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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫15

月子はこちらを睨みつけている二人をいらだちながら見つめていた。


 ……うざい!うざい!なんなの?あんな目で私をみるなんて……。

 ……あいつは……あいつの母親は人間だったのに……アマテラスの加護までうけて私よりも良い待遇……。


 ……最低な女なのになぜ皆持ち上げるの?

 ……私の領域まで入って来て……ずうずうしい……。

 ……絶対に許さない。


 月子は近くにあった兎のぬいぐるみを踏みつぶした。


 ……私には仲間はいない。

 ……そう。

 ……私を認めてくれる神はいなかった。

 ……私は頑張ったのに努力したのに……


 「あいつやお姉ちゃんに全部っ!全部持っていかれる!」


 月子は何度もぬいぐるみを踏みつぶす。兎のぬいぐるみから綿が飛び出て手足は無残にちぎれていた。その兎のぬいぐるみと重なるように一瞬、姉の顔が映った。


 「あいつは上手に消せた……。こいつらもうまく消してやる……。」


 そうやって生き残らないと私はいつまでたっても認められないままだ。

 月子は悲しみを含んだ瞳で静かに笑っていた。



 サキ達はもう一度天守閣の中へ入った。ピンク色の廊下の先にエスカレーターが動いていた。エスカレーターももちろんピンク色だ。


 「何と言うか……ピンク色には慣れたが城の内部にいる月神、兎達に全然会わないのが気になるな。」

 みー君はエスカレーターを登りながらつぶやく。


 「確かにねぇ。恐ろしいくらい静かだよ。」


 先程から何も物音がしない。エスカレーターが動く音のみ響く。とても不気味だ。


 「む……。ここら周辺にいる皆の心が弐にいるでごじゃる。肉体は行っておらぬ故、眠っている状態であります……。城の外にいた者達は肉体ごと弐に行ってしまわれたでありますが……。城内の者達はまだなんとか……。」

 ウサギが怯えながらあたりを見回した。


 「なんでわかるんだ?お前、あれか?パーティの中にいる物知りキャラか?」

 「みー君!声がでかいよ!」


 「お前もな……。」

 サキとみー君がこそこそ話しているとウサギが恐る恐る声を出した。


 「自分達は弐の世界の上辺と月を守っているであります……。月神、兎も睡眠はとるのでシフト制で休んでいるのであります。


 その時に何人弐に行っているのかとか……まあ、つまり何人寝ているのかを随時把握しているのでごじゃる。月の兎の特殊能力とでも言うか、とにかく兎は弐にいる人数を把握する能力を持っているのでごじゃる。」


 ウサギは話しながらじわっと瞳を潤ませた。今にも大泣きしそうな雰囲気だ。


 「わっ……待つんだよ。こんなところで泣かないでおくれ。」

 サキは慌ててウサギの涙をふく。ウサギは同胞が消えてしまった事にだいぶまいっているらしい。


 「こんな状態なのに月子ってやつは何やってんだ?って、こりゃあ月子がやったのか。」


 みー君は二階から三階へ行くエスカレーターに乗りながらつぶやいた。


 「つつつ、月子さんを悪く言うなであります!月子さんはそんな事をするお方ではないでごじゃる!」


 「でもその月子ってやつはサキを殺そうとしていたんだろ?悪く言うなって言う方が無理じゃねぇか?」

 みー君のそっけない言動にウサギは突然怒り出した。


 「月子さんはそんな神じゃないであります!絶対に同胞にひどい事したりとか……し、しないであります!」


 ウサギはどこか必死の面持ちでみー君に掴みかかるように言葉をまくし立てる。


 「……お前も……もうわかってんだろうが。こういう状態になったのは月子のせいだとな。何むきになってんだよ。隠したい事情でもあるのか?」


 「みー君、やめなよ。兎には兎の何かがあるんだよ。きっと。」

 みー君とウサギの会話が喧嘩腰になってきたのでサキは慌てて止めに入った。


 「お前は黙ってろ。」

 みー君はサキをじろっと睨みつけた。それを見たサキはなんだかカチンときた。


 「黙ってろってなんだい!あんたがそんなデリカシーの無い事ばかり言うから……!」


 「わわわ、待つであります!喧嘩はよくないでごじゃる!」

 止め役だったサキ本人が喧嘩腰になってしまったので今度はウサギが止めに入った。


 「喧嘩なんてしてねぇよ。こいつが勝手に怒ってるだけだろ。」

 「はあ?」


 サキはみー君の言動でさらに腹が立った。みー君は涼しげな顔で四階に続くエスカレーターに乗る。


 「少し落ち着けよ。俺は別に喧嘩しようってわけじゃない。ただ……言い方が悪かったな。すまない。お願いだ。少し何もしゃべるな。俺はウサギと会話がしたい。」


 みー君の鋭い瞳にサキが映る。みー君はサキとは違いとても冷静だった。それを感じたサキはみー君が何かを言おうとしていると判断した。


 「みー君。あんたはあたしよりもはるかに長く生きている。あんたがまわりにイライラをぶつけるわけないね。イライラしてたのはあたしだ。わかった。少し黙る。」


 「お前、イライラしていたのか。」

 みー君は少しだけ驚いた顔をしていた。


 「当たり前だよ。太陽も思うように動かせてないっていうのに他のやつらから月の様子を見て来いって言われておまけに月のやつらにあたしは殺されかけるし。チイちゃんもどうなったかわからない!」


 サキは愚痴をこぼしながら深呼吸をし、心を落ち着けた。


 「そうだな。お前は不運だ。不運だが死ぬほどの不運ではない。あの男も確実に死んだとは言いきれない。」


 「まあそうだねぇ。確かにまだ何にもわかってない。もう、イライラしてないよ。……とりあえず、あたしはいいから二人で話しな。」


 みー君の不器用な慰めに満足したサキはため息を再びつくと黙り込んだ。


 「わりぃな。……で、ウサギ、先程はまわりくどく言ったが……俺にはやっぱり難しいんで、簡潔に結論を言おう。」


 みー君はそこでいったん言葉をきった。ウサギは瞬きをしながら言葉の先を待っている。


 「これ、だいぶん前に起こった月照明神がいなくなったそれにとても似ているんだが……。月神の王は姉妹そろって一つの神なんだろう?月子は妹だったはずだ。


 姉はどうした?消えたのか?それとも消したのか?先程むきになってたのはそれだろう?お前は何か知っているな?」


 「!」

 みー君の発言にウサギは狼狽していた。


 「し、知らないであります!げ、月照明神様……いえ、主上は自ら弐の世界へと向かわれた。自分達に何も言わずに行方不明になられた。つ、月子さんにも何も言わずにいなくなられた。


 自分達は主上が何らかの理由で弐に行き、その理由が解決したら月に戻ってくると思っているであります。」


 「それは苦しい理由だな。お前、さっき弐の世界に入り込んだら出て来れないって言ってたじゃないか。お前は実際、自ら弐に行く月照明神を見たのか?月子にそう言われただけなんじゃないのか?」


 みー君の諭すような口調にウサギは黙り込んだ。しばらく静寂が包んだ。みー君はウサギが何かを口にするまで声を発さないつもりのようだ。黙ってウサギを見据えている。


 やがて観念したようにウサギがぼそぼそとつぶやきはじめた。


 「先程述べた理由は……自分が他の月神様や兎達に流したウソでごじゃる。自分は月神様の使いでごじゃる故……どんな状態でも月神様の意向に従う。……だが……もうそれは先程の件で守れそうにないであります。」


 「という事は……お前は本当を知っているんだな……。」

 みー君は一つの結論を導き出し、大きく頷いた。ウサギはみー君の鋭い瞳に怯えながら続きを話しだした。


 「自分は月子さんが姉君を弐に突き落とすのをこの目でみたでごじゃる。なぜそうなったのかはわからないでごじゃる。ただ、自分は誰にも悟られぬようにこの件を必死で隠してきた。


 誰にも見られていなかった故……自分は知らない顔をしようと思ったのでごじゃる。これは月子さんにとって外に漏らしてほしくない内容だと判断し、自分はウソを言って隠ぺいしたであります。」


 ウサギは怯えながらゆっくりと言葉を漏らした。


 「なるほどな……。まあ、お前の判断も間違ってはいないな。」

 みー君はウサギから目を離すとサキに目を向けた。サキが意見を言うか言わないかで迷っているような感じだったからだ。


 「なんだ?なんか言いたそうだな。」


 「みー君、ごめん。しゃべるよ。……今の話を聞くかぎりだと……ウサギの判断はあまり正しいとは思えないよ。現場を見ていたんだったらウソで隠ぺいするんじゃなくてさ、原因究明とか色々するべきだったんだとあたしは思うよ。見て見ぬふりってよくないんじゃないかい?」


 サキはみー君を見た後、ウサギに目を向けた。ウサギは唇を噛み、うつむいていた。


 「まあ、お前の言っている事も正しい。が、よく考えろ。今となっては月子の不審感が月神達に知られているが当時はどうだったか。


 ツクヨミ神の加護を受け、月照明神は尊敬の対象だったはずだ。そんな状態でこのチビ兎が、『妹が姉を弐の世界に突き落とし消した』と言ってしまったらこいつは間違いなく死刑だ。こいつには何の力もない。ただの反逆罪だ。保身のためならこいつの判断は正しい。


 ただ、こいつの身は相当苦しかったと予想される。一人で誰にも相談せず、月子に不審感は持っているものの従順で……子供なのに精神がよく持ったものだ。」


 みー君はウサギの頭にそっと手を乗せた。


 「……みー君……。……そうか。それを考えてなかったよ……。あたしの言った事は正義の味方きどりで何も考えていないだけだ。」


 サキは自分の意見を恥じた。うつむき、何を言うか迷った。サキの顔を見たみー君は突然ふっと笑った。


 「な、なんだい?」

 「いや、変な顔しているなと思ってな。」


 「変な顔だって?」

 「いや、怒るな怒るな。……お前の言った意見だがな、それもあっているぞ。弱い立場のやつができなかったら強い立場のやつらがやればいいんだ。原因の究明や、月子に関しては現在やっているだろ?」


 みー君がサキに向かい笑いかけた。刹那、サキの瞳に輝きが戻った。


 「そ、そうだね!そうだ!あたしがやればいいんだよ!って……あれ?あたし、なんであんたにいいようにコントロールされているんだい?」


 「モチベを上げただけだろ。コントロールなんてそんな……お前が自機だったらまともに動かないだろうな。AボタンのコマンドなのにBボタンのコマンドやるだろ?」


 「まったく、たとえがいちいちわからないんだよ……。みー君は。」

 サキに元気が戻った。みー君は満足そうに頷き、意味深に「さてと」とつぶやきエスカレーターの到着地点を睨んだ。


 「みー君?ん?……ウサギ?」


 ウサギが静かにサキの腰回りにひっついてきた。ひどく怯えているようだ。サキはふと何かを感じみー君が向いている方向を向いた。


 「!」

 エスカレーターの到着地点に月子が立っていた。氷のような瞳の奥には憎悪が見えている。


 「あれが月子か。実際見るのははじめてだな。」

 みー君は不気味に笑った。


 「あれが月子……不思議とはじめてな感じがしないね……。なんでかな。」

 サキはなぜか懐かしい気持ちになっていた。会った事がないというのにどこかで会っているようなそんな気がした。


 「おそらく、今、概念化しているツクヨミ神とアマテラス大神が関係しているんだろうな。サキはアマテラス大神の色々を受け継いでいてあいつはツクヨミ神の色々を受け継いでいる。


 もともとあのツクヨミ神とアマテラス大神は姉弟だ。色々細かい理由があって仲が悪くなったらしいがな。」


 「遠い記憶がこんな懐かしい気持ちを呼び起こしているってわけかい。」

 サキは月子を睨みつけた。


 「!」

 刹那、月子が手から刀を出現させ、勢いよく振るった。刀からはカマイタチが飛び、エスカレーターを粉々に破壊した。


 「うわあ!ちょっ……!」

 「いきなりかよ!」

 みー君は慌てて風を起こし、三人の落下を防いだ。


 「ぎゃあああ!」

 しかし、みー君は元々厄災の神、台風じみた風しか出せずサキ達は吹っ飛ばされる形となった。


 だがなんとか月子がいるフロアまでは到達する事ができた。地面に叩きつけられる勢いだったがサキもウサギも不思議と怪我はなかった。


 「おっと、すまん。怪我してないか?いきなりだったもんで制御がちょっとできなかった。」


 「あ、あんたはいつもそうじゃないかい……。」


 慌てているみー君にサキは吐きそうになりながらも言葉を発した。エスカレーターは原型を留めていないくらい破壊されていた。もう足を乗せる所もない。


 「ま、まあ、ここから落ちるよりはマシでごじゃる……。……つ、月子さん……自分、やっぱりこのままではいけない気がするであります……。」


 ウサギはサキにしがみついたまま月子を怯えた目で見つめていた。


 「月は吉凶を占う所でもあるわね。厄神を連れてきたって事は凶かしら?そうね。さっきので全員しとめられなかったんだもの。私にとっては凶だわ。」


 月子はウサギの問いかけには答えず不気味に微笑みながらサキ達を睨みつけていた。


 「月子さん!外の警備をしている者達が弐の世界へそのまま入り込み、城内の者は魂が弐に行っているであります。なんとか元に戻してもらえないでごじゃるか……?」


 ウサギは震える身体を押さえつつ叫んだ。月子の瞳は暗く、冷たいままだ。


 「あなたは私に意見できる立場ではないわ。このままでいいのよ。場がおさまったら元に戻すから……。」


 「とはどういう事だ?」

 みー君がウサギの代わりに月子に質問をした。その瞬間、月子の顔に冷笑が浮かんだ。


 「あなた達はもう外へは出られないわ。」

 「ほお。」

 みー君の瞳が青色からスウッと赤色に変わる。サキはみー君の豹変に驚きながらも剣を手から出現させ構えた。


 「やっぱりすべての原因は月子か……。話し合いでなんとかなりそうにないし、どうしたもんかね。」


 「さて、原因究明はどうしたものか。……しかし、舐められたもんだな。俺はイザナギ神とイザナミ神との間に生まれた子供だぜ?」


 「知っているよ。みー君。」

 サキとみー君の間に恐る恐る入り込んできたウサギがきょろきょろと二人を見上げていた。


 「じ、自分に何か……できる事は……?」

 「今はまだいい。少し退がっていろ。」


 「そうだね。話せる状況でもないし、もうちょっと様子見をするべきだね。」

 ウサギはサキとみー君の答えを聞き、おとなしく後ろに退いた。


 「みー君、いいかい?これは敵を叩きのめすわけじゃないよ。いいね。」

 「わかった。」


 二人は月子に向かい構えをとった。このまま、月子と対峙をし、チイちゃんが帰ってくるとは思えなかったが二人はここからどうすればいいかわからなかった。


 ただ、月子さんに会うという目的だけでここまできてしまったため、会ってから何をすればいいのかまったく決めていない。


 底冷えするような瞳でこちらを見ている月子と対峙しながら二人は頬を伝う汗もそのままこれからどうするか必死で考えていた。


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