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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」運命神と抗う人間の話
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かわたれ時…2織姫と彦星の運15

 「……で?特典ってやつはどこにあるんだ?」


 みー君とサキは飛龍に連れられ、闘技場の奥へと進まされた。暗いトンネルを通っていると急にトンネルの壁がなくなり、真っ暗な空間に変わった。


 「もう見れるよ。」

 飛龍がパチンと指を鳴らした。


 「ん?」

 指を鳴らした直後、二人の身体が浮き上がった。そのまま飛龍は消え、サキとみー君だけ残された。映像が目に飛び込んでくる。


 「なんだい?これは。」

 「これが記憶なんだろうな。人間の。」


 「肆の世界の記憶ってなんだい?肆は未来なんだろう?」


 「その通りだ。肆の世界の記憶って事は時を巻き戻して何度も同じ事をやっている人間の記憶と考えられるな。肆で巻き戻した記憶はもう過去だ。つまり参に入る。ややこしいが肆の世界の記憶だが参の世界のものという事だ。こんな事通常はありえないだろ。」


 みー君は難しい顔でサキを見ていた。


 「時関係でまったく壱が絡んでこないってなんかすごい世界だねぇ。」

 サキも唸りながら記憶に目をやる。しばらくぼんやり映っていた映像が鮮明になった。


 「!?」

 二人はその鮮明に映った映像に映る人物に驚いた。


 「あ……ヒコさん!?」

 サキは何度も瞬きを繰り返した。


 「ああ、あのジャパゴの主題歌の……。という事はこの記憶はもう一人の少女のものか。」


 「時間を巻き戻していたのはあの二人かい……。」


 記憶を眺めていると花火が夜空に上がった。どうやら花火大会のようだ。近くにあった看板には『七月七日、花火大会のお知らせ』と書いてある紙が貼ってある。


 「七夕に花火大会とは……なかなか早いな。」

 みー君はぼうっと夜空に咲く花火を眺めつつ、状況を読む。


 「みー君、七夕の花火大会って今日じゃないのかい?これって今日の未来の話かもしれないねぇ。」

 サキの発言にみー君は大きく頷いた。


 「間違いなく今日だ。見ろ。あの男の格好。」

 みー君は海辺の階段付近に座っているコウタを指差す。


 「あ、そう言えば服装が一緒だよ。」

 サキはこちらを振り向いたコウタに手を振りたかったが意味のない事であると思い直しやめた。


 コウタは歩いてくるシホを見ていたらしい。今、サキとみー君はシホの目線だ。

 シホがコウタに焼き鳥を差し出す。コウタは優しく微笑みながら焼き鳥を受け取った。


 「あー……あたしにもこうやってさ、優しく微笑んでくれないかなー。」

 サキは羨ましそうに口を尖がらせた。


 シホが海の方を向いたのかコウタが映らなくなった。サキはなぜか悔しそうに「もうちょっと」と言いながら手を横に動かしている。まだコウタを眺めていたかったらしい。


 「お前……ちゃんと記憶を見ろよ……。あの歌手を追いすぎだぜ。」

 「みー君、黙ってておくれ!今大事な所だよ!」


 「お前に言われたくねぇよ……。」

 みー君は呆れた目で興奮しているサキを眺めた。


 夜空に花火が咲く。だんだんと花火が曇りガラスのように曇っていく。


 「……泣いてやがるな……この娘。」

 みー君が曇ってよく見えない花火を眺めながらつぶやいた。


 「泣くほど感動したのかな?」

 「俺はなんだか違う気がするがな。」


 サキとみー君が会話をしていると曇った映像が一瞬暗くなった。おそらくシホが涙を拭いたのだ。


 その後またクリアな花火が夜空に咲く。それをしばらく眺めていたがまた映像が揺れた。


 コウタが視界に映る。


 「お!」


 サキが嬉しそうに声を発したがコウタの表情を見てサキの表情も変わった。コウタは震えていた。下を向き、手を口に当てて必死に涙を堪えている。


 「……。」

 ただならぬ状況を見ながらサキ達は言葉を失った。これはただの楽しい花火大会ではない。


 シホがコウタの手を握ったらしい。コウタが驚いてこちらを向いている。視界がまた悪くなった。


 またシホが泣いているようだ。


 コウタがシホを抱きしめた。また映像が真っ暗になる。シホがコウタの胸に顔をうずめているようだ。


 「羨ましいけどさ……なんでこんなにこの二人は泣いているんだい?なんか雰囲気がおかしいね。」


 「これは何かよほどの事があったんだな。……もしくはこれからあるか。」


 やがて視界が高くなった。シホが立ったらしい。


 となりでコウタも立ち上がった。まだ花火は終わっていないが混まない内に帰ろうなどの言葉を交わしているのがわかる。シホとコウタは手を繋ぎながら歩き出す。コウタがシホを引っ張っていっている感じだ。


 いくつか何か会話をしている感じで歩いている。街灯がない夜の道路だ。横はガードレール。そのさらに先はすべてを飲み込んでしまいそうなほど真黒な夜の海。


 急カーブの所で後ろからピカッとライトが光った。


 「車!」


 思わずサキは叫んだ。トラックは曲がり角を曲がりきれず前を歩くコウタを持って行ってしまった。映像がぐらっと揺れた。シホが何かに躓いたらしい。一瞬の事だった。


 「あ……ああ……。」


 サキは怯えるようにみー君を見上げた。みー君は何も動じずにまっすぐ前を見つめていた。


 『コウタァァ!あ……あああああ!』


 シホの泣き叫ぶ声が耳に響いた。その次に見えたのが血だまり。運転手は無事だったようで慌てて出てきて救急車を呼んでいる。


 トラックは幸いガードレールを乗り越える事はなく、横転しただけだった。居眠り運転だったのかもしれない。


 コウタの状態はもう間違いなく助からない。出血量が多く、横転したトラックの下敷きになって身動きもできない。


 サキは膝をついた。口に手を当てて吐かないように息を大きく吸っていた。


 「サキ、わかったぞ。あの人間達は自身の運命をあらかじめ知っていたって事だ。これがあの子達に起こる未来。」

 みー君は何とも思っていないのか平然と言葉をサキにかけた。


 「あんた、なんでそんな平気な顔してられるんだい!」


 「ああ、俺はそういう神だからな。もともとこういう事をやってきたんだ。台風とか、竜巻とかな。」


 「やっぱり……あんたはそういう神なんだね。」

 サキはみー君を睨みつけた。


 「……。しょうがねえだろ。人間にとっての災害を俺が全部じゃないがそこそこ引き受けてんだぜ。こんなのでいちいちへこめないんだよ。俺は。」

 みー君はふうとため息をついた。


 「……。」

 サキが何とも言えない顔で下を向くのでみー君は付け加えた。


 「だが何回見ても慣れるもんじゃないな。俺だってやだぜ。」


 「ヒコさんは……死ぬ運命なのかい……。」

 サキは相当ショックを受けているようだ。着物の裾を掴んで唇を噛んでいた。


 「そうみたいだな。だが……その運命を人間が知っているって事が俺は問題だと思うがな。」


 「せめて最後の花火くらいは楽しそうにしてほしいよ。あたしは。」

 「……。」


 みー君は何も話さなかったがサキをじっと見つめていた。しばらく黙っていたみー君はふと口を開いた。


 「天之導神あまのみちびきのかみ……運命神。一瞬映ったあの神社……。あいつ、怪しいな。」


 記憶の映像はまだ続いている。しかし、シホ目線ではない。


 「記憶が続いてやがる……。誰だ……これは。」

 「もう終わりじゃないのかい……?」


 みー君とサキがあたりをキョロキョロと見回す。場所はシホ達が座っていた神社が見える階段。


 「今更、こんなところで何があるっていうんだ。」

 花火大会は終わっている。今は何もない。虫の声だけが響いている。


 「やっと入れた。」

 ふと声がした。サキとみー君はビクッと肩を震わせた。声がやたらと身近に聞こえる。


 「誰?」

 サキが恐る恐る声を発した。声は男性のものだ。


 「……僕は天之導神あめのみちびきのかみ。運命神だ。この記憶に入り込んだ。あの子達を助けたいと思わない?」


 「ん?助けたい!ヒコさんはこれからも歌を作ってほしい!」

 サキが即答をするのでみー君が慌てて止めた。


 「待て待て。そんな簡単に回答を出すな。運命神、お前が何考えてんのかわからんが……自分の言っている意味がわかっているのか?」


 「わかってるさ。」


 みー君の前に運命神が現れた。運命神は岡っ引きのような格好をしており、赤い着物に眼帯をしている。黄土色の短い髪を揺らし、下駄をつっかけながらこちらに歩いてきた。


 「何が目的だ?めんどくさい事はお断りだぜ。」

 「別に僕としては何か目的があるわけじゃないさ。」


 「じゃあ、なんだ。」

 みー君は油断せずに運命神を睨む。運命神は表情を変えずにみー君を見つめた。


 「……。」

 みー君は運命神の目を見て必死さを感じ言葉に詰まった。


 「で、ヒコさんを助けるってどうやるのさ。あたしはこの件がどうして起こったのかも知らんのだがねぇ。」

 サキはもうコウタを助けるつもりで動くようだ。


 「とりあえず僕と一緒に来てほしい。ここから僕の神社に行けるんで。」

 運命神は自分の後ろを指差した。運命神の後ろでは夜の神社の映像が映っていた。


 「どういう仕組みだい?現世から竜宮に来れちゃうってさ。」

 サキは興味深そうに神社を覗いている。


 「ある龍神にここに割り込めるようにしてもらった。肆の世界の記憶と竜宮の参の世界を繋いだんだ。少し色々わけありで……もしかしたらここを開いてくれた龍神、敵にまわるかもしれない。」


 「なんか面倒くさそうだな。」

 運命神の話を聞き、みー君はため息をついたがサキが何を言っても聞かなそうなので運命神の話だけでも聞いてやる事にした。


 「しかし、あたしらはここに閉じ込められているようなものなんだよ。現世に勝手に行ったら怒られちゃうよ。」


 サキが思い出したように言った。


 「だったら、僕が連れ出したって言えばいい。僕は構わない。」

 「罪を被るほど俺達に協力してほしいのか?」

 みー君の言葉に運命神はそっと目を閉じた後、大きく頷いた。


 「そうか。ならしかたない。」

 みー君は彼の必死さに負けて手を貸す事にした。


 「じゃあ、あんたの神社に行くかい?」

 サキはやる気満々で運命神をまっすぐ見据えた。運命神は目を開け、再び大きく頷いた。

 サキとみー君は運命神に従い映像の中へと入って行った。


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