かわたれ時…1月光と陽光の姫6
「というか、なんでお姫様ダッコなんだい?せっかく助けてもらっているしどう持たれても文句言わないよ。」
サキはだんだん慣れてきた爆発の音を聞き流しながらみー君を見上げる。
「お前は姫だ。姫になれ!俺はリマオだーっ!」
……ダメだこりゃ……。しかし、いい感じの乗り物だねぇ。これは。
一人で燃えているみー君にサキはもうつっこむ気も起きなかった。サキは飛んだり、避けたり忙しいみー君の邪魔にならないようにあたりを見回した。みー君は一直線にしか進んでいない。おそらく一直線にしか動けないのだ。しかし、さっきとは違い、やたらと動ける範囲は広い。
術の範囲は描くものによって違うらしい。先程は紙。サキ達は画用紙くらいの大きさの紙の中に閉じ込められていたと推測される。そして今は横長の石か、燃えない物の中にサキ達は閉じ込められている。
おそらくここも弐の世界。弐の世界は生物が寝ている時に行く心の世界だったり、心霊が住む世界だったりと様々だ。それぞれ違い、変動する。世界も沢山あり、不確定要素が強い。想像力や夢に関わっている神は弐の世界を作ってしまう事もできるらしい。
そして飛んできているモノの正体は先程の爆弾だった。
「で……問題はどうやって出るか。」
サキが出られそうな場所を探していると一カ所、違和感を覚える所があった。周りの風景はみー君が走っている一本道に沿って絵で描いたような木が並んでいる。その木の一本に亀裂が入っていた。
「みー君、ちょっと戻ってもらえるかい?一カ所、おかしな木を見つけたんだ。」
「戻る?難易度が高けぇな……。なんか隠しルートでも見つけたか?」
みー君は相変わらずハヤブサの如く爆弾を避け、落とし穴を避けてまっすぐ進んでいる。
「いいから、ちょっと戻るんだよ。ゲーマー。」
「そんな簡単に言うな。だいたいこういうのは難しいんだからな。」
みー君は一瞬止まると振り向き、逆走を始めた。サキは若干祈る気持ちでみー君にすべてを任せた。いままで後ろから襲ってきた爆弾は今度前から襲う事になる。
爆弾には追尾機能がついており、真っ向から対峙すると避けるのは難しい。先程、みー君が軽く通り過ぎた落とし穴も場所を覚えていないと落ちてしまう。
「みー君。頑張っておくれよ。」
サキは不安げな顔でみー君を見上げた。みー君はちらりとサキを視界に入れるともう一度しっかり抱きなおした。
「そんな顔されちゃあ、なんか燃えるぜ。」
みー君の心にさらに火がついた。
……ふう。なんとなくこの男の扱いがわかってきたような気がするよ。今は彼が頼りだから頑張ってもらわないと。
サキは前から飛んでくる爆弾に目をそむけながらみー君を心で応援した。
「ここが落とし穴だ!ここで右から来る爆弾を避けて左に着地。ここで左から槍が飛んでくるから素早く飛び、着地。すぐに前から飛んでくる爆弾をしゃがんでかわす。」
みー君は驚く事に爆弾が飛んでくる位置まで覚えていた。ゲーマーの能力か、長年生きた経験かわからないがサキは褒め称えたい気持ちでいっぱいだった。
「す、すごい。すごいよ!みー君!」
気がつくと先程サキが気になっていた木の近くにいた。
「で、どこなんだ?」
「もうちょっと先だよ。」
みー君はさらに戻った。すると、木の亀裂は先程よりも大きくなっており、その亀裂の隙間から何者かの手がにょっと出ていた。
「お?なんか手が出ているぞ。気持ちわりぃなあ……。」
みー君は警戒しながら手が出ている亀裂に近づいて行った。
「サキ様―!御柱様―!」
亀裂の向こう側で若そうな男の声が聞こえてきた。
「誰だい?」
サキは亀裂に向かい声を上げた。
「その声はサキ様?今助けます!」
亀裂から出ている手から突然、大きな刀が出現した。亀裂の隙間を器用に使い、手の持ち主が刀を振るった。
「!」
刹那、石のようなものが飛び散り、風景は溶けるように消えた。
「なんだ……?」
風景は完全に消え失せ、石の壁で覆われているトンネルの中にサキ達は立っていた。
石のトンネルの壁面には長い落書きがしてあった。サキ達はこの中に入り込んでいたらしい。
「はあ。やっと会えましたね。」
サキ達は声が聞こえた方を向いた。目の前に若い男が立っていた。緑の作務衣を着ており、髪はボサボサだ。目はくりくりとしており、どこかかわいらしい感じがある。
「お前なんだァ?まさか芸術神ライかぁ!」
みー君は冷めきらない頭で叫んだ。何故だか気持ちが上がっているようだ。
……なんだかみー君、いつの間に熱い男に変わったね……。
「みー君、たぶん違うよ。」
サキはみー君を元に戻そうと声を上げる。その後、付け加えるように男がしゃべりだした。
「オレは芸術神じゃないですよ。あなた様達がこの石の絵の中に入り込んでしまったんで刀で絵を傷つけて助けるつもりだったんです。」
男はにこりと微笑むとボサボサの頭をかいた。
「そうか。刀で石を斬れば今度は良かったのか。炎で焼き尽くせなかったわけだ。で?お前は?」
みー君の高ぶりがだんだんと戻ってきたらしい。声のトーンが一定になってきた。
「ああ、オレは剣王から派遣された助っ人です。お話はいってますよね?まだ、神になって間もなくて、名前をもらっていません。お好きに呼んでください。」
サキは剣王からの言葉を思い出した。後で太陽に派遣しておくからとかなんとか言っていた修行中の神だ。
「あんた、よく急に消えたあたしらを見つけられたねぇ。」
「鶴達が騒いでいるのを見つけてそこから気配を追いました。そしたらこの現世の石トンネルにあたったんです。」
男は礼儀正しくサキに答える。好感を持ったサキは男に微笑んだ。
「なるほどね。あんたのおかげで助かったよ。」
「そんなお褒めの言葉をいただくなんて……オレ、最高です!」
「あんた、なんだかかわいいねぇ。」
「かわいいだなんてそんな……っ!滅相もない!」
サキはなんだかこの男を見ていると癒された。サキとは逆にみー君は不機嫌そうに男を見ていた。
「ああ、なんか鬱陶しいな。」
「鬱陶しいなんて滅相もない!」
「いやいや……。」
男の反応でみー君も戸惑っていた。この若い男は偉い神二人に会った事で頭があまり回転していないようだ。
「名がないって呼び名に困るねぇ。じゃあ、あたしが決めてあげよう。チイちゃんなんてどうだい?」
「おいおい。どっからきたんだよ。その名前……。」
笑顔のサキを横目で見ながらみー君がつぶやいた。
「チイちゃん!素敵なあだ名をありがとうございます!」
「おいおい。そんなあだ名でいいのか。」
男はやたらと嬉しそうだ。みー君はふうとため息をつく。
「よし、じゃあ、とりあえず太陽に行く感じでいいかい?みー君、そしてチイちゃん。」
サキは良い気持ちでみー君とチイちゃんを交互に眺めた。
「なんだかお前の飼い犬みてぇになったな……。別にいいが。」
みー君はぽりぽりと頭をかいた。
「あははは!予想以上に面白かったわ。」
「?」
話が一通り終わったのを見計らったかのように甲高い女の子の声が響いた。




