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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫12

 「こ、今度は何ですか……。」

 チイちゃんは声の主に怯え、キョロキョロとあたりを見回している。


 「あ……ねぇ、上。」

 ライがげっそりとした顔で上を指差した。サキ達もそっと上を仰ぐ。


 「……な、なんだい?あれ……。」


 サキはもう驚かなかった。もう慣れてしまっていたからだ。サキ達の上空にいたのはプラモデルにありそうなロボットだった。デザインセンスに関してサキは一切わからない。


 『悪いですが月には来てほしくないであります!』


 これはロボットが話しているのではなく、おそらく中に誰かがいてその誰かが拡声器かなんかを使って話しかけているらしい。


 「おいおい。なんだ?そのかっこいいロボは……。」


 みー君は一人感動している。そしてみー君の心に反応するかのようにリズミカルなBGMがどこからともなく流れてきた。本当にゲームに入り込んだみたいだ。


 『弐の世界は不確定要素が強い世界。当然、妄想の塊も沢山落ちているであります!これは弐の世界に散らばっていたそれを組み合わせて作った鎧であります!ウサギンヌ!』


 ロボットの中にいる者も声が弾んでいる。単純に楽しんでいるのか。


 「ウサギンヌ?……もしかして……兎?」

 ライがぼそりとロボットに声をかけた。


 『その通り!自分はウサギであります!月のガーディアンでごじゃる!』

 声の主、ウサギは語尾を統一しないまま、元気な声で自己紹介をした。


 「ああ、月の使いのウサギかい。あたしらは月照明神の月子に会いたいんだよ。そこをどいておくれ。」


 サキが疲れた目でロボットを見上げた。返答はもう予想できていた。


 『ダメであります!現在月は誰も招いておらんでごじゃる。ラビダージャン。』


 ウサギは予想していた言葉を吐くと突然ミサイルを飛ばしてきた。ミサイルはまっすぐかぐやを狙い飛んで行った。


 「お?ボス戦か!」

 みー君の瞳がまた輝いた。


 「もうやめておくれ!頼むからこれ以上、みー君の心に火をつけないでおくれー!」


 サキは誰かに祈りながら叫んでいた。みー君はかぐやを素早くボタンで動かし、ミサイルをすべて避けた。


 もちろんサキ達は左右に激しく振られ、落ちるか落ちないかのギリギリのラインを彷徨う事になった。楽しそうにしているのはみー君だけだ。


 「くらえ!」

 みー君は火の弾が飛び出すボタンを連打した。かぐやは口を大きく開け、火を吐く。ロボットは素早く横に避け、炎を回避した。


 「なかなかやるであります!」

 「お前もな!」

 ウサギとみー君はお互い楽しそうだ。


 「だから、なんでこんなゲーム大会みたいなノリなんだい!」

 「ほんとだよぉ!こんなはずじゃなかったのにぃ!」

 サキの叫びにライが答えた。サキは一瞬固まった。


 ……こんなはずじゃなかった?

 サキはライのこの一言がひっかかった。


 「こんなはずじゃなかったって……?」

 「え?いや、だってこんなはずじゃなかったでしょ?」


 ライは何かを隠すようにサキに答えた。言うべきではなかったと顔が言っている。


 「あんた、やっぱり何か隠しているね?」

 「え?何の事?」


 ライがサキの言葉を誤魔化すように答えた。刹那、かぐやが激しく動いた。みー君がミサイルを必死で避けているためだ。


 「よし、ここだ。必殺技だ!」


 みー君は難しいボタンさばきでミサイルを避けながら必殺技ボタンを押した。まるでゲームの中のようだ。そしてみー君はこのかぐやの扱い方を完璧に分かっている。


 『グルオオオ!』

 かぐやは地響きがするほどの咆哮を上げると突然回転し、しなる尻尾をロボットに思い切り打ちつけた。


 「ぎゃあああああ!」

 もちろん、乗っているサキ達は必死につかまり、絶叫をあげ、半分気絶。ロボットはかぐやのしっぽ打ちにより、真っ二つになり、爆発した。


 「うわああ!死ぬでありまーす!ラビダージャン!」


 その爆発したロボットから子ウサギがクルクル回りながら飛び出した。


 ウサギは人型で少女の姿をしている。髪は白色で二つにゆわいており、そのゆわいている髪がどういうわけかまっすぐウサギの耳のように立っている。服は紫の着流しだ。ただ、子供らしく太ももまでしか布がない。


 「子供のメスウサギか!これはまずい。落ちたら死ぬな。」

 みー君は焦りながら落ちてくるウサギを抱きとめた。


 「はわわわ……はわわ……。」

 ウサギは怯えながらあたりをキョロキョロ見回し、みー君を涙目で見上げた。この仕草はどこからどう見ても兎だった。


 「なんだ。中に入ってたのは怯え症の子ウサギか。わけわかんねえ語尾は誰に教わったんだが。」


 「はわわわ……。助けてくれてありがとうでごじゃる。なかなかお強い……。」

 「けっこう楽しかったぜ。じゃ、とりあえず、俺達は月に行くが……。いいよな?」

 みー君は怯えているウサギをそっとドラゴンの背中に降ろしてあげた。


 「負けて助けてもらって月に行くなとは言えないでごじゃる。どうぞでごじゃる。」

 ウサギは諦めた顔で下を向いた。


 「おい!やっと月に入れるぞ。」

 「そ、そうだねぇ……。良かったよ……。ほんと。」

 みー君の楽しそうな声にかろうじて答えを返したのはサキだった。


 「なんだよ。俺が頑張ったから行けるんだぞ。ん?あの芸術神はどこ行った?」

 みー君が後ろを振り向いた時、サキの顔と半分死んでいるチイちゃんの顔しか映らなかった。


 「え?何言っているんだい。ライならここに……あれ?」


 ライはサキの後ろにいたはずだが見当たらない。とりあえず隣にいたチイちゃんの意識を叩いて戻した。


 「さ、サキ様……みー様……オレはもうダメです……。おえ……。」


 「ちょっとしっかりするんだよ!あんた、ライを見てないかい?まさか下に落とされたって事は……。」

 サキの発言にみー君は顔を青くした。


 「お前ら、ちゃんとつかまってなかったのかよ!」

 「あのねぇ、つかまっててもあれは振り落とされるよ!みー君……。」


 焦り始めたサキとみー君を死んだ目で見つめながらチイちゃんはぼそりとつぶやいた。


 「ああ。ライは一足先に月に行きましたよ……。」

 「はあ?」

 チイちゃんの言葉にサキは驚いた。


 「一足先にって……どういう事だ?」 

 みー君は眉間にしわを寄せながらチイちゃんを見つめた。


 「知りませんよ。ライは筆でなんか描いてそのままそれに乗って月に行っちゃったんですから。」

 「それは本当かい?」


 「はい……。ドラゴンが回転した瞬間でした。オレはその後からの意識がないんですが、あの時、ライが空を飛んで行ったのは事実です。」

 チイちゃんは今にも吐きそうな顔をサキ達に向け、つぶやいた。


 「なるほどね。じゃあ芸術神はやっぱり月子とグルだね。名探偵サキの予想はそんなところだよ。」


 「それはどういう事ですか?」

 サキはチイちゃんに自分の考えを話しはじめた。


 「だから、芸術神ライはこの世界でずっとみー君と戦っていたんだよ。」

 「はあ?俺と?」

 信じられないといった顔つきのみー君にサキは頷いて続けた。


 「あんたは無意識だっただろうけど向こうはあんたの妄想を破る事に必死だったんだよ。」

 そこでサキはチート技の事を思いだした。


 ……これはみー君には言えないけどあれのツボに書いてあった言葉は『知意兎』。深読みかもしれないけど兎って言葉。他はよくわからないけど、ウサギは確実に出て来た。もともとウサギをみー君と戦わせるつもりだったんだろうね。


 「なんか変だと思ったんだよな。なんかゲームみたいな世界だなとか思ってたが、そうか。俺の妄想だったのか!なるほどな。はっはっは!」

 みー君はまた楽観的に笑っている。


 「もうなんでこう、緊張感がないんだい!……で?ウサギだっけ?あんた、知意兎の意味ってわかるかい?」


 サキは途中声を落としてウサギに聞いてみた。ウサギは怯えつつ頷いた。


 「知意兎、月子さんとライの合言葉であります。『兎にも知られぬ意思』という意味らしいでごじゃる。自分にはさっぱり。」


 このペラペラしゃべるウサギにより、サキは一つの結論にたどり着いた。


 ……あのツボはライが描いたツボだね。みー君がライの描いた世界観を壊す存在であると知ったのでみー君の世界に変わりつつあるその弐の世界にツボを描き、ウサギを呼んでみー君の始末を試みた。


じゃあ、ライはあたしの性格を読んでチート技なんてものを用意したって事かい。あたしだったら絶対食らいつくからねぇ……。


 で、ウサギがあたしらの始末に失敗したからライは一端月に帰った。


 「あやしいと思っていたんだよ。あの子。絶対ライは月子とグルだ。」

 「そ、その根拠をまだ聞いておりません!」


 サキの発言にチイちゃんがむきになって声を張り上げた。サキは顔を曇らせ、だんまりを決め込んだ。


 「ま、なんでもいいがとりあえず月に行くぞ。ライも月に行っているんだろ?」

 みー君は渋面をつくっているサキの肩をポンと叩き、言った。


 「そうだね。とりあえず月に行くかい。あ、もう一つ、ウサギに質問。あんたは月子の命令であたし達を消しにきたわけかい?」


 「うーん。まあ、月子さんはサキ様を消せればそれでいいと。」

 ウサギがサキの顔色をうかがいながらつぶやいた。


 「じゃあ、月子はあたしに恨みがあるのかい?あたし、月子に会った事ないんだけどさ。」


 「そこらへんは自分にもわからないであります……。」

 ウサギは渋面をつくっているサキを怯えた目で見上げた。


 「あ、そう。わかった。とりあえず行ってみるしかないって事だね。あんた、月に案内しな。それと裏切ったあんたはあたしが守ってやるから安心しなよ。」


 「お、おお……ホントでありますか?月子さんは怖いであります。できれば怒らせたくないのでごじゃる。」


 「大丈夫。月子はどうせあたしが何とかしないといけないんだし、月子が力ずくでなんかしてきてもあたしはたぶん負けないよ。何があったか知らないけどあたしは月子を救わないといけない。ワイズとの約束があるからね。だからあんたの事も守ってやれるよ。」


 サキはウサギにニッコリと笑いかけた。ウサギは目を輝かせながら大きく頷いた。

 

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