かわたれ時…1月光と陽光の姫3
サキがため息をついた時、屋上へついた。冬の冷たい風がサキ達を襲う。残っている雪を踏まないよう気をつけながら待機していた鶴が持つ駕籠にサキは乗り込んだ。
「よう。駕籠に足引っ掛けないように気をつけろよ。」
「!」
サキが駕籠に入った時、駕籠の中から声が聞こえた。ふと前を見ると赤い鬼の面が映った。サキは驚いて叫びそうになったがなんとか押し殺した。
「驚かないよう精一杯の努力をした甲斐があったな。叫び声を上げられたらどうしようかと思ったぞ。」
「あんた……。なんであたしの駕籠にいんのさ。びっくりしたよ!」
サキは穏やかに話す男を睨みつけた。
「いや……。ワイズから月を見て来いと言われてな。面白そうだったんでお前に乗っかる事にした。俺も暇をしていたところだ。チートエレベーターの上下で時間を潰していたからな。」
鬼の面で表情がわからないが声は子供のように楽しそうだ。
「暇神かい……。うらやましいねぇ……。あたしは帰ってはやく寝たいよ。」
駕籠は鶴が引っ張り空を飛んだ。サキはカーテンを閉めてため息をまたついた。
「ところであんた、名前、なんて言うんだい?」
「ん?俺?ああ、天御柱神だ。」
「えええええ!あんたが!」
男がさらりと言ったので逆にサキのリアクションが大きくなった。
天御柱神と言えば天災、厄災の神として有名である。鬼神と呼ばれ、恐れられて祭られた神様だ。
「それ、すげーリアクションだな。面白いぞ。」
「あんまり台風とか竜巻とかやめておくれよ……。こわいったらない。こう、横にいるだけで怖いよ。まずそのお面がねぇ……。心臓に悪い。うん。悪い。」
サキは大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。駕籠は天御柱神のせいで狭い。
……厄神とこんなに密着してたら何が起きるかわからなくて怖いよ……。駕籠が突然落ちたりとかしないでおくれよ……。
サキは色々とビクビクしながら天御柱神を見つめた。
「ああ、俺の呼び名は呼びやすいように呼んでくれて構わないぞ。」
天御柱神は小型ゲーム機を取り出すと楽しそうにやりはじめた。
「……呼びやすいようにって……うーん。じゃあ、みー君でいいかい?」
「みー君?なんだそりゃ。俺はお前の幼馴染か?まあ、いいがな。」
サキはてきとうに彼のあだ名を決めた。だいたい、やっているゲームが子供が好みそうなゲームだ。それを見ていたらもうみー君しか思い浮かばなくなった。
横スクロールで主人公と思われる男が変な効果音を立てながらジャンプをし、落とし穴を避けている。
「それって、今もなお愛されているスーパーリマオ?」
サキは小型ゲーム機の画面を眺めながら質問をする。
「ああ。俺、なんかこれ、ハマっちゃってな……。このリマオってやつ、災難だろ?落ちたら死ぬ穴だらけの道に針生やしたカメがうろちょろしててやっと休めると思っていたドカンの上から人食い花がにょっと出てくるんだ。いやー、厄をもらってんなあと思ってな。こんな世界からこいつを助けてやりたくなった。ただ、それだけでこのゲームを極めた。」
「あー……そうなんだ。」
みー君は楽しそうにゲームに向かっているがサキは逆に呆れた。画面中のリマオは見えないくらい速く動いており、サキにはリマオに何が起きているのかよくわからない。
「ていうか、そのゲームってさ、リマオが姫様を助けに行く感じのストーリーじゃなかったかい?なんであんたがリマオを助けるのさ。」
どうでもいい事だがとりあえず聞いてみた。
「姫はリマオが助ける。俺はリマオを助ける。というわけさ。」
みー君はなぜか胸を張っていた。
……言いたい事はなんとなくわかったけど……まあ、もういいや。なんかめんどくさい。
サキはつっこむ気もなく、ふうとため息をつくと寝る体勢に入った。
「ん?寝るのか?もうそろそろつくんじゃないか?」
「少しだけ寝る。うるさくしないでおくれよ。」
「わかった。着いたら優しく起こしてやる。」
「そうかい。」
サキはちらりとみー君を見た。みー君はサキが寝やすいようにけっこう端に寄ってくれていた。
……けっこう優しいじゃないかい。見直したよ。
サキはクスッと微笑むと目を閉じた。みー君の好感度がサキの中で少し上がった。
その直後、サキはうつらうつらとまどろみ、夢の世界へ消えた。




