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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫25

 「わかったでしょう?ちゃんとあなたを見ている者は見ているのですよ。わたくしも……ね。」


 月照明神は笑みを浮かべながら月子に言った。


 「お姉ちゃん、私、お姉ちゃんみたいになりたかった。羨ましかった。お姉ちゃんさえいなくなれば自分があっという間に今以上の月を作ってやれるのにって思ってた。でも私じゃダメだった。


 結局何にもできなくて威張り散らして月はどんどん悪い方向へ行っちゃった。それでだんだんと怖くなってきて誰かにそれを言われるのが嫌で他の神を城に入れる事ができなくなった。入ってきた神は殺す……そのつもりでいた。私……狂っていたんだ。狂ってた。」


 月子は切ない笑みを浮かべはっきりとした声音で自分の心の中を語った。


 「……知っていましたよ。わたくしも狂っていましたから。」

 「お姉ちゃんは狂ってないでしょ。」


 月子はまた不機嫌そうにそっぽを向いた。月照明神はそんな月子を愛おしそうに見つめた。


 「いいえ。狂っていましたわ。あなたの本心が知りたくてわざと弐に落ちてあなたの本心を探す旅に出、そのためには月なんて今はどうでもいいって思ってて……大切な刀まで手放して剣王を動かしてしまいましたわ。わたくしも月神トップとしてふさわしくない行為をしたと反省しているところですわよ。わたくし達姉妹の評価はどん底ですわね。」


 月照明神は楽しそうに笑っていた。


 「お姉ちゃん……。」


 「やっぱりわたくし達は二人で一人なのですよ。バラバラになるとろくな事になりませんね。わたくしが月なんてどうでもいいと思っている時にあなたは必死で月をなんとかしようとしていた。わたくしが月を立て直そうと頑張っている時にはあなたは月を壊そうとしていた。面白いですわね。わたくし達、あの件を境に真逆の事をやっていたのですね。」


 月照明神は月子の頭をそっと撫でた。月子はフフと笑って「そうだね。」とつぶやいた。


 サキは楽しそうな月照明神と月子を見ながら笑い事ではないのではないかと思っていた。やはり月の神達もまともな神経を持っていないらしい。


 「笑い事じゃないよ!あたしはどうなるのさ!ここまで頑張って……報われないよ……。ここまでやって笑顔で済まされちゃあねぇ……。」


 「ごめんね。迷惑かけたわ。」


 月子はそっけなくサキにあやまった。サキはため息をついて頭を抱えた。


 「あのねぇ……。」


 「だいたい、あなたはワイズの条件でここに来たのでしょう?私達の為に来たんじゃないじゃない。あなたはもう関係ないはずだから帰っていいわよ。また会議の時でも会いましょう?」


 サキは頭が沸騰するくらいの怒りを覚えたがよくよく考えるとこれは月子の愛情表現だったのかもしれない。


 ……会議の時に会いましょう……ねぇ。引きこもりから外に出てあたし達と関係を持とうとしているって事かい。なるほどね。


 サキは沸騰する頭を急激に冷やした。


 「ふぅ……クールダウンしようかね。……そうだね。じゃあ、もう話は終わったからあたしは帰るよ。」


 「ねえ、今度はいつ来ても客神としておもてなししてあげるからね。あくまで客神だけど。」


 「こちらも太陽に来た時は手厚くお出迎えしてあげるよ。」

 サキと月子はお互い笑い合った。


 二人の様子を呆れた目で見ていたみー君は月照明神に向かい口を開いた。


 「で、どうせあんたの事だ。剣王からチイちゃんを奪い返す事をもう考えているんだろう?」


 「ええっ!?」

 驚いた声をあげたのはチイちゃんだった。チイちゃんはもう完全に剣王につく気でいた。


 「もちろんですわ。やっぱりこの子はわたくしの刀。わたくし達、月は剣王との取引をひっくり返すつもりでおります。ふふっ。やっぱり月は狂っていた方が美しいですわ。」

 月照明神は不気味に微笑んだ。


 ……こわっ……自分の目的が達成できた瞬間に豹変するとはな。


やっぱ俺は上には立てねぇな……。

 みー君はゾッとしながら半歩退いた。


 それぞれのトップは慣れ合う気などないらしい。メリットがある時は手を貸し、ない時は力になる事はない。つまり交渉が物を言う。


 ……こんな奴らの中でサキは大丈夫なのかよ……


 みー君はちらりとサキを一瞥した。サキはみー君を見てニッコリと笑った。


 ……あーダメだ。こいつじゃダメだ……。


 「何、あたしみて落胆しているんだい?せっかく笑顔でアイコンタクトしてあげたのにさ。」


 「いや……別に。」

 みー君の顔がよほど酷かったのかサキは渋い顔をしながらみー君に詰め寄った。


 ……まあ、こいつは利用されてなんぼか……。


 みー君は納得しながら腕を組んだ。


 サキとみー君の会話をよそにウサギが月照明神と月子に感動の意を告げた。


 「やっぱりお二人は頼もしいでごじゃる!これで月も安泰であります!自分ももっとお二人に貢献できるよう頑張るであります!」


 「あら、ウサギ、ありがとう。」

 「ふふ。喜んでくれているのは彼女だけじゃないみたいですわね。」


 月照明神がそうつぶやいた刹那、目を覚ました月神、兎達が一斉にこちらに向かって来ていた。


 皆、エスカレーターがあった場所に群がり上のフロアを見上げている。月子と月照明神は上のフロアからひしめき合う月神、兎達を見下ろした。


 「おお!月照明神様!帰って来られた!」

 「やはりお二人でないと月は動きませぬ!」


 先程まで散々だった月神、兎達は楽観的に二人に声をかけていた。騒ぐ者や踊り出す者もいた。


 「みんなー!ありがと!これからは二人で頑張っていくね!お姉ちゃんも帰ってきたしねー!」

 月子は大きく手を振り、月神、兎達に笑顔で答えた。


 「じゃあ、わたくしもアイドル好きの月ちゃんの為に頑張りますわね。」

 月照明神も笑顔で月神達に手を振っている。


 「おいおい……。」

 「なんなんだい……これ。ノリが軽すぎじゃないかい……?」

 みー君とサキは月の様子についていけずただ戸惑っていた。何と言うか色々軽い。


 「先程までまったくやる気がなかったのに……凄いですね……。」

 チイちゃんも困惑した顔でみー君とサキを見ていた。


 「狂っているぜ……。月の奴らは……。」

 みー君は顔をひきつらせながら楽しそうな月神、兎達を眺める。


 「じゃあ、皆さん!これから宴会にしましょうか!月の復活パーティです!」

 「わあああ!」

 月照明神の一言で兎、月神達は一斉に騒ぎ出した。ウサギは隣りで嬉し涙を流している。


 「と、いう事でこれから私達は月の復活パーティをするからさっさと出て行って❤」

 月子さんが愛嬌のある顔でニッコリと笑った。


 「んだとぉ!」

 これにはさすがのみー君も怒った。チイちゃんは「まあまあ……。」とみー君をなだめている。


 「み、みー君、あたしはもう疲れたよ。帰ろう。めんどくさいし。」


 サキは月神達とあまり関わりたくなかった。それに今、なぜかとても居心地が悪い。


 みー君はサキを一瞥すると鼻息荒く捨て台詞を吐いた。


 「あーはいはい。帰る。じゃあな。もうお前達とは会いたくないぜ。」

 みー君はイライラしながら乱暴にサキとチイちゃんの手を引っ張り、エスカレーターがあった場所から飛び降りた。


 「うわあああ!みー君!」


 サキとチイちゃんは絶叫をあげながら落下していた。そのままみー君は風を使い高速で一階まで向かった。通り過ぎる月神、兎達は皆、楽しそうに騒いでいる。


 ……こいつらの頭の中は平和でいっぱいなのかい……?


 サキは通り過ぎる月神達を呆れた目で流した。気がつくとサキとチイちゃんは城の外にいた。みー君が怒っているからかかなり乱暴に振り下ろされた。


 「なんだ!あっけなさすぎだろう!ゲームでもあんなクリアないぜ!あー、イライラする。助けた英雄にさっさと出て行ってだぞ!どうなんだ!そこんところ!」


 みー君は一人でプリプリ怒っていた。


 「みー君、現実はそんなもんだよ。第一、あたしらは月を助けようとして動いたんじゃない。あたしはワイズとの条件で動いてみー君はワイズに頼まれたから動いたんだろう?


 結果的に月を助けるのが目標になっていただけでさ、本心で助けに行ったわけじゃない。だから月はあたし達に感謝してないんだ。それと同時にワイズや剣王には決して負けないと言う意思表示も兼ねているんだろうね。


 だってあたしらにお礼を言ってしまったらそれはワイズの借りに繋がるじゃないかい。……月との取引はこれからかなり厳しいものになるね。」


 サキはもうすでにこれからを考えていた。太陽はまだ立て直しに時間がかかる。色々な神との交渉が大事になる可能性がある。


 「なるほど。不謹慎にも見えるがそういう意図もあるのか。やっぱ狂ってるぜ。」


 みー君は渋面をつくりながら悔しそうな声を出した。


 「えっと……オレはまだ剣王の所にいていいんです……よね?」

 チイちゃんがオロオロと二人を交互に見ていた。


 「いいんじゃないかい?月がチイちゃんを取り戻せるかはわからないからね。剣王だって月と同じくらい曲者だよ。ここからは西と月の戦いになるから大変だねぇ。」


 サキはやれやれとため息をついた。


 「じゃ、行くか。もうこんなとこ来たくないぜ。」

 みー君はさっさと鶴を呼んだ。鶴はどこにいたのかあっという間に駕籠をつれて現れた。


 「あれ?鶴って月や太陽にも来れるのかい?そういえば。」

 サキは月に行く時に鶴を呼べばよかったのではないかと思った。


 「高天原からなら行けるだろ。お前はどうやってあの会議に出たんだよ。」

 「あ……太陽に鶴がいたね……。なるほど、高天原からねぇ。」


 「いや、どうでしょうか。高天原でも月の門、太陽の門を開かないと鶴は入れないのでは?」


 二人の会話をチイちゃんがやんわりと否定した。


 「俺、今普通に鶴呼んだが……。」


 「うーん。じゃあ、もしかしたらあの会議の時、サルが門を開いて鶴を中に入れてくれたのかもしれないね。……という事は、月子と月照明神が月の門をご丁寧に開けてくれたって事かい?」

 みー君とサキに鶴が反応した。


 「月の門を開いてくれたんで入れたんだよい!」

 鶴は羽をばたつかせながら元気に返事をした。


 「やっぱりか。お迎え付きの帰りなんてなかなか待遇いいじゃないかい。……って、あんたは!」


 「よよい!よく生きていたってもんだ。やつがれはあんたらが急に消えたんでびっくりしたよい。」


 鶴は軽い口調で言った。この鶴は会議の時にサキをむかえに来た鶴である。まだ人型になっている所を見た事はないがサキはこの鶴にこれから度々会う事になりそうな気がした。


 「おい、サキ、チイちゃん!早く乗れ。あ、駕籠に足引っ掛けるなよ。」

 みー君はいち早く駕籠に乗りこんでおり、手を振りながらチイちゃんとサキを呼んでいた。


 「あーはいはい。今行くよ。チイちゃん行こうか。」

 サキは疲れた顔をチイちゃんに向けた。


 「は、はい!みー様とサキ様の横に座れるなんてオレ、幸せです!」

 チイちゃんは目にうれし涙を浮かべながらしみじみ言葉を発した。


 「いいから行くよ。」

 サキはチイちゃんを連れてみー君が乗っている駕籠に乗り込んだ。駕籠は意外に狭く、窮屈だったがサキはとりあえず早く帰りたかったので何も言わなかった。


 「よよい!出発するよい!」

 鶴の一声で他の鶴達が飛び立ち始めた。駕籠はあっという間に遥か上空に舞った。


 「……ねえ、ところで……」

 サキはぎゅうぎゅうに詰められている中、ぼそりとつぶやいた。


 「なんだ?」

 緊張しているのか顔を真っ赤にしているチイちゃんを避けながらみー君が聞き返した。サキは一呼吸おいて先を続けた。


 「ライは?」


 「ん?ライ?……え?ああああ!?」

 「そういえば……」

 サキのつぶやきにみー君とチイちゃんの顔が青ざめた。


 「あいつ!いつからいないんだ?」

 よく見るとライの姿がない。そういえば外に出てから会話をした覚えがない。


 「まだ月光の宮の方にいるのでしょうか。」

 「あー、でももう戻る気はしないねぇ……。」


 チイちゃんの言葉にサキは臭い物を嗅いだような顔になりため息をついた。


 「確かにな……。俺は戻りたくない。あいつは月子さんとやらの友神なんだろう?別にあそこで一緒に宴会しててもおかしくねえだろう。帰ろうぜ……。」


 みー君はうんざりした声を出しながら小型ゲーム機を取り出した。


 「まあ、別にいいけどね。……みー君はゲームモードになったのかい?」

 「暇だからな。イライラを晴らそうかなと。」


 「じゃ、あたしは寝る。変な起こし方しないでおくれよ。」

 「ういー。」


 サキはゲームをやりはじめたみー君を一瞥すると目をつむり寝る体勢になった。

 「あ、あの……オレはどうすれば……。」

 チイちゃんは天御柱神と輝照姫大神に挟まれ呆然としていた。


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