かわたれ時…1月光と陽光の姫1
ここ、太陽にあるお城、暁の宮には沢山の太陽神とその使いである猿が住んでいた。
部屋はすべて障子で仕切られており、木でできた廊下の両サイドはすべてなんかしらの部屋になっている。
しかも五階建てなので一番上にいるサキは階段を降りなければならない。
今日は高天原東をまとめている思兼神、通称東のワイズの別荘で何やら会議がある様子で太陽を守る太陽神のトップ、輝照姫大神サキも高天原に呼ばれ、これから行くところだった。
「あれだね。これから高天原と会議なら太陽に援助をもうちょっとしてくれと頼んだ方がいいね。」
サキは階段を降りながらサルに確認をとる。
「そうでござるな。エスカレーター部分をなくしたり建設費を削ったりなどで古い部分が浮き彫りになっている故、修繕をした方がいいと思われる。
サキ様!Such captain such retinue!サッチ キャプテン サッチ レティニュー!」
「勇将の下に弱卒なしだね……。
もうわかったよ。ハードルあげないでくれよ。
いきなり英語でことわざ言うのはびっくりするからやめておくれ。」
目を輝かせているサルにサキはため息をつくと腕を組んだ。
……しかし、おそらくタダで援助してくれる事はない。
あたしはまだ太陽神のトップに立ってまだ一年も経っていない。
月の方も従者の兎が好き勝手やっているせいか財政、信仰心共に赤字だ。
月も自分の管理で精一杯だろう。後は高天原の猛者達に頭を下げるしかない。
……さてと、とりあえず正装になるかい。
サキは手を横に広げた。光がサキを包み、光がなくなった時にはサキは赤い着物に着替えていた。神々の正装は着物だ。霊的な着物なため、着替える必要はない。着替え方としては手を横に広げるだけだ。羽衣を肩にかけて太陽を模した王冠を頭に乗せる。
「サキ様。ここから先は神々の使いの鶴が待っているでござる。」
「ん?」
サルの言葉で我に返ったサキは階段を降り終わり、宮の外へ出ていた。
空はオレンジ色、地面もオレンジ色、慣れない内は目が疲れる空間だ。
そのオレンジ色の空間にひときわ目立つ白色。
人型になっていない鶴達が高級そうな駕籠を引きながらサキを待っていた。
「やっぱ鶴は白くてきれいだね。うちみたいに茶色とか黄色とか赤とか刺激的じゃないし。」
「ちょっと白色は厳しいでござるなあ。」
サルはサキの発言に顔を曇らせた。
「わかっているよ。冗談。じゃあ、行って来るよ。」
サキはサルに軽く手を振ると駕籠に乗り込んだ。
「じゃあ、出発するよい!よよい!」
サキが駕籠に乗り込んだ時、外から気が抜ける声がした。
「今の声は誰だい……?」
「神々の使いツルだよい!」
「……そ、そうかい。」
外にいる鶴の内の誰かが声を発したらしい。
サキは面倒くさくなりそれ以上つっこまなかった。
鶴は幅広い神々の使いである。
頼まれればどの神の言う事も必ず聞く。故に型にはまらず扱いにくい。
サキ達太陽神の場合は猿がいるのであまり鶴とは接点がなかった。
鶴は空へ舞いあがり、サキが乗っている駕籠も空へと舞った。
サキの駕籠は左右がカーテンのようなもので閉め切られており、外を覗く事ができる。
少し覗いてみると宇宙にいるみたいに沢山の星が目に映った。
だがその星はすぐさま白い空間へと変わってしまった。
しばらく白い空間を進んでいたが徐々に青空へと変化して行った。
「高天原に入ったね。」
サキはひとりつぶやく。
駕籠から身を乗り出し、下を眺めると高天原のゲートが目に入った。
聞いた話によると高天原に入るためにはチケットがいるらしい。
そのチケットには北、南、東、西の四つのチケットがあってそのチケットをマジックミラーになっているゲートにかざすとチケットが提示する行き先が映し出されるらしい。
後はそのマジックミラーに飛び込めばいいとの事だ。
その前に高天原へ入る事ができる神格を持っているかなど入念にチェックもされる。
なかなか高天原へ入るのは厳しい。
だがサキは駕籠つきで鶴達に連れられながらゲートの遥か上をセキュリティなしで飛んでいる。
「どの世界も平等じゃないねぇ……。」
サキはしみじみそう思うと目線を前へ向けた。
目線下では和風の建物が連なっている。
江戸時代かなんかへ来た気分だ。
その中央に立派な天守閣が威圧を発しながら堂々と建っていた。
「西を通って東に行くよい!」
また鶴の声がした。
「……なるほどここは西の領土なのかい。会議は東で行われるんだったね。わかったよ。」
サキは軽く返事をすると天守閣を眺めた。
……じゃあこれは西の剣王の居城……。立派だなあ。
ていうか、高天原も現世も今、冬なのか。
サキはようやく今の季節を知った。建物には降ったばかりの新雪がキラキラと輝きながら風に吹かれ飛ばされていく。
「ん?」
よく見ると遠くに駕籠が見える。
どうやら西の剣王も鶴達に連れられて飛び立った所らしい。
しばらく西の広大な領土を飛んでいると違う空間に入ったような錯覚にサキは囚われた。
同じ和風の家々が立ち並ぶだけだったのでカーテンを閉めてぼうっとしていたがサキは慌ててカーテンを開けた。
「!?」
サキは思わず息を飲んだ。界下に広がる風景が数分前とまるで違っていた。
先程まで和風の建物ばかりだったのだがいつの間にか高いビルが立ち並ぶ大都会になっていた。その中、ひときわ目立つ金色のビル。
「なんだい?あのビルは……。雪のせいで照り返しが倍増しているんだけど。」
「まあ、目的地はあそこなんだけどよい!」
鶴が楽しそうにサキに答えた。
「と、いう事は、あそこが……ワイズの別荘?……。」
サキは引きつった顔で金色の建物を見つめた。
そのサキの横をまた駕籠が通り過ぎる。
その駕籠は障子で閉め切られていた。
影からすると化け物か?龍の頭についているツノのようなものが見えた。
……高天原ってけっこう危ない感じの神が多いのかね……。
サキは一息つくとカーテンをさっと閉めた。




