流れ時…1ロスト・クロッカー12
内藤新宿の方になんとか戻ってくることができた二人は考えを巡らせた。
「なんなのかしら……。私が新撰組をつくったとでも言いたいのかしら?」
「さあな。君は時を渡る能力があるみたいだし……あ、でも、新撰組をつくるのはありえないなあ。君はこの間まで学生だったんだろ?」
「ええ。そうよ。」
「……もしかしたら彼は知らないのかもしれない。」
「何が?」
「彼は過去の人だ。新撰組なんてはじめっから知らないじゃないか。だから、新撰組がなんだかわかっていないんだ!」
「?」
「わからないか?異種って歴史の力と時の力両方使えるんだ。」
「それは過去神から聞いたわ。」
「だから、君が異種だってあの黒フードから聞いたとするならあの過去神は君が新撰組という未来の歴史をこの時代に持って来たって考えているんじゃない?って事さ。」
「あの黒フードにだまされているって事ね。」
「なにが真実かわからないが、きっとあのフードはなにか確信をもたらすものを持っているんだな。俺も奴もあいつに話しかけられただけで豹変したんだからさ。」
プラズマがうなずいていたらすぐ後ろでシュタッと音がした。
「うまくまけた様だな。」
音の方へ目を向けると栄次が立っていた。
「俺らと時渡りした方……だよな?」
「そうだ。」
「……ねぇ、これからどうする?」
アヤはほっと一息つくと周りを見ながらつぶやいた。
「うーん……。とりあえず……もう一度未来に戻ってあの時計からまたこの時代に戻って黒フードを捕まえるっていうのはどう?」
「それしかなかろう。今度はいつ現れるかわかるから捕まえやすいだろう。」
プラズマと栄次は面倒くさそうにうんうんとうなずいた。
「しょうがないわ。じゃあ、また時計描くわ。」
アヤが紙とペンを取り出した時、聞き覚えのある声が自分を呼んでいる事に気がついた。
「アヤああ!」
アヤは声の方へ目を向けた。
「現代神!」
現代神が学生服姿でこちらに向かって走って来ている。
「ほう……あいつが現代神か……なんだか情けない雰囲気だな。」
栄次はあきれた顔をして走り寄ってきた現代神を見つめていた。
「アヤ!やっと見つけたよ!ずっと探していたんだから!ほら、見て!一端現代に戻って現代の時計もちゃんと取りに行ったんだよ!」
はあはあ息をつきながら現代神はごく普通の目覚まし時計を見せる。
「あ……ああ……ありがとう……。」
なんだかものすごくひさしぶりな気がする。
ひさしぶりなのにさっきまでいたような感覚だ。
「って……うわああ!アヤ、逃げよう!」
急に現代神が発狂し始めた。
「ん?」
アヤは首をかしげたがすぐにわかった。
彼は狂暴化している過去神、未来神しか知らないのだ。
「ああ、大丈夫よ。彼らは。」
「何に対して怯えているんだい?君は。」
「変な男だな。」
栄次とプラズマはまだ首をかしげたままだ。
アヤは二人に説明しようと口を開いた。
「彼は……」
そう言いかけた時、現代神がアヤの手をいきなり握った。
目の前がまた白く光った。
「アヤ?」
栄次、プラズマが自分を呼んでいたがその声は次第になくなっていった。
「ふう……危なかったね。」
現代神は汗をぬぐった。
「あなたねぇ……」
アヤは頭を抱えた。
ここは現代……
アヤの部屋……
時計は相も変わらず秒針が狂っていてまばらにカチカチなっている。
窓からは月明かりがのぞいている。
あたりはとても静かだ。
夜中なのかどうかも時計が狂っているのでわからない。
アヤの服装はいつの間にか最初の服装に戻っていた。なんだか違う自分が時を渡っていたような気がする……。
「戻ってこれたね。」
「あなたが現れてそうそうこうなるとは思わなかったわ……。」
「そうだね……君はとてもしぶといよ……」
「え?」
返答の仕方が意味深だったため、アヤは現代神に目を向けた。
「ああ……はじめから……こうすればよかったんだ……。そしたら面倒くさい事にならなかったのに……」
現代神は一人言のようにつぶやいた。
「何よ?気持ち悪いわ。」
「いや……僕は人を殺すのってどうもなれなくて……。」
「?」
アヤは現代神の顔を見てビクッと身体を震わせた。
現代神の瞳には光がなかった。
無表情でアヤを見つめている。
「な……なに言っているの?」
「君は知っている?時神の異種……。君は異種だ。」
また異種か……
アヤは身構えた。
彼も自分をこの世から消すつもりらしい。
だが、彼は明らかに弱そうだ。
アヤだけでなんとかなるかもしれない。
「色々やったのに……アヤは運がいいのか気転がきくのか全部逃げちゃってさ。」
「色々やった?何言っているの?」
「何言っているんだろうね。僕。」
「……まさか……あなたも黒フードに何か言われたの?」
アヤの頬に冷や汗がつたう。
「黒フード?何言っているのさ。」
現代神は表情もなくポケットから小型のナイフを取り出す。
一呼吸おいて彼は再びつぶやいた。
「黒フードは僕さ。」




