かわたれ時…1月光と陽光の姫4
どれだけ経ったかわからないがしばらくしてうっすらとみー君の声が聞こえてきた。そしてなんだか妙に生暖かい風がサキを撫でている。
「おい。朝だぞ。起きな……って。」
みー君のやたらと色っぽい声が耳に張りつく。そして何かがサキの頬をそっと撫でる。
「ん?」
サキはそっと目を開けた。
「みー君の声がする。私はそっと目を開けた。」
みー君がなぜかナレーションのような話し方でぶつぶつと何か言っている。
……まったくなにぶつぶつ一人で言っているんだい?
サキはそう思いながら何回か瞬きをした。焦点の合ってきたサキの目元近くに鬼の面が突然映った。
「ぎゃあ!」
サキは目の前に現れた鬼の面を見て思わずお面に向かい、足蹴りをしていた。みー君はサキに覆いかぶさるように座り、サキに顔を近づけていた。しかし、足蹴りにより、みー君は身体を大きくのけ反らせ、サキから離された。
「おいおい。そこは色っぽく『みー君……ダメ……そんなに顔を近づけたら……』だろ?可愛くねぇな。」
みー君はのけ反ったまま、つまんなそうに声を発した。
「まったく!なんなんだい!普通に起こしておくれよ!ていうか痛い!あんた、どんなお面かぶっているんだい?足が折れるかと思ったよ。」
サキはお面を蹴った右足首を涙目でさすりながらみー君に向かいため息をつく。
「せっかく乙女ゲームみたいにナレーション付きで甘く起こしてやろうと思ってたんだがな。こんなイケメンが目の前にいるのに何故蹴るんだ……。」
みー君は残念そうな声でサキを見つめた。
「あんたねぇ……。だいたい、そのお面見たら誰でも驚いて蹴るよ。それにイケメンかどうかはお面とらないとわからないし、乙女ゲーム自体を知っているあんたが気持ち悪いわっ!」
乙女ゲームとは女性向けの恋愛シュミレーションゲームだ。色々なタイプが設定されているが一緒なのは全員イケメンという事だ。
「ああ、あのゲームをやった時はなぜか鳥肌が止まらなかったな。しばらく熱心にやっていたがふと気がついたんだ。俺はなんで鳥肌を立てながら男キャラを必死で落としているんだとな。スチル集めから隠しルートやらコンプしてから気がついた。ギャルゲーもためしたがやっぱり俺はリマオに戻ってきた。」
なぜか誇らしげにみー君は語る。
「は、はあ……そうかい。何言っているのかいまいちよくわからないけど……太陽には着いたのかい?」
サキは戸惑いながらみー君に目線を向ける。
「いや、着いていない。」
「じゃあ、なんで起こしたんだい?」
サキの心にどんよりと不安が広がっていく。
「実は何かしらの敵襲にあって現在、術にハマっているのだ。」
みー君は声のトーンを変えずに平然としゃべる。
「て、敵襲だって?あんた、何してたんだい?起きていたんだろう?」
「術にハマる寸前、高速で動いていたリマオをいきなり止めるわけには行かず、クリアしてからなんとかしようと思っていたができんかった。」
みー君の呑気な発言にサキは思い切りズッコケた。つまり、何者かの術にハマりつつあることを知りながらリマオの調子がいいのでゲームを中断できず、最後までやってしまったという事だ。
「ふざけている場合じゃないよ!何が甘く起こしてやろうだよ!何やっているんだい。まったく。」
「何と言うか、もう術にハマったから別にいいかと思い、ちょっとやってみたかった起こし方を実践してみたというわけだ。現実だとああなるのか。はっはっは!」
何の術だか知らないが敵の術にハマっているというのにみー君はとても楽しそうだ。サキは正反対の気持ちだ。
……この男といたら命がいくつあっても足りないよ……。とりあえず、この駕籠から出て……
サキは素早く駕籠から降りた。
「おい。駕籠に足引っ掛けないように気をつけて降りろよ。」
呑気なみー君の言葉を無視し、サキは外の様子を伺った。外は雪が降り積もっており、どこだかよくわからないが森の中のようだ。不思議と寒くはない。そして空を飛んでいたはずだが駕籠は地面に無残に落とされていた。鶴はいない。
……という事はこの駕籠は突然、鶴達から切り離され、ここに落下したって事だね。ああ、あたしもなんで落ちている事に気がつかずに寝ていたんだい……。
サキはみー君の事を言える立場ではない事に気がつき、ため息をついた。
「!」
サキがため息をついた刹那、みー君に手を引っ張られ駕籠の中へ押し込まれた。
「へっ?何するんだい!びっくりしたじゃないかいっ!」
サキがみー君に向かい叫んだ時、先程までサキが顔を出していた場所に大きな衝撃が走った。
「おわあっ!」
駕籠は大きくバランスを崩し、吹っ飛ばされた。サキ達が籠っていた駕籠は風圧でゴロゴロと転がり、やがて一つの木にぶつかり止まった。
「危ないぞ。」
ひっくり返っているみー君が呑気に言葉を発した。
「ななな……なんだい?今のは!」
サキは目を丸くしながらみー君を見つめる。
「ん?ああ、お前、そういえば猫みたいな目をしてるな。猫目だ。驚くとさらに猫みたいだ。はっはっは!」
「笑っている場合じゃないんだよ!猫でもなんでもいいから状況を教えておくれよ!」
笑っているみー君のお面を突きながらサキは声を上げた。
「状況?俺にはわからないな。とりあえず外に出てみるか?外には敵がうじゃうじゃ。装備は大丈夫かい?勇者よ。こんぼうとなべのふたの装備じゃ死ぬぜ。」
「誰が勇者だい!ふざけてないでさっさと行くよ!」
サキは能天気なみー君を引っ張り駕籠の外へ出る。
「俺は勇者パーティの魔法使いでもやるか。生き返らせる呪文は持ってないぞ。」
「うるさいねぇ!あんたは!今は緊迫したムードなんだよ!少しはまわりに気を配って……。」
サキが声を荒げた時、みー君がサキの手を引き高く空を飛んだ。刹那、駕籠は爆発を起こした。
爆風がサキ達を襲ったがみー君が空を飛んでいるため、飛ばされるほどの風ではなかった。
「なるほど。姿を現すとなんかが攻撃してくるのか。」
みー君はスタッと地面に着地した。サキも後を追って着地する。
「おお……。頼もしいのかなんなのかよくわからないよ。」
「とりあえず、勇者の剣を見せてくれないか?」
みー君が目を輝かせながらサキを見つめた。サキは太陽神ならではの能力で太陽エネルギーを凝縮した剣を出す事ができる。サキはこれからの事を思い、ほぼ炎でできている剣を手の中に出現させた。
「これかい?出せるけど剣術はまったくできないんだ。」
「だろうな。持ち方から素人だ。」
「なんだか腹立つ言い方だねぇ……。」
サキはだんだんと目が慣れてきて、飛んでくる何かを横に飛んで避けた。なんだかわからないそれは無数に飛んできており、すべてサキとみー君を狙っている。
サキは目を凝らしてその何かの正体を暴こうと頑張った。




