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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫14

 金色のドラゴンかぐやは徐々に月光の宮に近づいていた。いつの間にかあたりはクリーム色に染まっている。おそらく霊的月に入ったのだろう。


 月の空間に色がついているわけではないが遠目でみると淡いクリーム色に見える。それは透明だけど遠目で見ると青い、青空の感覚に近いかもしれない。


 「なんというか……黄色いな。」

 みー君がつまらなそうにあたりを見回している。月に入ってからずっとこの黄色い空間だ。


 「太陽はオレンジ色だったけど月は黄色なんだねぇ……。まったくいつになったら月光の宮に着くんだい?」


 サキはリラックスしながらかぐやに乗っている。完全に集中力がきれていた。


 「サキ様……しっかりなさってください……。」

 チイちゃんは今にも寝そうなサキを揺すって起こしていた。


 「おい、ウサギ。後どれくらいだ?」

 みー君はうんざりした声を上げた。その後、ウサギが慌てて答える。


 「えー……もう少しであります。あ、ほら、あのピンク色のお城が……。」

 ウサギはクリーム色に霞む先を指差した。


 「なんだい……あのショッキングピンクの天守閣は……。」


 サキはウサギが示した方向を見てため息をついた。目の前にショッキングピンクの日本のお城が建っていた。その城周辺だけ島のように砂の陸地が広がっている。


 「あ!見てください!かぐやのしっぽが!」

 チイちゃんが突然叫んだ。サキ達は咄嗟に後ろを向き、かぐやのしっぽを見た。


 「ん!」

 かぐやはしっぽから徐々に消えていた。


 「おや、かぐやが消えているよ……。」

 「まあ、もともと月に連れて行ってくれるだけだったからな。こいつはよく頑張ってくれた。」


 サキの言葉にみー君がそっけなく答えた。


 「あー……お二人ともちょっと冷めていますね……。」


 「みー君は興奮の余韻でこうなんだろうけどあたしはなんだか眠くなってきちゃったから寝たいんだよねぇ……。」


 サキはチイちゃんに疲れた顔を向けた。気がつくとピンク色の城がもう目の前にあった。


 「ついたでおじゃる!」


 ウサギが談笑しているサキ達に向かいビシッと言い放った。それと同時にかぐやは完全に消え、サキ達は地面に放り投げられた。


 「うわああ!」

 サキ達は絶叫をあげながらもうまく着地した。


 「な、何なんだい!もっと優しく降ろしておくれよ……。びっくりしたじゃないかい。」


 冷や汗をかいているサキの横でみー君が消えてしまったかぐやの方を向きながら、なんだかさみしそうにしていた。


 「かぐや……俺のかぐやが……。」

 「はいはい。センチは後でやっておくれ。」


 「少しくらい浸らせろよ……。」

 さみしそうなみー君をサキは呆れながら引っ張って行った。


 「しかし、凄い建物ですね……。特に色が……。」

 「月子さんの趣味であります!」


 顔がひきつっているチイちゃんにウサギがおかしい事はないと言った風に頷いた。


 「まったく目がちかちかするよ。あたしには良さがまったくわからんね。」

 場違いなピンク色の天守閣を眺めながらサキはうんざりした顔をしていた。


 「お前、女なのにあれの良さとかわかんないのか?」

 「女が皆ああいうのが好きだと思っている事がみー君の間違いだよ。」

 サキはみー君の頭をこつんと小突くと建物に向かい歩き出した。


 あたりには月神と月神の使い兎が多数いた。どの月神も兎も動揺しながらこちらを見ている。襲ってくる気配はなさそうだ。


 「なんか見られてますけど見られているのみー様とサキ様だけですね……。」


 二人の隣りを歩くチイちゃんは肩身狭そうにしている。ウサギは無言で前を歩いているが見られて緊張をしているのか歩き方がぎこちない。


 「んん……見てくるだけで別に襲ってくるわけじゃないんだねぇ……。一応、招かれていないわけだから侵入者なんだろうけどさ。」


 サキは用心のため、太陽神特有の霊的な剣を手から出現させた。それと同時に月神、使いの兎達から怯えの声があがり、どよめきが起こった。


 そしてサキ達が歩くたびに彼らは後ろに一歩二歩と退く。城を守る気がないのか城を守れないのかはわからないがどの月神にも覇気がない。


 「なんだ?やる気のねぇ警備兵だな……。」

 みー君はまわりを見つつ呆れた声をあげた。


 「お二人は神力が違いすぎるゆえ、警備兵達は勝てないと悟っているのでおじゃる。それと殺気を感じないとあれば無駄に戦う必要はないと判断したのであります。」


 「なるほど。賢明だ。警備としては失格だがな。」

 「オレは?あれ?オレの立場が……。」

 ウサギの言葉にチイちゃんはさらに肩を落とした。


 さらに歩いていると城門の前に辿りついた。城門は開けっ放しになっており、すべてショッキングピンクに塗られている。その城門の真ん中にライが立っていた。


 「やあ、待ってたよ。」

 「ライ、あんた、やっぱり月子の所にいたのかい……。」

 「うん。」

 サキの問いかけにうつむいて答えたライはどこか悲しそうな顔をしていた。


 「そこに立っているって事は……俺達を月子さんのとこに連れて行ってくれるのか?……っふ。そんなわけないか。」

 みー君は一瞬、笑顔になったがすぐにライを睨みつけた。


 「うん……用があるのはチイちゃんだけなの。後は別に城の中に入ってもいいよ。月子が待ってるよ。」


 「おっ!オレに用だって!?」

 チイちゃんはやたら嬉しそうにライに目を向けた。ここにきてはじめて気にかけてもらって嬉しかったらしい。


 「そっか。じゃあ、お前、後はよろしく。俺達は城ん中行くからな。」

 みー君は呆れつつさっさとライの横を通り過ぎ城の内部へと入って行った。


 「ちょ……みー君!あんた、なんかこう……疑ったりとかしないのかい?」

 「んー?」

 サキの言葉にみー君はポリポリと頭をかきながらこちらを向いた。


 「いや、んー?じゃなくてさ。拒んでいたやつがこう……あっさりと城の内部に入れてくれるわけないじゃないかい?」


 「だが入っていいと言っているぞ。それにそこの坊やが全力で芸術神に挑もうとしてるんだから男として先に行くのが普通だろう?」


 「みー君?ライが戦うつもりなのかわからないけど……何にしてもチイちゃんは弱いんだよ!一人にしておけるかい!」


 「あ……。」

 チイちゃんはサキの言葉を聞いてがっくりと肩を落としていた。


 「おいおい、サキ、少しは気持ちをくんでやれよ。男は強い部分がほしくて見栄を張る生き物なんだよ。弱い弱い言われたら落ち込むのは当然だぜ。」


 「そ、そうなのかい?」

 みー君の発言にサキは戸惑った。チイちゃんを傷つけてしまったと思ったらしい。


 「そ、そんなんじゃないですよ!違いますよ!弱いって言われても平気ですよ!」


 慌てて否定するチイちゃんにみー君は大きく頷き、よくわからないが


 「うむ。ツンデレだな。」


 とつぶやいた。


 「わけわかんないし……。あんた、なんだか会った当初からツンデレにこだわっているねぇ……。まったく。」


 「と、とにかくね、お城で月子さんがあなた達に会いたいんだって。だから早く行ってくれるかな……。」


 しびれをきらしたライが早口に言葉を発した。サキはうーんと唸った後、城に向かい歩き出した。


 「まあ……チイちゃんを立てるためにもここは城に入った方がよさそうだね。チイちゃん、先行くよ。」


 サキはチイちゃんにそっと目を向けるとささやいた。チイちゃんは胸を張って勢いよく答えた。


 「すぐに追いかけます!ここはオレにまかせてください!」

 「ウサギ、あなたは案内よろしくね。」

 ライは始終黙っていたウサギにそっと目線を送った。


 「……。ウサギンヌ。」


 ウサギは納得いっていない顔でライを見上げるとみー君の元へと走って行った。サキはライの様子を見、ウサギの様子を見て城へ入る事を若干拒んでいたがしぶしぶみー君を追い、城の内部へと入った。


 「!」

 城の内部へ入った刹那、ウサギがビクッと肩を震わせた。


 「どうしたんだい?」

 「……そんなっ……弐の……っ!どうして……同胞が沢山いるのに!」


 「おい、なんだ?いきなり豹変するなよ。びっくりするじゃないか。」


 ウサギの戸惑い様にサキとみー君は慌てて声をかける。しかし、ウサギはみー君やサキに答えず、必死な面持ちで城の外へ向かって叫んでいる。


 「同胞と月神様達を殺すつもりでごじゃるか!」

 ウサギは血相を変えて城の外へ飛び出した。


 「おい!だからなんだ!どうした!城に入ったばっかなのに出るなァ!」

 「ウサギ!……たく……しょがないねぇ!」

 みー君とサキもなんだかわからずにウサギを追う。


 「どうして……こんな事を……。」

 ウサギは月の地面に力なく座り込み泣いていた。


 「ちょっと、いきなりどうしたんだい?泣く意味がわからないよ。」

 あまりのウサギの変わりようにサキは戸惑いながらそっとウサギの肩に手を置く。


 「おい。ライもチイちゃんも月神も兎もいねぇぞ!」


 みー君の声にサキは顔を上げた。まわりを見ると誰もいない。先程までいた月神、兎達、チイちゃん、ライも消えており、ただ、月の地面が遠く続くのみだった。


 「なんで……さっきまでいたのに……おかしいねぇ。チイちゃん……は……?」

 サキは黄色のモヤがかかった空間をただ茫然と見つめていた。


 「ライが……自分達以外全員……弐に閉じ込めたのでごじゃる……。弐に入り込んだら通常抜け出す事は不可。


 芸術神が作り出す弐の世界ではなく、もっと大きな本当の弐の世界に……心の世界に連れこんだのでごじゃる……。自分は弐をよく見ている故、よくわかるのであります。」


 「弐の世界って妄想だけじゃなかったな。心の世界もそうか。で、あの小娘がどうやって妄想以外の弐の世界を出したんだ?芸術神って言ったら心の上辺、妄想、アイディア関係の弐の世界しか出せないんだろ?」


 みー君が動揺しているウサギに冷静に話しかける。


 「ちょっと、みー君、なんで芸術神が妄想関係の弐の世界しか開けないって事を知っているんだい?他の弐の世界も出せるかもしれないじゃないかい。」


 「今、その質問をする時か?まあ、いいか。いままでの状態を見ればわかるだろう?お前は一体、いままで何を見ていたんだ?


 ライは妄想関係と勝手に自分で作った世界しか出してないじゃないか。はじめ俺達を襲って来た時に妄想の弐の世界じゃなくてそこのウサギが言ったみたいな本当の弐の世界とやらに閉じ込めれば良かっただろ?してこなかったって事はできなかったんだ。」


 みー君の言葉にサキは顔を曇らせた。


 「あんた、観察力が凄いね。意外に色々見ているんだねぇ……。」

 「ま、そういう事だ。」

 みー君は半分割れた面から覗く目をわずかに細め不気味に笑った。


 「弐の世界は言わば銀河系と同じ……それぞれ散らばる星が地球のように世界をつくり存在しているのでごじゃる。その星が人の心。弐の世界に入り込むという事は宇宙に放り出されるのと同じ事。


 流れ着く先はどこかの星。つまり誰かの心の中。途方もない世界観の中で一生戻るアテもなくただ彷徨い続ける……。」


 ウサギが肩を落としながらつぶやいた。それを聞き、サキは事の重大さに気がついた。


 「ちょっと!じゃあ今の話だとチイちゃんは……っ!」

 「あの世に行ったのと同じだな。」

 サキの言葉をみー君がそっけなく繋げた。


 「みー君、これはやばいよ!」

 「あの坊や、助太刀とか言ってついて来てこんなのばっかりだな。そしてサキ、少し落ち着け。」


 みー君は鋭い瞳をサキに向けた。みー君と目が合ったサキはごくりと息を飲んだ。


 「……と、取り乱していてもしかたないね。ライも一緒に弐に行ってしまったのかね。」

 サキは深呼吸するとそっとウサギに目をやった。


 「……わからないでごじゃる。でもこの場所で本当の弐の世界を開く事は芸術神だとしても無理でごじゃる。


 我々月の者は弐の世界の上辺を守る者。生きた肉体や意識を持つ者が入らないように見守る役目がある。弐の世界と直接つながっている部屋はあるがそこ以外は弐に入る術はないであります。」


 「って事は……だ。ライがやったわけじゃない可能性もあるわけだ。もしくはライは共犯で誰かと一緒に術かなんかを使って真の弐の世界を出したとかな。それと……なんであの男を単品で弐に入れたんだ?俺達も一緒に閉じ込めれば良かったじゃないか。」


 「……それは……わからないであります。」

 「そうか。」


 ウサギから目を離したみー君はピンクの天守閣の最上階を睨みつける。サキもみー君につられ天守閣を見上げる。


 ……誰かと目が合った気がした。


 「と、とりあえず、中に入ろう。まずは月子に会って……。」

 サキは頭を横に振ると天守閣の中へ入って行った。


 「そうでおじゃるな。月子さんに原因の究明をしてもらうであります……。」

その後を追い、みー君とウサギも続いた。


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