行ってしまったのでおりませんわ。」


「そうかい。」


キノコ髪の女にサキはなんとなく返事を返した。キノコ髪の女はそれ以降何も話さず、『無』と書いてある謎のボタンを押す。刹那、エレベーターがありえない速さで上昇していった。


「ちょ、ちょっと!なんかこのエレベーター速すぎじゃないかい?」

先程までぼうっとしていたサキは完全に目が覚めた。


「まあ、リーちゃんがかなり上の階にいますからしかたないですわ。」

 キノコヘアーの女はなんともないのか平然と言葉を話している。一方サキはエレベーターの壁に張りつく形で悲鳴を上げていた。


 しばらくして勢いよく止まったエレベーターは何事もなくスムーズにドアを開けた。サキは壁に頭をぶつけ、涙目になりながらエレベーターを降りた。


 「このエレベーター、絶対欠陥品だよ……。フリーフォールの逆バージョンかい?」


 「皆さんそうおっしゃりますわ。わたくしにはわかりかねますが。」

 女はふふっと微笑むとサキを降ろし、手を振り、下の階へ行ってしまった。


 「あの神も只者じゃないねぇ……。だいたいなんだい、あの頭。やれやれ。」


 サキは頭をエレベーターから会議に切り替える。エレベーターを降りるとすぐに大きくて高級そうな長机が置いてあり、その長机とセットに置いてある椅子にそれぞれの代表者が座っていた。


 「いやー……今回もそれがしは関係ないんだけどねぇ……。」


 邪馬台国にいそうな髪型の男が顎のひげを撫でながら唸る。服装は水干袴だ。

 この男は西を統括しているタケミカヅチ神、西の剣王である。


 「ああ、やっと来たかYO……。」


 剣王の横でひときわ暗い声を出した幼女がサキを見つめた。幼女は袴にカラフルな帽子をかぶっており、その帽子から赤い髪が剣山のように飛び出ている。目にサングラスをかけており、残念ながら目は見えない。


 この幼女は東をまとめている思兼神おもいかねのかみ、東のワイズである。


 「太陽の姫君、私の横が空いている。座るといい……。」


 剣王と向かい合う形で座っている男は緑色の長い髪をしており、龍のツノのようなものが頭にささっていた。整った顔立ちをした青年だが頬に緑色の鱗が付着している。


 この青い着物を来た緑の髪の青年は南の中にあるレジャー施設竜宮のオーナーである天津彦根神あまつひこねのかみだ。龍神達をまとめる役も引き受けている。


 サキはオーナーの横の椅子に座った。


 「……。」


 その横に冷林が座る。冷林は青い人型クッキーのような姿で顔に渦巻き模様がかいてあるだけだ。簡単なつくりで見た目、ぬいぐるみのようだ。


 冷林は北を統括する神で本名は縁神えにしのかみである。元々は林にいた神であり、その林は霊や魂の通り道であったため、霊気で冷たく、夏でも涼しい場所だった。そこを守っている神だったため、縁神は冷たい林で冷林と呼ばれるようになった。


 「で、それがしは何にも事態がわかってないんだけど……。」


 剣王は軽くアクビをすると冷林に目を向けた。冷林は一つ頷くと代表者面々に顔を合わせ、また頷いた。


 ―ゲンセノイド二、フトウナカゼデ……オチルモノガオオク……。ヒガシ二……タチアッテモライ、シラベタトコロ……カレノ……シンリョクガ……ノコッテイタ。―


 冷林が机をトンと叩く。叩いたと同時に白い光が冷林の後ろに現れ、不機嫌そうな顔のみー君が現れた。


 「なっ!」

 剣王とオーナーは同時に驚きの声を上げた。


 「ちょ、ちょっと!みー君!部屋を借りといて簡単に捕まるん……」


 サキが叫んだ刹那、みー君がサキを睨みつけた。どうやら話すなと言っているらしい。


 「……その件で太陽の姫君は関係あるのか?」

 オーナーが眉を寄せたまま、隣にいるサキに話しかける。


 「え……。いや、別に……何でもないよ。」


 サキは冷汗をかきながらオーナーに答えた。今、みー君の味方をするのはなんだかまずそうだったからだ。みー君をちらりと見るとサキに向かい大きく頷いていた。サキの返し方は間違っていなかったようだ。


 「まあ、それはいいんだけどさあ……まいったねぇ……。本当に彼なのかい?」

 タケミカヅチ神は温かい緑茶を口に含みながらみー君を仰ぐ。


 「信じられないがそうなんだYO……。彼の神力が色濃く残っている以上、私からはもう何も言えないYO。」


 ワイズは暗い顔で悔しそうにつぶやいた。


 「神力に何か違う神力が混ざっていたりなどはなかったのか?」

 オーナーは疑いの目をワイズに向ける。


 「冷林が残っていた神力を少し持ち帰っているから感じるといいYO。」


 ワイズがふてくされた顔で冷林を指差した。ワイズの言葉に頷いた冷林は手から白い光を発した。この白い光が神力なのだろう。サキにはよくわからなかった。


 「!」


 冷林が放つ光が突然、禍々しい物に変わる。恐怖と深い闇がフロアを埋め尽くした。狂気に満ちた何かをサキも感じ取る事ができた。激しい重圧と深い闇に落ちていく感覚が滝のようにサキに襲いかかる。サキは身震いをしながら目を見開き恐怖していた。


 ……な、なんだい!これは!


 ほんの少しの時間がとても長く感じた。気を失ってしまいそうな何かに当てられサキは狂いそうだった。


 冷林はすぐにその禍々しい力を消した。あたりが元に戻る。サキは我に返り、机を見ると水たまりになるくらいの汗をかいていた。自分でも恐ろしいくらいに身体が濡れていた。


 「太陽の姫君にはつらいだろう。この神力は太陽とは真逆のものだ。」

 オーナーがガクガクと身体を震わせているサキの背中をさする。


 「わかったかYO。この強い神力、おまけにこの雰囲気は間違いなく天御柱神だYO。」


 ワイズの頬にも汗がつたっていた。ワイズすらも恐怖におとしめるこの神力は相当なものだろう。


 「まあ、それがしは平気だけどねぇ。こういう波形の力は戦が起これば必ず発生するものだし、それがしはこの手の力には強いから。」


 ただ、平然と座っていられたのは西の剣王一人だった。サキは剣王の涼しい顔を恨めしそうに見上げた後、冷林に目を向けた。


 冷林はいつもと変わっていないようだ。変わっていてもよくわからない。その後ろにいたみー君は目を見開き、困惑していた。


 「ねえ、これ、確かに君のだよね?」

 剣王が目を細めながら青い顔のみー君を見上げる。


 「……。」

 みー君は拳を握りしめ下を向いた。


 「私もわかる。これは天御柱の神力だ。間違えるはずはない。他に何の神力も混ざってはいないな。残念だが……。」

 オーナーも頭を抱えながらみー君を仰いだ。


 「……ああ、間違いないな。俺のだ。俺の潜在的な力だ。」


 みー君はなぜ自分の神力があの井戸にあるのかまったく身に覚えがなかった。ただ、動揺する頭を落ち着かせながら神々の質問に答えていくしかできない。自分ではない事はあきらかであるのにこれだけはっきりとした自分の力が残っていると不安になる。


 「そこまでの力を持ちながら、まだ厄がほしかったのか?」


 「そんなわけないだろうが。俺はだいぶん前だが人間に俺を祭ったら魔風を起こすのをやめて悪疫流行を防ぐ守護神になると告げた神だぞ。人間が約束を守っているのに俺が守らないわけないだろう。だいたいこの神力は俺がもう捨てただいぶん前のものだ!」


 みー君は力なく反論する。神々は眉を寄せながら黙り込んだ。


 「それは天御柱の言っている事が正しいYO。」

 ワイズは他の神々の誤解を解こうと一言つぶやいた。


 ―ダガ、アナタモ……モウ……ワカッテイルハズダ。ショウコガアルダロウ。―


 ワイズの言葉は冷林にかき消された。冷林は記憶した映像を神々の頭に流す。その映像は先程みー君が起こした少女の件の記憶だった。あきらかにみー君が風を起こし、少女を井戸に突き落としたように見える。


 「……。」

 ワイズは黙り込んだ。冷林に対して何も言う事はなかった。


 長く生きている神は本心を隠す事もたやすい。故に神々の中では罪を犯した神の発言はあまり通らない。通るのは証拠だ。はっきりした映像や神力などしっかりとした証拠が鍵となる。みー君の場合、これらの証拠が残ってしまっていた。


 冷林だけではなく、他の神も神力の判断などをして天御柱神のものであると主張していた。その後にワイズにも確認をとっている。もう間違えようがなかった。神力は人間でいうDNA鑑定よりも重要なものだ。もう言い逃れはできず、みー君はふうとため息をついた。


 「これはマジだねぇ……。まだ信じられないが……この証拠だと彼が犯神だね。」

 剣王はお茶を飲みながら腑に落ちない顔をしていた。


 「私からも何も言う事はない。信じられんが。」

 オーナーも眉を寄せたままみー君を見ていた。


 ―ワイズ、ケツダンヲ……―


 冷林が苦しそうな顔をしているワイズの方を向く。


 「……輝照姫……お前はどう思うYO?」

 ワイズが苦し紛れかサキに意見を求めてきた。


 「……あたしは……みー君はそんな事しないと思うよ。」


 サキもあの映像を見て反応に困っていた。間違いなくみー君はそんな事はしないとわかってはいたがサキはみー君の深くを知らない。それに今は仲がいいからと味方になるわけにはいかない。太陽の上に立つ者として正当な判断をしなければならない。仲が良いからかばうのではただの子供だ。みー君を救うには証拠がいる。しかし、サキは重要な証拠を何も持っていなかった。


 「それは自己の感情だNE?」


 「そうだね。彼が無罪だと証明するものがないからねぇ。残念だけどあたしからも何も言えないよ。」


 サキはワイズにそっけなくつぶやいた。本当はみー君ではないと叫んでやりたかった。だが、その証拠を求められたら反論ができない。サキはあたりさわりのない事を言う事しかできなかった。そんなサキをみー君は満足そうに頷いて見ていた。


 「……。」

 ワイズはため息をつくとサキの返答に何も答えず、ゆっくり立ち上がった。感情を消し、冷林の後ろに立つみー君の元へ歩いて行った。


 「サキ、お前、歯のクリーニングとか興味ないか?着色ついているぜ。」

 みー君は突然、意味深な言葉を吐いた。ちらりとサキを見る。サキは暗い顔を上げるとみー君を見た。目と目が合う。サキは「ん?」と首を傾げていた。


 「何か言う事はあるかYO。」

 ワイズはみー君の前に立ち、腑に落ちない顔でみー君を見上げた。


 「別に。」

 みー君はワイズに向かいニコリと笑った。色々吹っ切れてしまったようだ。みー君は清々しい顔をしていた。


 「お前はいなくては困る神だから……封印にするYO。」


 ワイズは手を上げた。鎖が不敵に笑うみー君に巻きつく。着物が白い着物に変わり、上から突然大きな岩が現れ、いたずらっ子のように微笑むみー君を押しつぶした。岩はすぐに光となり消え、みー君もいなくなっていた。


 最後、サキには聞こえていた。


みー君が

 ……頼んだぜ……

 とつぶやいた声が。


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