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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫18

 本当にたまたまだった。ウサギが月照明神の部屋にいたずら目的で忍びこんだ時、月子とライが部屋に入ってきた。


 ウサギは見つかりたくなかったので近くにあった机の下に慌てて隠れた。すぐに見つかってしまうかもと思っていたが二人は全く気がついていなかった。


 そのまま動くわけにもいかず、二人の様子をただうかがっていた。ライが筆を走らせながら何やら月照明神の部屋に絵を描いている。しばらく見守っているとライが筆をしまい始めた。


 刹那、変な感覚と共に部屋が宇宙空間へと変わった。壁も何もなくなってしまった。机もなくなってしまったのでウサギは慌て、その場にうずくまった。隠れる所がなかったからだ。


 そんな状態なのに二人はまったくウサギに気がつかなかった。月子とライの前にはドアが一つぽつんと立っている。ライはそのドアから外へ出て行った。


 臆病なウサギはその場から動くことができず、明確ではないが何やらよからぬ事が起こるのではないかと不安を感じていた。


 やがてライが月照明神を連れて部屋に入ってきた。ウサギは不安から月照明神を呼ぼうかと思ったが月照明神の顔がとてもせつなく悲しげだったので声をかける事ができなかった。


 月照明神は悟っていた。

 自分がこれから消される事を。


 「お姉ちゃん、勝手に部屋に入ってごめんね。」


 月子が月照明神に話しかけながらちらりとライを見る。ライは頷くとドアに絵をさらさらと描き、ドアを消した。


 「わたくしをどうするつもりですか?」

 月照明神は静かにつぶやいた。


 「私の心の世界、私の弐の世界で一生生活してもらうわ。」


 月子はそう言うと自分の世界を創造した。あたりは宇宙空間から崖に変わった。月照明神は崖の先端に立たされている。


 崖下は真っ暗で底が見えない。これはライが作った弐の空間の中で月子が想像して作った弐の世界。


 つまり、ライの世界ではなく月子の世界。月子の心にある上辺の世界だ。そしてこの崖の下は月子の本心、本当の弐の世界。月子すらも気がついていない無意識の世界。嘘で塗り固められていない本当の心。


 「お姉ちゃん。消えて。」


 月子は手から刀を出現させた。そのまま振りかぶり、カマイタチを発生させて月照明神を崖から突き落とした。


 「そっか。月ちゃん、わたくしが嫌いだってずっと言っていましたものね……。」


 月照明神は逆らわずに崖から落ちて行った。月照明神と月子の間で何があったかはわからないが月照明神は自ら落ちて行ったようにも見えた。


 ウサギは戸惑いながら落ちていく月照明神を見つめていた。しばらくした後、ウサギの身体は恐怖心で震えだした。


ウサギが衝撃を受け震えていた時、カランと近くで音が聞こえた。ふと顔を上げると目の前に古い刀が落ちていた。ウサギはその刀をなんとなく拾った。


 「これですっきりしたわ!ライ、ありがとう。じゃ、ここから出して。」


 月子は封印が完了した直後からがらりと雰囲気を変えた。風景は崖から先程の宇宙空間に戻っている。魂の入っていない月照明神の肉体がその場に横たわっていたが月子は無視をして歩き出した。


 ライは月子の雰囲気に戸惑いながらドアがあった場所を火で燃やした。ドアは木でできているためよく燃えた。燃やしたドアから壱の世界に通ずるドアが現れた。


 「燃やしたり、壊したりすれば妄想の世界は砕けるよ。妄想の弐は本当の心じゃないんだもん、やっぱり脆いよね。」


 「ライ、この城全体をピンク色にしなさい。弐の世界に姉を突き落としたと思われないようにこの城全体を上辺だけ弐の世界に入れ込む。弐の世界をいつでも出現させられるようにこの城全体を私の心とする。ライ、まずは城を『絵』にしなさい。妄想の建物にするのよ。私の想像通りのね。」


 「え……でもそうしたら月ちゃんは外に出られないよ。月ちゃんの世界だもん。月ちゃんは自分のカラに閉じこもる感じになっちゃうよ。」


 ライは戸惑いつつ言葉を発する。


 「構わないからやって。」

 「う、うん……。」


 その会話を最後に二人はぽつんとあるドアから外へ出て行った。


 ウサギはしばらく様子を見、持っている刀を一瞥するとぴくりとも動かない月照明神に近づいていった。


 「もし……。月照明神様……。ウサギであります!えっと、この刀は主上の物でありますか?」


 ウサギは月照明神に声かけをしたが月照明神は何も答えなかった。


 しばらく月照明神に声をかけていたウサギは一向に返事がないので諦め、崖から落ちてしまった方の月照明神を探しはじめた。


 「……っ!」


 少し歩いてウサギは驚いて立ち止まった。月照明神が倒れているすぐ近くから足が地面につかない。ウサギは慌てて踏み出した足を引っ込めた。そしてそっと下を覗き込んだ。


 相変わらずの宇宙空間だがウサギの遥か下で沢山の世界がネガフィルムのように蠢いていた。雪国のすぐ横でハイビスカスが揺れる真夏のビーチ、様々な世界が入り組みごちゃごちゃに動いている。


 これは感情がある生物が持つ妄想の世界。個人個人の世界だ。心という星を遠くから見た図である。入り込むと本人も理解していない心の真髄がある。


 その本心を隠すためベールのように妄想や嘘が覆いかぶさっている。その個人個人の嘘や妄想が今、ウサギの目に映っていた。


 ウサギはなんだか怖くなり、刀を抱きながらドアから外へ飛び出して行った。

 その後、気が動転していたウサギは持っていた刀を現世に捨ててきてしまった。



 自分達が意識を失っている時に行く精神の世界、その世界に意識を持った者や肉体を持った者が入らないよう月の者は監視する役目があった。


 月照明神の部屋から弐の世界を見る事ができるようになったのはライが城をショッキングピンクに染めた瞬間からだった。


 肉体があり、それにつつまれるように心があるのだが月子は心で肉体を守っている。つまり月子の心は城であり、その城の中にいる月子はただの肉体でしかない。


 故に月子は城の中では魔法使いのように弐の世界を出せ、兎やその他月神を自由自在に操れた。


 月子が姉の部屋と弐の世界を繋げた理由は決まっていた。


……弐に……いつでも気に入らない者を突き落とせるように。


 「月ちゃん……。本当に良かったの?」


 「もう私を月ちゃんって呼ばないで。月子さんと呼びなさい!月読の子、月子と!」


 「……月子……?」

 月子のふるまいにライは友達の距離がどんどん遠くなっているようなそんな気がしていた。


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