かわたれ時…1月光と陽光の姫11
「え?ちょ……な、なんだい?」
サキは戸惑いながらみー君を見上げる。
「お前、本当は甘々な事がしたかったんだろう?俺はその気になったぞ。」
みー君が真面目な顔でサキを見つめているのでサキはさらに戸惑った。
……まずい……というかこれは……やばい。
ちらりとライとチイちゃんを視界に入れる。二人は顔を真っ赤にして興奮気味にこちらを見つめていた。
……やっぱり……そういう事だよねぇ……。
みー君の顔が徐々に近づいてくる。
「み、みー君、ええっと、あっち向いてホイ!」
サキは戸惑いつつ、人差し指で右を差した。運よくみー君は反射的に右を向いた。その時、一瞬、力も緩んだのでサキは慌てて脱出した。
「みー君、ごめんよ。」
「なんでだ?俺にあんなことしたというのに!妻になるって言ったのに!別にお前の事、何とも思ってなかったがその気になったじゃないか!」
みー君はがっくりと肩を落として寂しそうにしていた。
……この男は……こっち関係は子供のようにピュアすぎるだろ……。まいった。
「ごめん。ほんとにごめん。みー君。」
「まあ、別にいいが……お前は一体何プレイを俺とするつもりだったんだ?」
みー君は呆れた目でサキを見据えた。
「まあ、プレイとかじゃなくてねぇ……。」
「サキ様!あれを!」
サキがごもっているとチイちゃんが指で何かを差していた。
「なんだい?」
サキはチイちゃんの指が示す方向を目で追った。
「ん?」
月の方面から金色の大きな龍がこちらに向かって来ているのが見えた。ドラゴンはなぜか十二単を纏っている。
「あれ?かぐやか?なんであんなデカくなっているんだ?」
みー君は大きな金色のドラゴンを眺めながら首をひねった。
「じゃあ、あれが……正解……。つまり××の所は寝ながらあっち向いてホイをするって事かい!やっぱりまともじゃなかったよ!たまたま当たっただけで普通だったら一生不明だよ……まったく。」
サキは長いため息をついて頭を抱えた。
「じゃあ、あのドラゴンは知意……」
ライが声を発しようとした時、素早くサキが口を塞いだ。
「チイちゃん!」
「は、はい!」
サキはライの『知意』発言からチイちゃんにつなげた。チイちゃんは何故呼ばれたのかわからないまま大きく返事をした。
「名前を呼んでみただけだよ。気にしないでおくれ。」
「は、はい!」
サキはそう誤魔化し、ライの耳にそっとささやいた。
「みー君にこの事がチート行為だって知られたらけっこう落ち込むよ。なんだかわからないままでいいんだよ。」
「そ、そっか。」
ライは恐る恐る頷いた。
「おい。乗せてくれるって言っているぞ。」
みー君はかぐやを指差しながら楽しそうに笑っている。もう先程の事は引きずっていない。なかなか平和な性格の持ち主のようだ。
「とりあえず、あれに乗れば月にいけるって事ですね。」
チイちゃんは徐々に近づいてくるドラゴンを眺めながらつぶやいた。
「そうだねぇ。もう、月に行く事が目標みたいになってしまったね……。」
ドラゴンは風を纏いながらサキ達の前に降り立った。かなりの大きさのドラゴンだったがサキはもうあまり驚かなかった。いままで破天荒な事が起こりすぎて感覚が色々と麻痺していた。
「こうやって間近で見ると迫力凄い!肩甲骨から左右対称の翼がバランスいいね。輝きの光沢も特殊……。ちょっとスケッチを……。」
ライは金色に輝くドラゴンを興味津々に見つめながら分析を始めた。
「そんなのいいから行くよ。」
サキはライを引っ張りながらドラゴンに近づく。大きすぎてどこから乗ったらいいかわからない。
「よし、俺が風を起こしてドラゴンに乗せてやるよ。」
みー君はいつの間にかドラゴンの背に乗っていた。そして手を振りながら楽しそうに笑っていた。
「みー君、なんでもう乗っているのかって事は聞かないから優しく頼むよ!」
サキが叫んだ刹那、サキ、チイちゃん、ライの身体がふわりと浮いた。浮いたと思ったら突然、台風並みの突風が吹いた。
「ぎゃあああ!」
三人は突然の事に目を回しながら完璧すぎる絶叫を上げていた。自分達がどんな感じで空を舞っているのかすらわからないまま、ただクルクルと飛ばされていた。
「んー……やっぱり俺は厄災の神だった。」
ふとみー君の呑気な声がすぐ近くで聞こえた。
「……うう……。」
気がつくとサキ達はもうドラゴンの背に乗っている状態だった。
「なんか嫌な予感はしてたけど……優しくって言っておいたじゃないかい……。」
サキは今にも吐きそうな顔をみー君に向けた。ちなみにライとチイちゃんは白目を向いたまま気絶している。
「すまん……。もともとが鬼神なんだ。俺にはここまでが精一杯だ。」
みー君が素直にあやまってきたのでサキはそれ以上何も言えず、とりあえずチイちゃんとライを起こした。
「ちょっと……あんたらは何気絶しているんだい。さっさと起きな。ほら!」
サキは二人を乱暴に揺すった。
「んん……気持ち悪いです。」
「は、吐きそう……。」
サキの声掛けにより二人は目を覚ました。顔色は悪く、今にも意識を失ってしまいそうだ。
「ほら!しっかりするんだよ!おっとっと……。」
サキが二人に喝を入れている時、ドラゴンが急に空へ羽ばたいた。風はやや冷たいが乗り心地は最高だ。暗い風景の中、ひときわ明るい月に向かいドラゴンはゆっくりと進み始めた。
揺れもなく滑るように飛んでいるのでサキ達の心もだんだんと穏やかになってきた。
「ああ、だんだんと気分が良くなってきたわ。意外に乗り心地いいね。」
「そうでごぜぇますね。もう気持ち悪くねぇですよ。」
先程まで青い顔していた二人はだんだんと元の調子を取り戻してきたようだ。顔色が元に戻ってきている。
「お?」
そんなまったりとした空気を壊したのはまたもみー君だった。かぐやの背中にボタンがあるのを発見したみー君はそのボタンをとりあえず押してしまった。それと同時にかぐやの口から火の弾が飛び出した。
「お?……おお?」
「な、なんだい?なんか火を吐いたよ……。」
「なんだかものすごく嫌な予感がしますね。違う世界観に入ってしまったような……。」
みー君のうずうずしている声を聞いた三人の胸中にはまずい雰囲気が渦巻きはじめていた。よくわからないが前方から何かが飛んでくる音が聞こえてくる。ヒュルルとなんだか不気味な音だ。
「おお!ミサイルだ!」
「ミサイル?ミサイルだって?」
みー君の声を聞いた三人は恐る恐る前方を覗く。
「ちょっ……ちょっ……ちょっ!ええええ?」
三人は言葉を詰まらせながら顔を青くした。
前方からかなり大きなミサイルが多数飛んできていた。風景は先程の場所からはうって変わって星空輝く宇宙になっている。少し先に輝いている月が見えた。
「シューティングだ!ハイスコア狙うぜ!」
みー君はかぐやの背中にある謎のボタンを操り、右に左にミサイルを避け、火の弾をミサイルにぶつけている。はじめから世界観はなかったがかぐや姫の世界観は完全に崩壊した。
「きゃあああ!えええ?ちょっとどういう事!?」
ライは右に左に揺れるドラゴンに必死につかまりながら絶叫を上げている。
「あー、もう厄だらけだよ……。早く帰って寝たい!」
サキもぼやきながらドラゴンにしがみつく。
「ゲームはリアルにするとやばいですね……。さすがみー様……妄想たくましい。」
チイちゃんはもう完全にまいっている。神力のない神にはこの現実は重すぎた。
……あーあ……チイちゃんもライもこれはかわいそうだよ……。
サキはそう思いつつ、呆れた目でみー君を見つめた。
「ボムは後何回使えるんだ?あたり判定は狭いのか?一度当たってみて試すしかないな。」
「試すんじゃないよ!何を言っているんだい!まったく!あたし達を殺す気かい?」
サキは呑気なみー君の耳をぎゅっと引っ張った。
「いででで……。なんだ?お前もやりたいのか?」
「そんなわけあるかい!今の状況でも普通じゃないけど頼むから普通に進んでおくれ!」
「普通には進めないな。なぜならそこにミサイルがあるからだ!」
「このやろ!」
かっこよく言い放ったみー君の耳をサキはさらに引っ張った。
「やめろー!耳がもげる。今、真剣なんだ。代わってやりたい所だが難易度がこれはかなり高い。ここを突破できたら代わるから少し待っててくれ。」
「そういう事を言っているんじゃなくてだね……。」
みー君ののんびり発言にサキはため息をついた。そしてもう諦める事にした。サキはみー君の耳を引っ張るのを止め、おとなしく後ろにさがった。
「っち!ミサイルに追尾機能がついているな。誰だ?こんなかっこいいものを作ったのは!」
みー君は悔しそうにつぶやいていた。
『自分であります!ラビダージャン!』
ふとどこからか凛々しい女性の声が聞こえた。




