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旧作(2009〜2018年完結) 「TOKIの世界書」 世界と宇宙を知る物語  作者: ごぼうかえる
二部「かわたれ時…」月神と太陽神の話
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かわたれ時…1月光と陽光の姫7

 サキ達は声の主を探したが見つからなかった。


 「どこにいるんだい?ていうか誰だい?」


 「私は芸術神ライよ。主に絵を極める芸術神。絵は奥が深い。線で正確にラインをとったりとかわざとアバウトにとったりとかねっ!色もいっぱい。影のつけ方もただの黒じゃないしね。」


 サキが質問した刹那、目の前に金髪の女の子が現れた。金髪の女の子はボンボンのついているかわいらしい帽子をかぶっており、茶色のジャケットに蒼と水色のしましまのシャツを着ている。


下はキュロットスカートに黒のストッキングだ。金色の短髪を揺らしながら芸術神ライは微笑んだ。目は丸く、可愛らしい顔つきをしている。歳はサキと同じくらいか。おそらく十六、七だろう。


 「あんたが芸術神ライねぇ……。なんであたしらに嫌がらせをするんだい?」

 サキはあまり挑発しないように言葉を選び話しかける。


 「うーん。あれよ。芸術だわ!」


 ……もうダメだ……。わからない。会話になってないじゃないかい……。


 だがサキはこの質問で芸術神ライとやらが何かを隠している事に気がついた。


 「お前がラスボスか。」

 「ラスボス?何を言っているのかわからないけどとりあえず……ね?」

 みー君の言葉に一応答えたライは突然、絵筆を空中に走らせた。


 「なんだい?」

 サキが目を細めた時、ライの絵筆から大岩が多数、サキ達に飛んで行った。


 「?」

 サキとチイちゃんは咄嗟に行動ができず、ただ立ち止っていた。素早く動いたのはみー君だ。


 みー君は手からカマイタチを放ち、大岩を次々と破壊していく。しかし、大岩があまりにも多すぎてみー君一人では対処しきれず、みー君の顔面に大岩が当たった。


 「ちっ……。」

 「みー君!」


 低く呻いたみー君を横目で見ながらサキもやっと動き出した。サキは軽々と炎で岩を斬っていく。反対にチイちゃんは危なげに刀で大岩を破壊している。


 大岩をすべて破壊した後、サキとチイちゃんは顔を押さえているみー君の側へ慌てて近寄った。


 「ちょっと!大丈夫かい?どっか怪我したんじゃないかい?ねぇ?」

 「みー様……。すみません。オレが動かなかったせいで……。」


 サキとチイちゃんは不安げな顔でみー君の様子をうかがう。みー君の顔からお面の破片がパラパラと落ちていた。


 「あーあー、けっこう気に入ってたんだがなー……。」

 みー君は痛がるそぶりも見せずにサキ達の方を向き、顔に当てていた手をそっとどけた。


 「!」

 みー君のお面は半壊しており、そこから鋭い瞳が覗いていた。よく見ると端整な顔立ちをしている。


 「あんた、けっこうカッコいいじゃないかい!なんでお面なんてしているんだい?なんか色々もったいないよ。ていうか、そのお面、どんだけ固いんだよ!あんなに直撃だったのに半壊とか。」


 サキは初めて見たみー君の素顔に謎の感動を覚えていた。


 「お前、テンション高けぇな……。」


 「みー様の素顔……初めて拝見いたしました!墓場まで持っていくつもりです!」

 「お前はなんでテンションが高けぇんだよ。気持ち悪いぞ。」

 みー君はなぜか興奮しているチイちゃんに呆れた。それを眺めながらライはニコリと笑った。


 「なるほど。みー君が一番厄介そう。まずみー君を倒すわ!覚悟!みー君!」

 「お前もみー君、みー君言うな!敵なのに慣れ慣れしいんだよ。」

 みー君は不機嫌そうな顔でライを睨む。


 「なんか狙いがみー君に行ったみたいだね。」


 「少し端の方で安全をキープしましょう。サキ様に怪我があってはなりません。そしてオレはみー様の勇姿をこの目で見たいです。」


 「そうかい。じゃあ、ちょっと端に寄るかい?」

 サキはため息をつきながら目を輝かせているチイちゃんを引っ張り、石の壁の方へ寄る。


 「なんか、ずいぶんゆるいんだね……。」

 ライは頬をぽりぽりとかきながらはにかんだ。


 「なんだ?俺とお前で一騎打ちか?あれだな。銀拳だな!銀拳!」

 みー君の声がまた弾んでいる。今回は顔が見えるので楽しそうに笑うみー君を見る事ができた。


 「銀拳ってあれですね!ゲームセンターにある格闘ゲーム!」

 チイちゃんは完全に応援ムードに入っている。


 「俺は熊猫Gで勝負だ!」

 何の会話をしているのかまったくわからないがみー君は楽しそうだ。


 「もう……なんでこう、緊迫したムードがないんだい?このテンション、もう疲れたよ。」

 サキは壁に背をつけながら頭を抱えた。


 「なんかよくわからないけど本気で芸術しちゃうわよ。」

 ライもペースを崩され戸惑いながら筋骨隆々の空手着を着た男性を筆で描き、出現させた。


 「おう!来い!」

 また感情が高ぶっているみー君は出現した男を睨みつけながらファイティングポーズをとる。


 みー君は男が繰り出す拳を軽やかに避け、反撃のタイミングを計っていた。男は蹴りや拳を見えないくらいの速さで打ち込んでいる。それをみー君がどうやって避けているのかはわからないがなかなか能力の高い神のようだ。


 ……一体、何をしたらこんな神になるんだい?


 サキは戦いの風圧をその身に受けながら不思議そうに首をかしげた。隣でチイちゃんは目を輝かせてときどき大きく頷いている。


 みー君に対する憧れかなんなのか知らないがチイちゃんは運動会のバトンリレー並みに応援していた。かなりうるさい。


 「!」


 みー君が素早く足払いを男にかける。男がバランスを崩した。そのままみー君は右足を風に乗せ、男の脇腹を蹴り飛ばした。男は衝撃波と共に吹っ飛ばされ、石壁に思い切り当たり、消えた。


 「……あんたはどんな脚力してるんだい。まったく。」


 「サキ様、あれはみー様特有の台風を起こす力を凝縮して右足に集中させることによって放たれる一撃ですよ。」

 驚いているサキに興奮気味にチイちゃんは語った。


 ……なんかどっかの少年漫画とかにいそうな起こった事を説明してくれる奴みたいだね。この子は……。


 サキが呆れた目でチイちゃんを見た。


 「さてと。」

 「え?え?なに……?やめて……。」


 みー君は手をバキバキ鳴らしながらライに近づいていく。ライはまさか男が倒されると思わなかったようで戸惑って泣きそうな顔になっている。


 「ちょっと、みー君!暴力はダメだよ!」

 サキが慌てて叫んだ。みー君がライの前で足を止め、にやりと笑った。


 「ゲームは男女平等だぜ?」

 みー君は拳をビュッと怯えているライに向けて繰り出した。


 「ひっ!」

 ライは小さく叫び目を閉じた。


 「なんてな。はっはっは!」

 みー君の拳はライの額スレスレで止まっていた。


 「ほえ……?」

 てっきり殴られると思っていたライはヘナヘナとその場に座り込み、わんわん泣き出した。


 「あ、あれ?なんで泣くんだ?」


 「みー君……ああ、びっくりしたよ。そんな事する奴じゃないとは思っていたけどねぇ。」

 きょとんとしているみー君にサキはほっと胸をなでおろした。


 「ゲームはゲームだ。リアルでは俺は紳士なんだ。こんなに怯えられて泣かれたら違うゲームのスイッチが入っちまう。なんというかこの娘を攻略したくなる。」


 みー君は泣かれた事にかなり戸惑っているようだ。自分で何を言っているのかよくわかっていない。


 いじめるつもりはなくただの冗談のつもりだった。冗談だったのだが大泣きされてしまい、みー君は戸惑う事しかできなくなってしまったという事だ。


 「私をこうりゃく?」

 ライはめそめそと泣いていたがみー君のある一言でそっと顔を上げた。


 「えー……まあ……あれだ。そのごめんな。」

 「こうりゃく……。」


 ライはみー君の謝罪を半ば無視し、じっとみー君を見上げている。そして目があったとたん頬を真っ赤に染めた。


 「あれ?えーと……ちょっと待て!なんか勘違いを……。違う!違うぞ!」


 「攻略って私をどうするの?隅々まで触るの?見るの?ちょっと恥ずかしいな……。でも負けちゃったし……しょうがないかな……。」


 ライは頬を真っ赤に染めながら潤んだ瞳でみー君を見上げていた。


 「へっ?待て待て!触るってなんだ?お前は……な、何を言ってるんだ……。」

 みー君は戸惑いつつ、困った顔をサキ達に向ける。


 「あーあ……。失言だね。いきなりお前を攻略してやるなんて言われたら変な想像するのはわかっていた事じゃないか。」


 「新手の女性を落とすテクニックですか!さすがです!みー様!」


 「あんたはちょっと何と言うか気持ち悪いよ。」

 よくわからないが感動しているチイちゃんにサキは呆れながらつぶやいた。


 「俺はそんなつもりじゃなくてだな……。べ、別に変な事を望んでいるわけではなくてだな……。ああ、ダンジョンに入って宝箱を見つけたい……。」


 みー君の戸惑いがいよいよひどくなってきたのでサキは助け舟を出す事にした。


 「あんた、なんで嫌がらせをしたんだい?根は性悪じゃないだろう?」

 サキはライに違う方面での言葉を投げる。


 「私は芸術をひたすら求めているの。だから、彼氏がいないの。さみしい。」

 「あの……悪いんだけどちょっと男から離れてくれるかい?」

 サキはしくしく泣いているライに同情しつつ本題を引き出す。


 「で、なんの話してたっけ?」

 ライは涙をふくと再びサキを見つめた。


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