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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」運命神と抗う人間の話
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かわたれ時…2織姫と彦星の運13

 コウタがシホと会って数日後、シホがユウスケをいじめる事はなくなった。


 「鳥海!」


 コウタが屋上でボウッと突っ立っているシホに声をかけた。たまたま、シホが屋上に行くのをコウタが見ており、なんとなく追いかけて行った感じである。


 「なんだ。あんたか。もう何もしてねーよ。うちは。」

 「あんた、腕どうしたんだ。」

 シホは左腕にギブスをしていた。


 「ああ、これ?こけたかな?」

 「親父か?」


 「……。」

 シホはコウタの問いかけに何も話さなかった。


 「鳥海……。」


 「ほんと……何正義の味方きどってたんだって話だよね。うち。あんな事しても意味ないっていうのに。あんたはうちの恥ずかしい記憶を持っている一人だ。……うち、何してたんだろう……。」


 シホはそう一人つぶやくとそっと空を眺めていた。せつなくつぶやくシホの頬は涙で濡れていた。


 「そのあんな事とは俺や他の人を助けた時の事を言っているのか?それなら、俺はあんたに命救われた。


 大げさだって笑うかもしれないが……あの時のいじめで俺は……まあ、子供でまわりがみえてなかったってのもあるが死のうと思ってた。


 でもあんたが助けに来てくれてこうやってあいつらを追い払えばいいのかと気がついた。悔しくないのってあんたに言われて……ああ言ったけど本当は悔しくて負かせてやりたいって何度も思ってたんだ。あんたは俺の人生を変えてくれた。あこがれが女じゃ今となってはあれだが……ああなりたいって思ってたんだ。俺。」


 コウタはシホの背中にそっと声をかけた。


 「それはきれい事で結局は自分が損するかもしれないってうちは気がついたんだ。小学校六年くらいから親父がおかしくなってさ、お母さん助けたくてけっこう自分を犠牲にしたけどさ……お母さん……浮気してて今、ほとんど家に帰って来ないんだ。


 たまたまお母さんが男と歩いている所、こないだ見ちまった。ねえ、こういうのって見返りとか求めちゃいけないって言うけどさ……でもさ……なんか良い事くらいあってもいいじゃん……。痛い思いしてもただこれ、痛いだけじゃん……。」


 「……。」

 コウタはシホの言葉に何も言い返せなかった。


 「あんたさ、まだうちの事許す気ないんだろ?でもさ、あんたに言われて気がついたよ。ユウスケにあたってもしょうがないってさ。」


 「……そうだな。ユウスケに当たってもしょうがない。」


 「ああ、裸で犬のモノマネ、してやってもいいけど……うち、そんな魅力的じゃないぜ。見せられる身体でもないしな。」


 「別にあれはただの脅し文句だよ。本当にやれって言ったわけじゃない。あんたが使ったあの時のハッタリと一緒さ。証拠なんて何もないのに証拠あるって言ってさ。」


 「だからその話を出すんじゃねぇって言ってんだろ!死ね!」

 「あんた、ひっどい言葉使いだな。」

 コウタはシホの言葉使いに眉をひそめた。


 「どうでもいいだろ。ほっとけよ。」


 「ほっとけない。……それからお前が昔やってた事は恥ずかしい事なんかじゃない。きれいごとかもしれないけど俺はあんたみたいな人間が増えればいいのにって思っているよ。」


 「そう。うちはもうどうでもいいけどね。」

 コウタの言葉にシホは振り返らずにただ空を見上げて答えた。


 ……あの時のシホの心はズタズタだったに違いない……。


 コウタはぼうっと松の木と空を眺めているシホの背を見、あの時屋上で見たシホの背中を重ね合わせていた。


 ……あの後俺は、この神社に来た。


 コウタは自分の運を試しに運命神が祭られているという神社に足を運んだ。おみくじを引く前に賽銭箱にお金を入れ、願い事を心の中で叫んだ。


 ……シホという女の子が母親をかばい、父親から虐待を受け苦しんでいる。俺はシホを助けたい。お願いだ。力を貸してくれ。


 コウタは祈るように願っていた。そしてその後、この神社の名物であるおみくじをそっと引いた。


 ……大吉が出たら俺は何のぶつかりもなくシホを助けられる……。


 別におみくじに頼っていたわけではない。気休めとしておみくじを引いただけだ。助けると決心した後の勢いになればとおみくじを引きにきたのだ。


 コウタはおみくじを広げた。

 中身は大吉だった。コウタは飛び上がるほど喜んだ。


 さっそく中身の内容を読む。


 ……あなたはあなたを想っている人の不幸を取り払い幸せを手に入れるでしょう。そしてあなた自身も近いうち、現在うちこんでいるものが評価され幸福が訪れます。


 「ここのおみくじは良く当たるらしいし、いい感じだな。現在うちこんでいるものか……。音楽……俺の歌が評価されるって事か?じゃあ、最初のはなんだ?俺を想ってくれている人なんていないな。シホが俺を想っているわけないしな。ま、大吉だからいいか。」


 コウタはおみくじをお財布に入れると気合いを入れて神社の階段を降りて行った。

 コウタが去って行って数日後、今度はシホがこの神社に現れた。


 ……別に本当にそうであってほしいなんて願ってないんだ。そう……願ってない。

 シホは神社の階段を登りながらずっとこの言葉をまわしていた。


 賽銭箱にお金を入れ願う。


 ……コウタがうちの事……好きでありますように……神様!お願い!うち、コウタに一目惚れしたらしいんだ!コウタの事、一日中考えちまうんだ……。


 うち、コウタの事好きなんだ。だけどコウタを前にするとひどい言葉をかけちまう。コウタがうちの事好きだなんて思ってないけどでも……。


 シホは願っている内に何が言いたいのかわからなくなっていた。


 「……あー、もう……何が言いたいのかわかんなくなってきた。」

 シホは頭をかきながら恋愛運のおみくじを引く。


 ……まあ……期待してないけど……


 シホはおみくじを開く。内心、ドキドキしていた。

 中身は大吉だった。


 「ウソ……。」

 シホは思わず叫んでしまった。慌てて内容を読む。


 ……あなたはもうすでに身近な人に想われています。後はあなたの気持ち次第です。


 短い文だったがシホは目を輝かせて喜んだ。コウタではないかもしれないのに勝手にコウタだと仮定して嬉しがっていた。


 「うち、もう我慢できない。告白しよう。」

 シホは頬を赤らめながら幸せそうに神社の階段を降りて行った。

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