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流れ時…1ロスト・クロッカー9

「機械式時計……。」

「これって江戸初期か戦国後期にあったって言われていた時計?」


アヤと未来神は公園から近いところにある古代博物館という名前の博物館にいた。

アヤは服を着替えていた。

赤色のドレスを変形させ、着物っぽくした服を着込んでいる。


この時代ではこれがはやりだそうだ。

見た目よりもかなり動きやすい。

話をもとに戻そう。


「戦国後期に作られた時計らしいぞ。説明にそう書いてある。」

目の前に木製で足の部分がやけに長い時計があった。


「これじゃあ、ちょっと戻り過ぎだわ。二千十年あたりの時計ってないの?」

「うーん……俺、この時代に行ってみたいんだよ。未来には紙と書くものがあれば戻れるんだろ?」

「まあ……そうだけど。……わかったわよ。どこの時間軸で時の神が狂い始めたのか知りたいって部分もあるし……しかたない。この時代に行きましょう。行けるかわかんないけどね。」

「よし!」

ため息をついたアヤとは対照的に未来神の顔は輝いていた。


アヤは未来神を呆れた目で見ながら時計の分析に入った。


「最古の機械式時計って徳川家康がスペイン国王からいただいたっていうのが現存している最古なんだって。その前に天文二十年にフランシスコ・ザビエルが大内義隆に献上したってのもあるし、天正十九年、ローマ法王庁へ派遣された日本少年使節団が帰国した時に、秀吉に献上したヨーロッパの土産の中に時計があったとも言われていたわ。どちらも現存してないはず。」


「詳しいんだね。俺にはよくわからない。」

「この機械式時計って最古の時計だったら東照宮にあるはずよね?ここにあるって事はこの時計は私の時代では発見されていなかった時計なのかしら?」

アヤがまじめな顔で時計とにらめっこをはじめたので未来神はため息をついて言った。


「とりあえずさ、はやく行こう。」

「だから、行けるかわからないわよ。」

「いいから。」

アヤはしぶしぶ未来神の手を掴むと無防備に放置されている時計にそっと手を置いた。


目の前がまた白くなった。



「うまくいったな。」

「また……タイムスリップした?……もう……ほんとに理解できない。」


二人は森の中に立っていた。

鳥のさえずりとなんだかわからない虫が姦しく鳴いている。


なんだか暑い。

どうやら夏に近いようだ。


手をひらひらさせて風を送っていると近くの草むらががさがさとなった。

「何?」

アヤが身構えると着物をきた総髪の男が草むらから顔を出した。


「時神過去神!」

草むらから顔を出したのは汗ばんだ顔をした過去神だった。


「お前は……」

過去神も鋭い目を見開き半ば驚いた顔をしていた。

「なんだ?君が過去神?」

未来神はにやりと笑いながら過去神を見つめた。


「お前……未来神か……。」

「そうだ。その髪型はあれなのか?最新のファッションとかなのか?」

「ふぁっしょんとはなんだ?」

「流行だ。」

「お前もこの時代を経験しているだろう。何を馬鹿な事を。」


未来神は過去神のポニーテールをぱさぱさ触りはじめた。

うざったそうに未来神を見た過去神は今度はアヤに話しかけた。


「お前、あれから未来へ飛べたのか?四百年ぶりくらいか。俺の記憶から消えるところだったぞ。」

「……そう……なのよね……。時を渡るって……こういう事よね……。という事は、今は戦国後期くらいって事なの?」

「慶長二十年だ。」

慶長二十年……大阪夏の陣あたりの年号だ。


「やっぱり戦国後期だわ。」

「俺は……人間の作る歴史が嫌いだ。争いばかりで生きた心地がしない。」

「そうなのか?俺は……今はけっこう楽しく生きているけどなあ。」


過去神が未来神を睨んだ。

「お前も俺が生きた時間を生きているのだろう?平気なのか?」

「平気じゃなかったさ。つるんでいた友達も戦争で死んだし。でも、今の俺の時代は平和なんだ。だから、戦争なんて起きてほしくないさ。」

「そうか。」


二人があまりにも次元がかけ離れた会話をしているため、アヤは会話に入れなかった。


「それより……お前達はなんでこの時代に来たんだ?これからまた戦争が起きるんだぞ。」

「ああ……思い出してきたよ。豊臣軍が滅ぶ戦いだね。ずいぶん前の事だったから俺自身忘れていたよ。来たのはただの好奇心さ。」

未来神は暗い顔つきでぼそりとつぶやいた。


どの時の神もいままでの歴史を通ってきているのだ。

嫌な事なんて数えきれないくらいあっただろう。


「一つ聞くわ。過去神、あなたは私を殺したいと思う?」

「いや。だから、お前を殺して俺はなんか得をするのかとだいぶ前にも聞いたような気がするが……。」

「……。じゃあこの時代じゃないんだわ……。あ、あなたは今どこへ行こうとしていたの?」

「俺は……天王寺に行く所だ。」

過去神は目を伏せた。


「そう……。」


つまり、天王寺・岡山の戦いの最中という事だ。


「だが……行くのはやめる事にする。もう……豊臣が勝てるとは思えん。……すまんが……また……聞いてもよいか?」

「何?」


「真田信繁はどうなった?死んだか?」

過去神は苦しそうな顔をしてつぶやいた。

真田信繁とは真田幸村の事だ。


「幸村?君、豊臣軍のやつと仲良かったのか?」

未来神が咄嗟に言葉を出した。


「幸村?信繁の事か?いや……手合せをした程度だ。」

「ああ、そうか。幸村は言い伝えの名か。ふーん、あれか。つまり、君は豊臣の方にはついてなかったんだ。手合せって死闘だったんじゃないか?」


「まあ、そうだな。俺は徳川の方についているからな。」

「いいな。俺は豊臣についたから地獄を見たよ?皆死んだ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ。毛利と大野軍が自分の軍の数倍の徳川軍に正面から当たったらしいし。」

未来神は遠い過去を思い出すように語った。


「そうなのか……。それで……信繁は?」


「真田信繁は大阪夏の陣で戦死したって聞いたけど。」

「……つまりこの時代で死ぬのだな?……なるほど人生五十年か……。」


未来神にほとんど語られてしまったのでアヤは予備知識を話すことにした。

「あ、でも、説は色々あるの。信繁は生きていて秀頼と逃げた……とか。」


「そうか。……やつには生きていてほしいところだ。死んだのなら……しかたない事だがな。」

過去神は何かを思い出すように目をつぶると聞いた。


「これからの歴史も荒れるのか?」

「……。人の歴史なんてずっと荒れているさ。」

未来神は言葉を吐き捨てた。


「……もう、知り合いが死ぬのは耐えられない。まあ、どちらにしても俺よりも先に死んでしまうが……。……天王寺に行くよりもここから先の世界を知りたい。俺を未来へ連れて行ってくれないか。お前を殺そうとしている俺も気になるしな。」

過去神は銃声がしきりに聞こええてくる山をじっと見つめながら言った。


「天王寺に行かなくていいの?」

「……ああ。もういい。少し信繁の事が気になっただけだ。」

「そう……。」


少し沈黙があった後、

「ん?」

と、未来神が声を発した。


「どうしたの?」

気がつくと未来神が険しい顔で前を睨んでいる。


「なんだ?敵兵か?」

「違う。」

過去神とアヤも未来神が見ている方向を向いた。


そこにはフードのついている黒いローブのようなものを纏っている男が立っていた。


「……この時代の人間ではないな。」

過去神は目を細めた。


「時神?」

アヤが不思議そうに首をかしげたらその男はローブを翻して走り去ってしまった。

「追おう!」

三人はローブの男の後を走って追いかけた。


「この方面……天王寺?」

黒ローブの男は林の中を疾風の如く走っている。

必死に追いかけてもなぜか追いつかない。


「天王寺だって?俺、天王寺いけないよ!」

未来神が焦った顔で二人を止めたが足は止まらない。


「なんでだ?」

「俺に会っちゃうからさ。この時代の俺に。この時代の俺はたぶん、天王寺で戦っているから。時神は自分に会ってはいけないだろ?その時間軸の未来神に二人未来神が存在すると気がつかれた時どちらかが消滅する。つまり未来神がいなくなるわけだ。どちらかが消えるって事はどちらも自分自身だから両方消滅するって事なんだ。」


「え?そうなの?だから現代神も同じこと言っていたのね。」

「おい、見失った。」


話しながら走っていたせいか黒ローブの男は姿を消していた。


「はあ……しょうがないわ。」

「なんか、ごめん。」

未来神は丁寧に頭を下げた。


「もういい。……あの男は置いておいて一度未来へ連れて行ってくれ。」

過去神は燃え盛っている天王寺方面に向かって舌打ちするとアヤに目を向けた。

「行けるかわからないけど……わかったわ。……あなた、名前なんて言うの?」

「俺は白金栄次。お前は?」

「アヤ。」

「あ、ちなみに俺は湯瀬プラズマな。」


アヤは素早く時計を描くと先程の時間軸よりも少し未来の二千六百年と書いた。


彼らがおかしくなってしまったのはいつからなのかをちゃんと調べたかったからだ。


また目の前が真っ白になった。




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