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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」運命神と抗う人間の話
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かわたれ時…2織姫と彦星の運22

 時は花火大会前にさかのぼる。

 コウタとシホはサキに言われた事を考えながらただ花火の開始を待っていた。


 「……信じろって。助けてくれるって……。コウタ。」

 「……。」


 二人は目線を海に向ける。もう海辺は暗く、海も真黒で何も見えなかったが波の音だけ静かに響いていた。


 まわりの人達は幸せそうに笑っている。子供が焼きトウモロコシをかじりながら母親の手にひかれ歩き去った。遠くではお酒を飲んでいるのか宴会のように騒ぐ人達の声も聞こえてくる。


 コウタとシホはなんとなく焼き鳥を頬張りながら空を見上げた。


 「きれいな星だな。」

 コウタがぼそりとつぶやく。


 「ちょっとロマンチックな事言ってみるけど……七夕だね。織姫と……彦星。」

 シホもきれいな星空を眺めながらつぶやいた。


 「……明日は学校だな……。寝坊してガチな織姫と彦星にならないように気をつけよう。」


 「何それ?朝一緒に行けなくて会えないって事?もっとムード出してよ。コウタがムード出すって言ったんじゃんか。」

 シホは吹き出して笑った。


 「意外とムードを作るのって難しいな。いきなりアクション起こすのも問題あるしなあ……。」


 「もういい。普通に見ようぜ……。ムードなんてその内出る。」

 コウタの背中をシホがポンと叩く。


 「ああ。そうだな。なんか今回はいつもと違う会話ができてないか?」


 「そういえばそうだね。……今はなんだか心が軽い。花火にわくわくしているよ。」

 コウタの発言にシホは笑顔で答えた。


 しばらくして花火がはじまった。きれいな花火を見ながらコウタとシホは固く手を握り合っていた。会話はなく、いままでの思い出を思い出していたのか花火から目をそらさず、花が咲く瞬間を目に収め続けた。


 そして運命の時が近づく。花火大会は終盤をむかえ、コウタが混まない内に帰ろうと提案を持ちかけた。シホもそれに従った。


 二人の顔は強張っていた。歩き方もぎごちなく、運命に組み込まれた会話だけが意思とは関係なしに発せられる。


 「シホ!」

 コウタが歩きながら突然声を上げた。


 「!」

 シホは驚いてコウタを見上げた。


 「俺が死んでも神様を恨むな。俺が死んでも笑っていてくれ……。」


 「!」

 運命に組み込まれていない会話がコウタから発せられた。シホは目を見開いてコウタを見つめた。


 九時十一分……。ガードレールを曲がりきれなかったトラックがコウタとシホに突進してきた。


 シホはコウタの手を掴むが運悪く石に躓き、コウタの手を離してしまった。


 「コウタああ!」

 シホは必死に手を伸ばす。小さな旋風が起こった気がしたが意味はなく、トラックはコウタを巻き込み、カードレールに激突して止まった。


 「コウタあああ……。」


 シホはトラックに向かい、コウタを探す。コウタはトラックの下にはいなかった。


 「……え?コウタ?」

 「うう……。」

 シホはすぐ横で苦しそうに呻くコウタの声を聞いた。


 「え……?」


 シホは恐る恐る横を見る。コウタが頭から血を流しながら倒れていた。かなりの出血量だが生きている。


 「コウタ!コウタ!」

 シホはコウタの名前を必死で呼んだ。


 「シホ……。あれ?俺……生きてるのか……?」

 「生きてる……生きてるよ!コウタ!」


 慌てて救急車を呼んでいるトラックの運転手も視界に入らないくらいシホは血だらけのコウタを見つめていた。


 「ダメだ……。体が動かない。」

 「動いちゃダメだ。」

 シホは泣きながらコウタに話しかける。


 「はは……。死ぬってのは夢だったのかな……。本当はこれが大凶の真実か。お前は運よく助かって俺は運悪く交通事故に巻き込まれるって……。よく考えたらさ、死んだら大凶もクソもないよな。生きているから先の運を知れる……。ははは……。超イテェ……。でも大凶だからしかたないよな。ま、今の俺からしたら生きているだけでも大吉だ。」


 「あんた、笑っている場合じゃないんだ!しゃべれるのは凄いけどけっこう状態やばそうだぞ!」

 楽しそうに笑っているコウタにシホは怒鳴った。


 「お前はいつも怒っているなあ……。」

 「何を呑気な事言ってんだ!」

 シホが目に涙を浮かべながら怒っていた時、遠くの方から救急車の音がした。




 「とまあ、こんな感じでどうだ?」

 みー君が穏やかな笑顔をマイに向ける。


 「……負けだ。わたしが貴方を思い通りに動かせるわけがなかった。わたしが演劇できなくなるとはな……。完璧に貴方の演劇に乗せられた。負けたよ。ワイズの元へ行こう……。」


 「当然だ。お前にはその選択肢しかない。あの子達に奇跡を与えたかわりにお前は奇跡分の厄を受けないといけない。」

 みー君の瞳がまた赤く輝く。


 「そうか……。」

 マイは一息つくと目を閉じた。


 「輝照姫に尽力しろ……。それがお前の厄の返し方だ。」

 「……そうか。……了解した。」

 マイは観念したように頷いた。


 いままで色々な者を操り演劇をさせてきたマイが操り人形として演劇をやらされている。これがマイにとって最大の屈辱であり、地獄だった。


 「ワイズの傘下に入るのはその後だ。」

 「ああ。わかった。」

 マイは少し残念そうに救急車で運ばれて行くコウタを見つめていた。




 翌朝、壱の世界の日の出と共に起こされたサキはサルに文句をつけていた。


 「あんたねぇ、なんでこんな時間に起こすのさ!あたしは疲れているんだよ!」

 サキは寝間着姿で布団の上にちょこんと座っている。


 「いや、申し訳ござらぬ。ええと、突然、会議を開くと言うお話でして南の竜宮まで来ていただきたいらしいでござる。」


 サルはサキの様子を伺いながらボソボソと言葉を発する。


 「そうかい。こんなに早くなくてもいいんだけどねぇ……。」

 サキは面倒くさそうに髪を払った。


 眠い目をこすり、正装の着物に着替えて階段を降りる。


 「ああ、お食事は帰ってからにするでござるか?」

 「おにぎりちょうだい。駕籠の中で食べるからさ。」


 「それでよろしいのでござるか?」

 サルがいままでにないくらい真剣なサキに戸惑いながら声をかけた。


 「いいよ。ヤモリは?」

 「ああ、あの客神でござるか?下の階で待たせているでござる。」


 「鶴は?」

 「もう外に駕籠を持って待機しているでござる。」

 「はい。了解。」


 サキは階段を降りながら一階に地味子がいるのを確認した。地味子は怯えながら一階にあるソファに座っていた。


 素早く他の猿がサキにおにぎりを手渡す。


 「ありがとう。」

 「サキ様、お出かけですか?」

 すれ違う太陽神達がサキに対して声をかけてきた。


 「ああ。そうだよ。これから会議なんだ。太陽をよろしく頼むよ。」

 サキは太陽神達に笑顔を振りまく。太陽神達は深く頭を下げて去って行った。


 ……まったく、なんで太陽神は朝がこんなに早いんだい?壱と陸は交代制でまだ陸勤務の太陽神が起きているはずなんだけど……。まあ、いいか。


 サキは最後の階段を降り、地味子に声をかけた。地味子はビクッと肩を震わせたがサキだとわかるとホッとした顔を向けた。


 「おはよう。あんた、朝早いねぇ……。」

 「お部屋一部屋もらって嬉しかったけど……全然寝れなかったの……。」


 「ああ、だろうね。死刑を待つ死刑囚みたいなもんだしねぇ……。」

 「ああう……。」

 地味子が涙目になっていたのでサキは慌ててあやまった。


 「ああ、ごめん。ええとじゃあ、行こうか!」

 「本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ!」


 サキにも不安はあったが地味子を安心させようと必死だった。

 とりあえず二人は外に待たせてある鶴の元へ行き、駕籠に乗り込んだ。


 「よよい!待ってたよい!では竜宮に向けて出発するよい!」

 「またあんたかい……。」

 鶴は羽をばたつかせてサキ達を迎えた。


 「私なんて鶴どころか亀も会った事ないし……。」

 「これから竜宮行くんだから死ぬほど見れるよ。」


 「死……。」

 「あー……えっと……いっぱい見れるよ。」


 サキは敏感な地味子を刺激しないように駕籠の中で気を使い続けた。

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