かわたれ時…2織姫と彦星の運3
ずっと負けっぱなしだったけどこれで勝った。これでまた運命が変わるかもしれない。
何百万通り以上の確率でコウタが生きる未来があるかもしれない。おみくじでは完全否定されたけどきっとある。こういう分岐点を確実に変えていかないと同じ結末になってしまう。
うちは……ストーリーを何度も演じ続け、そしバグを起こす。この演劇のセリフを忘れて演劇をめちゃくちゃにしてやる。演劇させられているなんてうちは認めない。
「ねえ、コウタ。あんた、花火行きたい?」
「本当は行きたくないけど行かなきゃならない気がする。」
シホはコウタに問いかけた。コウタは渋面をつくりながら答えた。
「じゃあ、ダメそうだね。」
「ああ。ダメそうだ。これはきっと気がつくと花火大会の会場にいるパターンだ。」
コウタが肩を落としてつぶやく。
「じゃあ、とりあえずこれからを聞いてみるか。……地味子!」
シホは誰かの名前かあだ名を呼んだ。
「じ、地味……。やめてくれない?そんなふうに言うの……。神が皆華やかだと思ったら大間違いなんだから……。それで地味でもないんだから……。」
シホの目の前に突然、暗そうな女の子が現れた。オシャレな麦わら帽子に柄のないワンピースを着ており、なぜかけん玉を持っている。
「で?地味子、あのおみくじの神はなんて言ってんの?うちはあんたしか神様見えないんだから教えて。」
シホは地味子を睨みつけるように見つめた。地味子と呼ばれた女の子は人間に見える神様らしい。
「だから……地味やめて……。相変わらずコウタ君の運命は変わってないみたいよ……。」
地味子はぼそぼそと小声で言葉を発する。
「そうか。じゃあ、もう一度やり直す。今回の演劇は失敗だ。芸術神、語括神マイに伝えといて。」
「シホ、やれても後一回かもしんない……。」
やる気なシホに地味子は苦しそうに言葉を発した。
「あと……一回?なんで?」
「……。後一回か……。」
シホとコウタは歩きながらつぶやく。二人はジャパゴの会場を後にして夏の日差しにくらくらになりながら足を進めている。
「後一回の理由は……あの会場にいた神に気がつかれたから……。うっすらだったけど……次は自覚するくらい気がつかれる可能性がある……。」
地味子もシホとコウタの後を追い、歩く。
「その神、どこにいた?」
「……シホがジャパゴ決勝で戦ったあいつ……。」
「!」
地味子の言葉にシホは目を見開いた。
「あの子か……。でもジャパゴ大会出場とあの子と戦うのは俺の運命に組み込まれちゃっているから避けられないな。」
コウタが腕を組みながら唸る。
「マイのストーリー上、ジャパゴは避けられない。今回、はじめてあの子に勝って少し運命が変わったかと思ってたけどこちらの勝ち負けが変わっただけで大きく変わったりはしなかったって事か。」
シホも渋面をつくったまま暑苦しいビルの間を歩いて行く。コンクリートがやたら固く感じた。
「で……君達は今、その足で花火大会のあの海辺へと向かっている……。これも運命に組み込まれているから君達は……逆らえない。未来がこのけん玉の技のように沢山あったらいいのにね……。」
地味子は淡々と言葉を紡き、けん玉で日本一周を軽々とやってみせる。
「もう一回やり直そう。もしかしたらあの子に気がつかれるのがこの運命のバグかもしれない。もう一度演じ直す。」
シホは一つの結論に至った。
「……わかった。……もう一度竜宮とマイに協力してもらうわね……。」
地味子はそう言うとけん玉でまわしけんをしてけん先に玉を入れるとシホとコウタから離れていった。
サキはなんだか腑に落ちなかった。
前に夢かなんかかもしれないけど……この大会でみー君が勝ったような気がする。
あの子達が出てきて決勝で戦って……
みー君が瞬殺したけど天若日子神が生と死を司る神で特殊スキルで蘇って……みー君苦戦してたけど勝った。
それで……
あの子がこう言うんだ。
「あーあー……負けちゃった。なんで必殺技気がつかれたんだ?あー……若ちゃんのグッズぅ……。」
悔しそうにしている女の子を男の子がなだめていて……なんかかわいそうになったあたしは天若日子神のグッズを彼女にあげたんだ。
「あ、これよかったらどうぞ。あたし、天御柱神様が好きだから。」
「ほんと!やったあ!いいのか!若ちゃんのグッズもらっていいのか!」
彼女は本当にうれしそうにグッズをあたしから受け取ってた。
さっきみたいな緊迫感はなかったけどなんだかこちらの記憶のが正しい気がする。
その後みー君がこう言うんだ。
「いやー、あれはイケた。気がつくのが一秒早かったな。」
……ん?
なんであたしは会話まで完璧に覚えているんだい?夢かなんかだっていうのに……
……いや……違う……。
思い出した……。これは本当にあった事だ。
夢なんかじゃない……。
「みー君!」
「うえあ?なんだ?びっくりするじゃないか。」
みー君はサキがいきなり叫んだので驚いて飛び上がっていた。
「あたし……気がついたんだ!実は……」
サキの言葉はそこで切れた。突如この空間全体がまぶしい光に包まれ、サキは唐突に意識を失った。




