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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫22

 「そろそろ時間切れかな?」

 剣王は刀を持ち直すと月子に近づいて行った。


 「ま、待って!お願い!待って!」

 月子はすがるように剣王を見たが剣王の瞳は冷たい。


 「答えは出たのか?」


 剣王は底冷えするような低い声で言雨を月子にぶつける。いつも笑顔でいる剣王もこうなると怖い。月子の目には自分が斬り殺されている情景が映っていた。


 ……私はやっぱり死ぬのは嫌……。

 ……ああ……なんで私、お姉ちゃんを消そうとしていたんだろう……。


 ……単純にお姉ちゃんが凄かったから私が評価されなかっただけじゃない。


 ……私の努力が全然足りなかっただけなのに馬鹿みたいにお姉ちゃんに嫉妬して……。お姉ちゃんを消した後に感じたむなしさは心のどこかでこれを思っていたからなんだろうね。


 ……もうお姉ちゃんがいなくなった今、そんな事を考えても意味ないよね。


 月子はその場に座り込み大声で泣いた。気がついた時には何もかも遅かった。姉との関係は修復できないものとなり、ライとの関係ももう取り戻す事はできない。


 「どうして……私はこんな事しちゃったのよぅ!ダサい!キモい!サイテー!もう……イヤ……。」


 月子は床を拳で叩きながら泣き叫んだ。


 「それがしはもう待てないねぇ……。答えが出ていないならこのまま罪を償ってもらうよ。」

 泣き叫ぶ月子に剣王は刀を振りかぶった。


 「!」

 月子の目に剣王の刃が映った刹那、ウサギとサキが月子と剣王の間に割り込んできた。


 「月子さんに……主上に何かあったら自分が許さないであります!」

 ウサギは気迫のこもった目で剣王を臆することなく睨みつけた。


 「ほお……。」

 剣王は感心したようにその小さいウサギを見つめた。


 「う……ウサギ……!やめなさい!あんたじゃ歯が立たない!殺されるわよ!」

 ウサギに向かい月子は必死な面持ちで叫んでいた。


 「自分は月子さんに心配されてとても嬉しいであります。冥土があるかわからないでごじゃるが最後の土産として持っていくであります。」


 「やめなさい!……剣王!この子は関係ないわ!礼儀を知らない兎なの!」

 月子は必死に剣王に向かい叫ぶ。剣王は黙ったままウサギと月子を睨みつけていた。


 「ねえ、剣王。」

 ウサギのすぐ横にいたサキは剣王を鋭い目で睨みつけ、口を開いた。


 「どうした?輝照姫大神。」


 剣王は先程の調子とはだいぶん違った。ヘラヘラ笑っている普段の様子はおそらく本当ではなく、冷たい瞳で威圧感のある声が本当の剣王なのだろう。これが彼の素だ。


 「あんたが月神の主を単体で裁くのはおかしいんじゃないかい?すべての権限をあんたが持っているわけじゃないだろう?ここであんたが月照明神を斬ったとすれば色んな方面で大問題になるんじゃないのかい?あんたは上に立つ者として失格だよ。あんたはそういう所しっかりしている男だと思っていたけどねぇ。」


 サキは力の入った目で剣王を睨みつけた。太陽の上に立つ者として剣王相手に臆しているわけにはいかなかった。


 「っふ。」

 剣王はふふっと微笑んだ。その微笑みがサキのかんに障った。


 「……?なんだい?あたし、なんか面白い事言ったかい?あたしは真剣なんだよ!」


 サキの声から言雨が降りまかれる。言葉が重圧になりフロア全体に広がった。ウサギは耐えられずに膝をついた。


 「ちょっと、サキちゃん、言雨の制御の仕方とか知らないのかい?困ったねぇ。体が重いよ。」


 剣王にそう言われたサキは慌てて雰囲気を元に戻した。


 「あ……わ、悪かったよ。ちょっと感情的になってしまったね。」


 「まあ、それがしが真剣な君を笑ってしまったからいけないんだねぇ。ごめんね。別に馬鹿にしようと思って笑っていたんじゃないんだけど……。こんなにダメ出しされたことがなくてねぇ。」


 サキは少し言いすぎたかとも思ったがそれよりもウサギの方が心配だったのでサキはウサギの方を向いた。


 「ウサギ……ごめんよ。大丈夫かい?」

 「……だだだ……大丈夫であります……。」


 ウサギからは大丈夫ではない声が聞こえてきた。サキはウサギの背中を撫でながら剣王を見上げた。とりあえず一度冷静に戻り、頭を冷やす事にした。


 ……よく考えれば剣王がこんな程度の威圧しか出せないわけがないね。てことは……言雨を制御して使っていたって事かい?


 ……この男、まったく本気を出していなかったんだ。もともと月子を消そうとかこれっぽっちも思っていなかったって事だ。


 「じゃあ……結局あんたの目的は……?」

 「ああ、やっときた。」


 剣王はサキの問いかけに答えず、ため息交じりにぼそりとつぶやいた。


 「……?」


 「ちょっと、だいぶん遅いよ。月姫。それがしサキちゃんにボッコボコに言われちゃったよ。間ももたないし、これからどうしようかと思ってたよぉ……。」


 剣王はサキ達ではない誰かに話しかけていた。


 「ごめんなさい。剣王。少し出るのに迷いまして……。」

 突然剣王の後ろにピンク色のロングヘアーをなびかせた美しい女性が現れた。

 


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