かわたれ時…1月光と陽光の姫23
「お、お姉ちゃん!?」
その姿を見るなり、声を上げたのは月子だった。
「月照明神様!」
その次に声を上げたのはウサギだ。
「月照明神だって?じゃあ、あんたがお姉さんかい?」
サキが困惑した顔で白拍子の格好をしている美しい女性を見つめた。
「まあ……色々あったんですけど……。」
月照明神はふふっと笑うと後ろを向き、手招きをした。刹那、ライとチイちゃんとみー君が現れた。
「ええ?ライとチイちゃんと……みー君!」
サキはライとチイちゃんにも驚いたが一番驚いたのは自分が斬ってしまったみー君が現れた事だった。
「ちょ、ちょ……ちょっとみー君……生きているのかい?」
「よっ!久しぶりだな。サキ。俺は元風だぜ?あれくらいじゃ何ともないぜ。それよりもお前……怪我して……」
みー君が最後まで言う前にサキがみー君に飛びついた。
「うわあああん!まじで生きてるじゃん!ほんと、やっちゃったかと思ってた!」
「やっちゃったってお前……。」
みー君は突然抱きつかれ少し照れていたがぶっきらぼうにつぶやいた。
「うんうん。なんかよくわからないけど君達、仲がいいんだねぇ。」
剣王は二人の様子を眺めながら大きく頷いた。月照明神はみー君とサキにお構いなしに口を開いた。
「剣王、色々助かりました。遅くなって申し訳ありません。ライが弐の世界に連れて行ってしまった月神、兎の回収に時間がかかってしまいまして……。
ライの作った世界が心地よかったみたいで皆散り散りでのんびりしていて探すのに苦労したのですよ。まあ、彼らはこちらに連れて戻ってきた段階で眠ってしまったので今は健やかに別の場所で眠っております。」
月照明神がため息をつきながらライに目を向ける。
「あ……色々ごめんなさい。」
ライがひかえめにあやまった。
「まあ、ライのおかげで戻ってこれたんだし気負う事はねぇんじゃねぇですか?」
チイちゃんがライをちらりと横目で見ながら声を発した。
「うん。ありがと。チイちゃん。」
「だからチイちゃんはやめてくれねぇですか?……まあ、いいっす。それより剣王様ただいま戻りました。」
チイちゃんはライから目を離すと背筋を正し、剣王にはっきりとした口調で声をかけた。
「うん。おかえり。」
剣王はチイちゃんの微妙な違いに気がついていたがあえて何も聞かなかった。
「え……?」
月子はチイちゃんに違和感を覚えた。あの刀は姉の刀だったはずだ。それがなぜ剣王の物のようになっているのか。
月子は少し考え、すぐに結論を導き出した。
……お姉ちゃんは……月神の霊的武器を剣王に売り、剣王を動かしたんだ。なんのために?
月子はまっすぐ月照明神を見つめた。月照明神の瞳は自分の濁った瞳とは違い、とてもきれいで輝いていた。
「お姉ちゃん、最低だね。刀を剣王に売ったわけ?」
本当はなんで自分の刀を手放したか素直に聞きたかった。だが月子の口から出た言葉は挑発的な言葉だった。
「そうですわ。わたくしは自分の刀を剣王に売ったのです。本当に最低ですわね。」
月照明神は他の事は一切しゃべらなかった。
「なんでそんな事したのよ!やっぱり私を恨んでたのね?お姉ちゃんの華やかな道を私がぶち壊したんだものね。それは私を殺したくもなるわよねぇ?弐の世界に落ちたから代わりに剣王に私を殺させるって事?なるほどね。」
月子は嘲笑を浮かべながら月照明神を見据えた。
「月子!もういい加減にしてよ!」
突然ライが声を上げた。いつも月子の言う事をハイハイ聞いていたライが月子にはじめて反発した。月子は戸惑いの表情でライに目を向けた。
「な、何よ!あんたが私に意見をするなんて……っ!」
「意見?もう素直になりなよ。月ちゃん。お姉さんが刀を手放した意味もわからないの?お姉さんは月ちゃんの心を知ろうとして剣王を使ったんだよ!それと私達がやった事でどれだけ月が疲弊したかわかっている?私達は絶対にやっちゃいけない事をやったの!私はもう耐えられないよ!月ちゃん!」
ライは絞り出すように声を発した。月子に言いたかった言葉がライの口から素直に発せられた。
「あんたがやったんじゃない!私は関係ないわ!あんたがお姉ちゃんを連れて来て弐に落としたんじゃない!私は悪くないわ!」
月子はライを睨みつけながら叫んだ。月子も必死だった。本当はやった事を認め、しっかりあやまるべきだった。だがそれをしてしまうと自分がしてしまった事の重さを実感してしまいそうでできなかった。
「もういい加減にしてよ……。ねえ……月ちゃん……私、このままだと月ちゃんの事大嫌いになりそう……。本当に……もう好きにはなれない。」
ライは悲しそうに涙を流した。それを見た月子は顔を曇らせ、ライから目をそらした。
ライは月子に向け言葉を続ける。
「でね……、この事、もうワイズが知っている事、私知っているんだ。みー君が月関係で来たって事はそういう事なんだよ。私がどうなるかわからないけどもう話すのは最期になると思う。……だから言っておくね。私、月ちゃんの事親友だと思ってたんだ。そしてね、大好きだったの。……ごめんね。月ちゃんはそう思ってなかったんだよね。気持ち悪かったよね。ごめんね。」
ライはどこかスッキリした顔で微笑んだ。




