かわたれ時…2織姫と彦星の運19
「えーと……シホさんとヒコさん!」
サキがそっと声をかけると寄り添っていた少年少女が肩をビクつかせてこちらを向いた。
少年少女はコウタとシホだった。
「あ、あんたは……ジャパゴ祭の……。」
シホが口をパクパク動かしながらサキを見ていた。
「そう。あたしはあんたらに言いたい事があって来た。」
「なんだよ?」
「シホ……言葉遣い……。」
コウタの言葉も半ば無視でシホはサキを見上げた。シホの目はもうすべて何もかもあきらめていた。
「あんたは夢でヒコさんが死ぬ所を見たんじゃないのかい?その夢を信じてヒコさんが死んでしまうからと何度も時間を巻き戻していたにすぎないだろう?実際を見た事はあるかい?」
サキはシホを見据えてはっきりと声を出した。
「もうやめろよ……。あんたも神様なんだってね……。何度も何度も希望持たせるなよ……。もう静かにコウタとの最期を楽しませてよ……。」
シホは暗い瞳でコウタに寄り添う。コウタも反応に困りシホに寄り添った。
「最期じゃないかもしれないのに最期って決めつけてこの花火大会を送るのかい?そんなの全然楽しくないと思うんだけどさ。
あたし、ヒコさんのファンなんだよ。だから今全力であんた達二人が生き残れるように頑張っている。
あんた、見た感じ、あきらめ悪そうだし頑固そうだよ。それなのに簡単に諦めちゃうのかい?」
「あんたに何がわかるんだよ!神様なんて結局は人間よりも高い所にいて人間をあざ笑っている存在なんだろ!うちらをみて楽しんでんだろ!……いいよ。もう。うちはどうせ神なんて信じてなかったんだ。……あんた達……なんでこの世界にいんの?」
シホは憎しみのこもった瞳でサキを睨んだ。コウタが必死でシホをなだめているがシホはサキしか見ていなかった。
「……あんた達が願ったからこの世界にいるんだよ。あたしらはね。……あんたがどう思おうが別にいいけどさ、運命神はひどく心を痛めていたよ。
人間と関わる時は感情を出してはいけないって昔から言われていてねぇ、まあ、そのルールもあんたら人間が決めたんだけどさ。彼はそれを守ってただけだよ。本当はあんたらを助けたくて必死だったんだ。あんたは自分の事ばかりで一方的に殴ってたけどさ。」
海風がシホとサキの頬を撫でる。
「それをうちらに言いにきたってのか?ご苦労さんで。そんな事言ったってコウタは助からない。そんな事言われても逆に困るんだよ!」
「シホ、もういい加減にしろよ。」
コウタがシホを止めたがシホはコウタを睨みつけた。
「なんでコウタはそう冷静でいられるんだよ!あんた、死ぬんだよ!わかってんのかよ!あんたと一緒にいたいって思ってるのってうちだけかよ!あんたは死にたいって思っているわけ?」
シホがコウタに掴みかかった。コウタはシホの手を思い切りはたいた。
「いい加減にしろ!もうやめてくれ!」
コウタは苦しそうに叫んだ。シホははたかれた手を撫でながら切ない瞳でコウタを見つめた。
「コウタ……ごめんね……。」
「……俺に当たってどうするんだよ。今のお前は話しかける人すべてに当たっているだけだ。少し頭冷やしてくれ。俺は最期を静かにむかえたい。それから……お前には笑って俺を見送ってほしい。花火も……せっかく場所取りしたんだ……こんなんじゃムード作れない。最期がこんなんじゃ俺、やだよ……。」
コウタの背中が震えていた。声も涙声だ。シホはコウタの手を握ろうとしてやめた。そのままオレンジ色に染まる海を眺めていた。
「……。とにかく、これから神を信じなくてもいい……。でも今回は信じておくれ。運命神がこの運命から救ってくれる。強く願って花火を楽しんでおくれ。あんた達は信じるだけでいい。絶対ヒコさんは死なせない。だから……。」
サキはオレンジ色に光る瞳でサキとコウタを見つめた。太陽に照らされたサキはとても神々しかった。シホとコウタはサキを美しく思ったと同時にサキに力強い太陽の力を感じた。
「……本当に……信じていいのか……?」
シホは目に涙を浮かべながら情けなく声を発した。
「信じておくれ。」
サキは大きく頷くとシホとコウタから走り去って行った。残されたシホとコウタは走り去るサキとオレンジ色に照らされている海岸をぼんやりと見つめていた。




