かわたれ時…2織姫と彦星の運5
「やったー!やったよ!みー君!」
サキの声がジャパゴ会場に響く。ちょうどジャパバ大会の決勝が終わったばかりだ。
「サキ、うるさいぜ。耳元で叫ぶなよ。」
みー君は呆れた声をあげている。シホとコウタは呆然とその場に立っていた。
「負けた……。音楽スキル避けられた……。なんで……?」
シホはコントローラーを握ったまま画面に映った敗北の文字をただ見つめていた。
「天御柱神の特殊スキル、風を使って耳を塞ぐ無音。天若日子神の最強スキルをかわすにはこれを使うしかない。
だが、これは発生の条件が難しい。相手が攻撃した時に発生する風を少しずつ貯めてマックスになったら使用可。かつ、必殺技スキルを貯めていないと避けられても回避力の低下でどんな攻撃も当たる。
つまり、これを使った後は必ず必殺技を出さないとならない。」
みー君が説明口調でサキにそれを伝える。サキからシホに自分が勝った理由を話してほしいらしい。だが、サキには何を言っているのかさっぱりだったので首を傾げるだけで終わった。
「ごめん。みー君、全然わからないよ。」
「だよな……。相手の攻撃した後の風を集めるのがどんだけ大変か……。そんでついでに必殺技スキルをためないとならないんだぜ……。誰向けに作ったゲームなんだよこれ。恋する乙女がやるゲームじゃねぇだろ。」
みー君は大きくため息をついた。サキ達はいそいそとゲーム大会ステージから降りる。
サキはグッズを実況者から受け取り、天若日子神のグッズをシホにあげた。
「あ、あたし、天御柱神様のグッズだけでいいからわかひこはあげるよ。」
「ほんと!ありがと!うれしい!ほんとにいいのか?」
シホは喜んでグッズをサキから受け取った。
「お互いジャパゴに心奪われた同士じゃないかい。」
「あ、そうだ。ゲームの主題歌聞いた事あるか?」
シホにそう問いかけられサキは満面の笑みを見せて答えた。
「もちろんだよ!大好きすぎてリピートがとまんないよ!えーと、ヒコさんだっけ?まだ未成年だから顔出しとかしてないけど、音楽が好きで地道に活動してきたっていう……。あの甘いボイスがまた……。」
「そうそう!好きなんだ!あたしも大好きなんだ!」
ふたりはやたらと盛り上がっている。
「なんか盛り上がっているな……。」
みー君は戸惑いながら遠目で二人を眺めていた。
「やさしい指で~あなたに触れる~。るんるん……。」
「あなたはすでに~惹かれている~潤む瞳で見つめ合う~。」
二人は主題歌をデュエットで歌いはじめる。
「シホ……俺の歌で盛り上がるのはやめてくれよ。恥ずかしい。」
「!?」
ぼそりと恥ずかしそうにつぶやいたコウタにサキは飛び上がるほど驚いた。
「ん?え?ちょ、ちょっと待っておくれ……。今なんて?」
「あ……な、なんでもないです。シホ、行くよ。」
コウタは戸惑いながらシホをつつく。
「え?あ……そうだね……。じゃ、うち、行くわ。じゃね。」
シホはサキに手を振るとコウタに連れられてあっという間に去って行った。
「あ……行っちゃったよ……。まさか……あの男の子はヒコさん!?って……そんな事はないだろうねぇ……。」
サキは驚きと疑惑と喜びが混ざった顔をしていた。
「いや、あいつだろうな。ヒコさんは。あれはウソで言った顔じゃなかったぜ。」
みー君に突っこまれ、サキは表情を暗くした。
「あー……サインもらっとけばよかったよ……。顔出ししてないから全然わからなかった。なかなかイケメンだったしねぇ……。」
「お前、面食いか?」
「いや、違うよ。男はハートだと思うよ。現実と妄想は違うのさ。」
「ふーん。」
なんだか誇らしげなサキにみー君は再びため息をついた。
「ツイッターとかやっているかね?」
「さあな。やっているんじゃないか?」
「あっ!スマホ忘れた!いったん、太陽に戻ろう!」
サキは慌てて鶴を呼んだ。鶴は神々の使いで呼べばすぐに来る。
「こういう時の行動力は凄いな……。お前。」
とりあえず鶴で太陽神の祭られている神社まで戻り、そこから太陽へ続く門を開き、帰るつもりだ。サキとみー君はたったとジャパゴ会場を出る。夏の照りつける日差しがまぶしく、サキ達を焼いた。
その後、鶴はすぐに来た。駕籠を持ちこちらに頭を垂れる。
「よよい!むかえに来たよい!」
鶴はこの暑さをなんとも思っていないのか元気に羽をはばたかせた。
「またあんたかい……。やたらとあんたに出会う気がするねぇ……。」
サキは変な話し方の鶴と会話をしながら駕籠に乗り込む。みー君もサキの後を追い、駕籠に乗る。
「あー、外は暑いな。風を起こす気にもならねぇ。」
みー君は変なお面の下の自身の額を袖でぬぐい、汗を拭いた。
「お暑い所ご苦労様だよい。これから竜宮に向かうよい!」
鶴の発言にサキとみー君は目を見開いた。
「はあ?あ、あたしは太陽へ帰るんだよ!竜宮なんて行くかい!」
サキは慌てて叫んだが鶴は涼しげに言葉を続けた。
「いんやー、竜宮の天津様から太陽の姫君を連れて来いとの命令があったんだよい。だから輝照姫様をお連れするために来たんだよい。」
「あたしの命令よりも天津のが早かったって事かい!」
サキは頭を抱えた。
「そうだよい!」
鶴が元気に言葉を発した刹那、駕籠が宙に舞った。鶴が飛び立ったらしい。
「あー……逃げらんないじゃないかい……。なんで天津があたしを呼んでいるんだい?」
観念したサキは頭を違う方へ動かすべく頭を振った。
「それはわからないよい。」
「あー、そう。」
鶴の言葉にサキは呆れながら答えた。
「で?俺も行くのか?」
みー君は竜宮と聞いて少し嬉しそうな顔をしていた。ちなみに暑いからか今、みー君は仮面をずらしてつけている。
「天御柱様もお呼びだよい!」
鶴の声を聞いたみー君はニコニコと笑ったままサキを見た。
「だってよ?」
「なんで嬉しそうなんだい?みー君……。」
「だって、お前、竜宮だろ?自分がゲームの世界に入れるゲームがあるって聞いたぜ!」
「ああ、それで嬉しそうなのかい。」
サキはふうとため息をつきながら楽しそうなみー君を眺めた。
サキが呆れていた時、
「まあ、要件はまったく違うと思うがな。」
みー君は楽しそうな顔から一変して鋭い瞳をサキに向けた。
サキは一瞬ドキッとし、目を逸らした。こういうちょこちょこ見せるみー君の顔は鬼神そのものでなんだが怖かった。
「みー君、やっぱりあたし達……よからぬことに巻き込まれている……?」
「だろうな。」
恐る恐るみー君を見たサキにみー君はそっけなく答えたが自分の雰囲気が悪い事に気がつき慌ててサキから目を逸らした。
「実はあたしもジャパゴ祭からなんか変だなって思ってた所だよ。」
「ああ……なんかな……。無意識になんかやったかな俺ら。天津彦根の怒りはあまりかいたくねぇな。」
みー君はそっと駕籠の外を見た。駕籠にはなぜか窓がついているので外は丸見えだ。窓からしきりに雲が流れている。駕籠はもう空を舞っているので逃げるに逃げ出せない。
「とりあえずめんどくさいけど竜宮に行こう。」
「あ~、観念するしかないか……。とりあえず竜宮のゲーム、体験してみてぇなあ。」
サキとみー君は逃亡を諦め、それぞれリラックスをし始めた。




