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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト26

 ふと気がつくとアヤ達は先程の場所にいた。太陽が草原をただひたすら照らし、暑い。おまけに何の音もしない。


 その世界で月照明神とウサギは静かに待っていた。


 「お、やっと来たでありますかっ!ラビダージャン!」

 ウサギはぴょんと飛び跳ねるとアヤ達に近づいてきた。


 「栄次も元に戻ってこられたのですね。あら……トケイまで。」

 月照明神は優しげな笑みを向けながら柔らかい口調で話す。


 「僕を知っているの?」

 トケイは不思議そうな声で月照明神に言葉を投げる。


 「ふふ。知っております。」

 月照明神は上品に笑いながら切れ長の瞳でアヤをそっと見つめた。アヤは月照明神と目を合わせながら今にも泣きそうな表情をしていた。


 「これから僕は弐の世界の時神になったみたいだから、色々よろしく。……って、君もこの世界の人じゃないね。壱の世界に帰してあげる。」


 「あら、ありがとうございます。」

 無表情なトケイに月照明神は小さくお辞儀をし、微笑んだ。


 「じゃあ、行こうか。」

 トケイは間髪を入れず時神達を連れて舞い上がる。


 「あう~……待つでおじゃる!」


 飛び立とうとしたトケイの足にぴょんとウサギがくっついた。トケイはさらに上昇をはじめた。


 「ああ!月照明神様!このウサギの足に捕まるでおじゃる!置いてかれてしまうであります!」

 ウサギは焦りながら自身の足をピコピコと動かす。


 「月照明神、さっさと捕まりな。マジで置き去りにされるぞ!」


 プラズマも月照明神に向かい叫んだ。アヤも栄次も何も話さなかったがじっと月照明神の行動を見ていた。しかし、月照明神は動かない。もうアヤ達は消え始めている。


 「はやく捕まらないと……。」

 アヤも思わずつぶやいていた。


 「……大丈夫。わたくしはまだここにいる事にします。」


 「……?」


 「あんた、出られなかったからしかたなくここにいたんだろ!」

 焦るプラズマにおっとりとした顔を向けた月照明神はさらに言葉を続けた。


 「わたくしをここから出してくださるのはあなた達ではありません。」

 月照明神はそうつぶやくとお礼を述べて微笑んだ。


 「……?」

 そこで時間切れになった。アヤ達は薄れて消えて行った。


 ……わたくしを救ってくださるお方はあの件を解決してくれる……。それまでわたくしはこの世界に留まります……。あの件に関しては時神様達には関係の無い事……。あなた達はあなた達に関係する事を解決すればよいのです……。


月照明神はそっと目をつむりその場から煙のように消えた。月照明神の表情はどこか寂しそうだった。



アヤ達はトケイに連れられて弐の世界を出た。お菓子や電車や絵に描いたような星など様々なものが次第に舞いはじめ、しばらくしてそれは徐々に消え、星々は現実にある輝くものに変化した。


 トケイは突然止まるとアヤ達を上に放り投げた。


 「うわおっ!」

 プラズマが大げさに声を上げる。


 「ここまでだね。後は勝手に壱に着くよ。」


 トケイは無機質な瞳でアヤをじっと見つめていた。アヤは耐えられず目を伏せた。


 ……アヤ、僕はね、君の手を握ってわかった。アヤが僕を作ったんだね……。そして僕は君が思い描く立花こばるとだってことも……。


 「……っ!」

 アヤの頭にトケイの声が響く。


 ……でも僕は恨んでやしない。僕は君が描いた立花こばるとであってあのこばるとじゃない。


 僕は個人として十分生きられる。それに僕は仲間ができて幸せだよ。だから、君がそんなに気負う事もないし悲しむ事もない。


 トケイはそっと瞬きをし、再びアヤに目線を向ける。


 ……だからたまにアヤも弐に遊びにおいで……。僕は君の心にずっといるからさ。もちろん、立花こばるとと一緒にね……。


 「トケイ……。」

 アヤは落ちる涙を堪えられなかった。


 「ごめんね……。ごめん。トケイ。いや、私の中の立花こばると……。私はあなたを勝手に作り上げていた。あなたをずっと苦しめていた……。」


 アヤのまわりがだんだんと白く染まる。トケイも消えていく。


 「あなたにひどい運命をあたえてしまった……。」


 ……別にいいんだよ。もう。今は幸せだから……。

 アヤが最後に見たのはトケイの自然な笑顔だった。


 

 「はっ!」


 アヤは閉じていた目をパッと開けた。どうやら知らぬ間に眠っていたらしい。


 「……ん?」

 アヤはあたりを見回した。


 「ここは……私の部屋?」


 アヤは自室のベッドに横になっていた。ふと窓に目を向けると眩しい太陽の光が目に届いた。


 時刻を見ると午後一時をまわっていた。真昼間だ。外ではセミが力強く鳴いている。

 アヤはしばらくボウッとしていたが急に我に返り、慌てて外へ飛び出した。


 ……私……眠っていたの?ここは……壱?それともまだ弐?


 外はまだ暑いが、秋の雰囲気を感じる風が通り過ぎる。いつの間にか空は高くなっており、うろこ雲がアヤの遥か上を流れていく。アヤはそのままマンションを出て、図書館へ向かった。


 アヤはなぜか走っていた。アスファルトに反射した太陽の熱がアヤの身体を包む。アヤは流れる汗もそのまま、大通りをただ走る。暑いからか大通りを歩いている人はほとんどいない。


 陽炎がゆらゆらと図書館を揺らしていた。アヤは駅前の図書館に滑り込むと歴史書コーナーの影に向かい足を進めた。そして棚に一冊だけあった白い本を勢いよく開く。


 「おう。アヤ、来ると思った。」


 アヤの瞳に最初に映ったのは未来神のプラズマだった。ここは天記神がいる図書館の庭である。


 「私も……いると思ったわ。」

 「ちなみに俺もいる。」


 アヤのすぐ隣で栄次の声がした。栄次もプラズマも先程会った時と何一つ変わっていなかった。


 「で、なんか俺、家で寝ていたんだが……。」

 プラズマが首を傾げながらアヤと栄次を見つめる。


 「私もよ。」

 「俺もだ。」


 三人は不安そうな顔でお互いを見る。壱にいるのかそれともまだ弐にいるのかよくわからない。体も魂だけなのかそうじゃないのかもよくわからなかった。


 「もう……壱に帰ってきていたのよね?自分が壱にいるのかまだ弐にいるのか、この図書館に来て確信しようと思ったのだけれど……。」


 アヤが不安げにぼそりとつぶやいた時、

 「もう、壱に時神様方は帰っているのであります!ラビダージャン!」

 ひときわ凛々しい女の声が下の方から聞こえた。


 「ウサギ?」

 アヤ達が目線を落とした時、白色の髪の毛と赤い瞳が目に入った。


 「じゃあ、もう壱に帰ってきているんだな。俺達は。」


 「うむ。そうでごじゃる!あ、それよりも月子さんに褒められたでおじゃる!いままでなかったのに!わーい!ウサギンヌ!」


 ウサギはピョンピョンと飛び跳ねながらやたら嬉しそうだ。


 「そうだ。私、月子さんのお姉さんに助けられたのに何にもお礼をしてないし、言ってないわ……。」


 「月照明神様はいつか壱の世界に戻って来た時にお礼を言えばいいと思うでおじゃる。お姉様は穏やかな性格であるからきっと微笑んでくれるであります。」


 ウサギはニヒヒッと笑うと飛び跳ねながら天記神の図書館に入って行った。


 「またニンジンねだるのか。あいつは。」

 プラズマは呆れた目をウサギに向けつつ、歩き出した。


 「今度、壱に彼女が戻って来た時にちゃんとお礼言いにいきましょう。」

 アヤもプラズマに続き歩きはじめる。その後を栄次が追う。


 ……それにしても、最後に言っていた月照明神の言葉が気になるわね……。


 『わたくしをここから出してくださるのはあなた達ではありません。』


 あの時は確実に壱に帰れる状況だった。だがあの神は残ると言った。つまり、戻っても今抱えている状況が何も変わらないので今戻っても意味がないという事なのか。


 何の問題を抱えているのかはわからないが救えるのならば救いたかった。


 「アヤちゃん、弐の世界お疲れ様。今、温かいお茶入れるわね。」

 「え?あ……ありがとう。」


 アヤは知らぬ間に図書館の中にいた。気がつけば天記神に促されて席に座らされていた。


 「ああ、そういやあ、栄次。あんたは肆の世界と参の世界の仕組みみたいの知らなかったよな?過去と未来に関する話だ。」


 「肆と参?知らんな。」


 プラズマは栄次に過去と未来と現代の話を得意げに話しはじめた。先程天記神から聞いたばかりの説明を熱いお茶を片手に語る。栄次はふむふむと頷きながら聞いていた。


 その横でウサギがニンジンをかじりながら木彫り人形のように月子さんを作っていた。


 「ところでウサギはなんでここに来たの?」

 「いんやあ、時神様方が混乱してここに集まるかと思いまして……。」

 アヤの質問にウサギはニンジンを飛ばしながら答えた。


 「そうね。大当たり。皆動揺してここに集まったわね。」


 「じゃあ、今度からなんかあったらここに集合すればいいのでは?ウサギンヌ!」

 ウサギの発言で時神達の動きが止まった。


 「あ、あれ?自分、なんか言ってはまずい事を……。」

 ウサギは戸惑っていたがアヤ達は逆の表情をしていた。


 「そうね!それいいかも!」


 「まあ、壱、参、肆は別々の世界だからここで相談だけになるが一人で悩むよりはマシだ。」


 「確かにそれはいい考えだ。」


 時神達は興奮気味にウサギに目線を向けた。ウサギはホッとした顔をアヤ達に向けていた。

 それを遠目で眺めながら天記神は一人、微笑んだ。




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