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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫17

暗闇の中、みー君はそっと目を開けた。


 ……あー……。びっくりした。斬られるのなんて久しぶりだぜ。

 ……まあ、ちょっと痛かったが俺は元々、風だしなあ。問題ないんだよな。

 ……人型だから大量出血だったが……ま、すぐにこんな感じに戻るんだ。


 みー君は真っ暗な空間に無傷でフヨフヨと浮いていた。


 ……で?ここは何だ?……ん?


 『みー君……あたし……みー君殺しちゃったよ……。』

 どこからか悲痛の叫び声が聞こえる。というかこの空間に響いている。


 ……おいおい。勝手に殺すなよ。この声……サキか?


 『みー君は弐の世界に行っちゃった……。あたしのせいだ。どうしよう。あたしのせいだ!』


 サキは泣いているのか声が震えている。


 ……弐の世界か。弐の世界でサキの声がするって事はだ、ここはサキの心の中か?


 『みー君はゲーマーでちょっとめんどくさかったとこもあったけどいい神だった。何回も死にかけたけど……それは半分くらいみー君のせいだったけどでもみー君はいい神だった!』


 ……なんか嬉しくねぇ言い方だな……。もっと気のきいた事を言えないのか。こいつは。


 ……しかし、心の中でセキララはなかなか怖いな……。


 『みー君……帰って来ておくれよ……。みー君……怖いよ……。あたしは……どうすれば……。』


 ……。


 みー君は足を組み、頬づえをつき、寝転がりながら黙ってサキの言葉を聞いていた。


 『あたしは何かとみー君に頼りきってた。みー君は優しくて……いざという時は強くて……あたし、ちょっと尊敬してた。』


 ……こいつは何こっぱずかしい事を言っているんだ?こりゃあサキが絶対に言わなそうな事だが……これがこいつの心の中か?


 ……なるほどな。可愛いとこあるじゃねぇか。ふーん。


 『みー君……。もう言っても無理かもしんないけど……助けておくれ……。あたしはもう……頭真っ白でどうしたらいいかわからないんだ……。』


 悲痛な叫びがみー君の顔を曇らせる。


 『みー君……。みー君……。』

 サキの声がだんだんと小さくなっていった。我慢できなくなったみー君は咄嗟に叫んだ。


 「だああ!みー君、みー君うるせえな!お前は蝉か!」


 『……!?』


 みー君の叫びにサキは戸惑いを見せていた。いきなりみー君の声が心の内部から聞こえたのでサキ本人、何が起こっているのかわかっていないのだろう。


 「俺は生きてるぞ。心配するな。……それと、落ち着け。そしてよく月子を見ろ。月子を渦巻いている感情はなんだ?よく見て考えろ。俺にはただの嫉妬にしか見えないがな。」


 『嫉妬……。』


 サキはそれだけつぶやくとそれ以降何も話さなかった。そのかわり、風景が真っ暗な空間から暁の宮のサキの部屋に変わった。これがサキの心の常時の風景らしい。


 ……さっきの真っ暗はサキの心を映していた風景だったんだな。しかし、自分の世界が部屋の中とはイマジネーションのねえ奴だ……。まあ、いいが、これで一応サキの心は安定したか。


 ……それはいいとして、俺はここから出られないし、ちょっと寝るか。


 「ダメ。あなたはこちらに来るの。」

 みー君が寝ようとした時、耳元でライの声がした。


 「ん?なんだ?芸術神ライじゃないか。チイちゃんをどこへやった?」

 「チイちゃんの居場所に今から行くの。チイちゃんに会わせてあげる。」


 「別にあいつに会いたいわけじゃないんだが弐から壱に出してやらないとサキがうるさいからしかたないか。お前が何を企んでいるか知らないが……ああ、とりあえず今は眠い。」


 佇むライをみー君は眠そうな顔で見上げる。


 「眠いと思うけど弐の世界で肉体を持ったまま寝るのはけっこう危険だよ。起きてた方がいいよ。それから何も企んでないよ。……まず、立って。私について来て。」


 「んん……。」

 みー君はライに従い重い腰を上げた。ライは怪しかったが他にやる事もないのでみー君はついて行く事にした。



 ……あたしの心の中でみー君が叫んでた。

 ……みー君は月子をよく見ろって言ってた。


 蹴られ続けながらサキは月子を見てみた。


 「……っ!な、何よ!その目!」

 月子は一瞬動揺したが先程よりもさらに強く蹴りつけはじめた。


 サキは月子の瞳が暗く、濁っている事がわかったと同時に月子が邪魔な存在をどうやって消してきたのかわかってきた。


 ……なるほど。じゃあ、彼女のお姉さんもそういう理由から消されたわけかい。


 サキがそうぼんやり思った時、月子とサキの間に人影が入り込んできた。


 「……?」

 サキは一瞬何かわからなかったがすぐにウサギである事がわかった。


 「あんた、どういうつもり?私に逆らったらどうなるかわかっているのかしら?」

 月子の眼力に怯えながらウサギはサキの前に立ち、口を開く。


 「じ、自分は……月子さんの振るまいが少し……おかしいと思うのであります!」

 「……っ!」

 ウサギの一言で月子の表情は憎しみと怒りで埋め尽くされた。


 「月子さん……自分は……」


 「うるさい!あんたも私を裏切るつもりなのね。ただの兎が偉そうに言ってんじゃないわ!」


 「違うのでごじゃる!月子さ……」

 ウサギの言葉はそこできれた。月子の刀がウサギの首すれすれで止まったからだ。


 「黙れ。それ以上しゃべったら反逆罪として斬首にするわ。」

 「……。」


 ウサギは拳を握りしめ、目から涙をこぼしていた。月子に自分の気持ちを知ってもらいたかったが死を前にしては何もしゃべれなかった。ウサギはそれが悔しかった。自身の不甲斐なさを恥じた。


 サキはウサギの胸中がなんとなくわかった。


 「ウサギ、守ってくれてありがとう。あんたはよく頑張ったよ。悔いる事なんてないよ。あんたは頑張った。」


 サキはゆっくりと立ち上がるとウサギの頭にそっと手を置いた。サキの顔は蹴られ続けたせいでひどい有様だ。だが瞳には先程とは違う光が宿っていた。


 「……っ。」

 サキの目を見た月子は戸惑っていた。仲間を消してもすぐに新しい仲間を作ってしまうサキになんだかわからない憤りを覚えた。


 ……なんでこいつは尊敬の対象になれる?なんで頑張っている私はそういうふうになれない?


 ……どうして?


 ……こいつさえいなくなればそれでよかったはずなのに……なんでこんなにむなしいの?


 月子は刀を握りしめた。


 その時ふと自分が消してしまった姉の事を思いだした。


 ……姉を消した時も……嬉しいはずなのになんだかむなしかった。


 あれは今からどれだけ昔だろうか……もう思い出せないが月子は姉が心底嫌いだった。


 月照明神は二人で一神だというのにまわりは姉しか評価しなかった。自分はただ姉についてまわる従者のような扱いだった。どんなに頑張っても評価されない。


 姉が間違いを犯してもたいして罪にならなかったが自分が同じ間違いを犯すとひどい罵声を浴びせられた。落ち込んで部屋にこもっている時、姉は必ず必死で月子を慰める。月子はそういう所も大嫌いだった。


 「ねぇ、月ちゃん。あれはしょうがないですわ。間違いは誰にでもある。だからお部屋から出て笑顔を見せて。いつまでも落ち込んでいてはいけません。あ、そうですわ、これから一緒においしいおかしを食べましょう?もらいものですがなかなかおいしいおかしが……」


 ドア越しで姉の声が聞こえる。誰のせいで自分がこんなに苦しんでいるのかわかっていない所が月子の勘にいつもふれていた。


 「うるさい!お姉ちゃんには関係ないでしょう!どっか行って!」

 「……そう……。ごめんなさい。月ちゃん。」


 だいたい姉は月子が拒絶すればそれ以上入り込んでくる事はない。いつも切なそうな声で去っていく。


 月子と姉はそんな関係だった。月子は姉とほとんど話した事はなかったが、ある時姉が月子にふと話しかけてきた。


 「ねえ、月ちゃん?わたくし達は姉妹で一神でしょう?何故かどんどんと月ちゃんと離されているような気がするのです……。月ちゃん、何か悩みがおありなのでしょう?姉が相談に乗りますよ。」


 姉は悲しそうな目で月子を見つめていた。


 ……悩み?余裕のあるお方はなんでも一緒に考えてくれるのね。


 ……人の気も考えず……なんの考えもなしに……。


 月子は姉を憎しみのこもった瞳で睨みつけた。


 「私はあなたが大嫌い。話しかけてこないで。」


 「月ちゃん……。一体どうしたのですか?わたくしがなにかいたしましたか?してしまったのでしたらごめんなさい。そしてわたくしが何をしてしまったのか教えていただけませんか?」


 「……っ。」

 月子はぬけぬけと話しかけてくる姉に腹が立った。


 「月照明神様。そろそろ会合のお時間です。」


 近くにいた月神の男が静かに口を開いた。月子は会合に出るべくさっさと歩き出したが月神の一人に止められてしまった。


 「あ……お姉様のみお呼びがかかっております。申し訳ありません。」

 「……!」

 月子は唇を噛みしめその場に立ち止った。


 「ごめんなさい。月ちゃん。すぐに戻りますから。何かおかしを買ってきますね。後で一緒に食べましょう?」


 姉は複雑な表情で微笑むと月神に連れられて行ってしまった。姉は歩きながら月神達と楽しそうに笑い合っていた。


 月子にはそれがたまらなく悔しかった。


自分も月神達に馬鹿にされる事なく同士としてそこに立ちたい。

 月子は拳を握りしめたまま滲む瞳で姉を睨みつけていた。


 ……あいつが消えれば……私はあそこに立てる……。


 月子はだんだんそう思うようになってきていた。このあたりから月子は姉を消す計画を立て始めた。自分に非がなく、事故に見せかけて姉を消す方法を……。


 姉を消した後、姉がいなくとも色々できるという事を証明し、消えた姉の分も背負う事によって同情と称賛を得る計画だった。


 そこで月子は芸術神ライを利用する事にした。月子はライに友としてふるまい、つながりを深めた。女は演じる生き物だ。月子も演じる事は得意だった。ライは正直者であり真面目で月子が発する言葉を何一つ疑わなかった。


 「お姉さんを弐の世界に突き落としたいだって?」


 十分仲良くなってから月子はライに計画を話した。ライは戸惑いの表情で月子の言葉を反芻した。


 「そう。あなたならできるでしょう?今は何も聞かないで私に協力してくれないかしら?」


 「なんか重要そうね。」


 ライが真面目に月子の話を聞いてくる。月子は頷きつつ、

 「私達……友達よね?」

 とライに念を押した。


 「もちろん。困った時は私が助けるよ。今回の件もそうなんでしょ?」


 「うん。これはとても重要な話よ。でね、この事は誰にも知られちゃならないから黙っててほしいの……。」


 「そっか。色々月ちゃんも大変なんだね。……わかったよ。月ちゃんのためだもんね。私、黙ってるよ。」


 「ありがとう。頼りになるわ。」

 心がまったく入っていない月子の言葉でライは微笑み、顔を赤く染めた。


 しばらくしてライの心を操り始めた月子は姉の封印を本格的に進めはじめた。まず、姉を封印する場所。


 上辺だけの弐の世界を作りそこに姉を閉じ込めて逃げられなくしてから本当の弐の世界に突き落とす方法を考えていた。


 上辺だけの弐の世界、妄想や発想などの世界は芸術神ライが作る事ができる。月子は隣りにある姉の部屋を弐の世界に変えるようにライに指示を出した。


 「これでよしと。」


 ライは筆をクルクルと動かしながらできた物を楽しそうに見つめた。ライがした事は姉の部屋に絵を描いただけだ。暗い中、キラキラと輝く星がなんとも美しい宇宙をライは姉の部屋で表現した。


 「あら、きれい。まるで本当の宇宙みたいだわ。……さて、後はあいつをどうやってこの部屋に入れるかだわね。あいつは意外に鋭い。色々と見透かされてしまうような気がするのよね。」


 「私がうまく連れて来てあげるよ。まかせて。」

 ライは月子に持ち上げられたからか自信に満ちた顔で大きく頷いた。


 「本当?あなたならなんとかなりそうね。ごめんね。こんな役までやらせてしまって……。」


 「月ちゃん、いいよ。私は月ちゃんの力になりたいから別に苦じゃないよ。」

 月子はライの言葉を聞き、わざと落ち込んだフリをした。すまなそうにしておけば同情もかえる。


色々計画通りに行き、本当は大笑いしたかったところだが抑えた。ライが姉を呼べば姉は必ず来るだろう。ライは東のワイズ軍から来た客神だからだ。


 ライが弐の世界を作り、ついでにライが姉を呼び出してくれたら月子はまったく手を汚さず、誰からも責められずに計画を遂行できる。


 「じゃあ、月ちゃん、ちょっと待っててね。」

 「うん……。ここで待ってるね。」


 ライは月子の返事に微笑むと姉の部屋から出て行った。ライが消えてから月子は笑いをこらえきれず大声で笑った。


 姉をここに連れてきた後、ライが何もさわっていない出入り口のドアに絵を描いて退路を絶てば姉は抜け出す事はできない。その後、姉を本当の弐の世界に突き落としてからライに脱出口を作ってもらえば計画は終わる。


 私の計画は成功しそうだわ。ふふ……。


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