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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト23

 「!」


 プラズマは身構えた。アヤとプラズマがいる方向にまっすぐ向かって来ていた。


 殺気も何もない。感情がないため何をするのかまったく読めない。トケイはアヤにいきなり襲いかかった。蹴りをアヤの腹に入れようとしていた。


 「アヤ!」


 プラズマは素早くアヤの腕を引いた。トケイの足は突き出した形で止まっていた。爆風がアヤの身体を通り過ぎる。


 「なっ……。」

 アヤは絶句していた。プラズマも顔を青くする。


 ……あれをくらっていたら死んでいた……。


 プラズマは慌ててアヤを連れてトケイから離れる。肩で息をしながらトケイの行方を探す。もう目の前にはいない。


 ……どこいった?


 二人はあたりを伺うがトケイはいない。


 「右だ。」

 「!」


 ふいに栄次の声が聞こえたかと思うと前に思い切り突き飛ばされた。トケイの足が右からまっすぐ伸びていた。栄次が前に押してくれなければ当たっていた。


 「栄次……。」

 「原因は俺なんだろう?お前達まで巻き込んで……。」


 栄次はアヤを担ぎ、プラズマの腕を引くと走り出した。まるでトケイの動きが見えているかのように目を左右に動かしている。


 「……上か。」


 栄次はプラズマの腕を自分の方へ引く。引いた直後、プラズマが先程までいた所に衝撃が走っていた。泉の水が避けられ地面に亀裂が入っている。トケイはまた姿を消した。


 「あんなの当たったら死んじまうぞ!てか、お前凄いな……。よくあれを察知できる……。」


 「なぜかお前達も標的になっているようだな。」

 蒼白なプラズマに栄次は冷静に答える。


 「私達もこの弐の世界に勝手に入り込んだからきっと怒っているのよ……。」

 アヤは担がれながらつぶやいた。


 「なんで怒っているってわかんだよ!」

 「なんとなくよ。なんとなく、わからない?」

 アヤの問いかけに栄次とプラズマは唸った。


 「わからん。感情がないではないか。」


 「……私にしかわからないのかしら……。あの時神……私達を恨んでいるみたい。」


 「恨んでいる?なんでだ?」

 プラズマは栄次に引っ張られながら眉をひそめる。またすぐ横で地面が陥没していた。


 「ちょっと違うかもしれない……。よく説明できないけれど。」

 アヤの視界にふとトケイが映った。トケイのすぐ後ろに黒い影が揺れていた。


 「……え?誰……?」


 アヤは無意識にそう言っていた。誰だかわからないのにアヤはその人物を知っていた。


 刹那、影は揺れて消え、かわりに更夜と鈴が飛び込んできた。二人はトケイの腕を掴み動きを封じた。


 トケイはじたばたと動いていたがやがて動くのをやめた。更夜と鈴にはトケイの攻撃はまったく効いていなかった。トケイは時神しか狙っていない。


本来、壊れてしまった栄次を消すためにこの世界に来たはずなのだがなぜかトケイは時神全員を消そうとし始めた。


 「あなたは……。」

 「おい。アヤ……。」


 アヤは栄次から無理やり降りると更夜と鈴に腕を掴まれているトケイに近づいて行った。


 その瞬間、なぜか更夜と鈴が消えた。急激に周りが歪み、風景も変わり始めた。そしてただ、真っ暗な空間になった。アヤは何かに取りつかれたかのように恐る恐るトケイに近づく。


 「これは……一体……?」


 栄次とプラズマは急に変わった風景に戸惑い、ただアヤを見つめていた。


 「違う世界に入ったのだ。」


 栄次がふと横を見ると更夜と鈴が立っていた。声を発したのは更夜らしい。


 「あの女の子の世界……かもね。」

 「なんでいきなりこんな事になったんだ?」

 プラズマが不思議そうに鈴に声をかける。


 「知らないね。赤毛のお兄さん。あの子になんかあったんじゃないのかな?」

 鈴はアヤとトケイをじっと見つめていた。


 「栄次、動くな。」

 アヤを助けようとしたのか咄嗟に動こうとした栄次を更夜が止めた。


 「あのままではアヤが危ないではないか。」

 「でも動くな。」

 更夜が諭すように栄次に声をかけた。栄次は諦めてその場に立ち止った。


 アヤはもうトケイの前まで足を進めていた。


 「あなたは……。」

 アヤはトケイではなくその後ろに佇む人物に目線を向けていた。


 「アヤ……久しぶりだね。僕を覚えているかな。」


 覚えているに決まっている。忘れるわけがない。いまだ、アヤの心に縛りつくあの記憶。


 「立花……こばると……。」


 「名前をフルネームで覚えていてくれたんだね。殺した神の名前はちゃんと覚えるようにしているのかい?」


 少年の顔立ち、黒い短髪、黒い学生服の男の子はアヤに笑いかけた。彼はアヤの前に生きていた現代神、立花こばるとである。


 「殺した神って……しょうがなかったのよ!私だって生きたかった……。今はちょっと後悔している部分もあるけどね……。じゃあ、あの時、私はどうしたらよかったのよ!」


 アヤは周りを考えずに叫んだ。トケイは力なく横で座り込んでいた。まるで壊れたおもちゃのようだった。


 「どうしたらよかっただって?君が消えればよかったのさ。僕の計画通りに消えればよかったんだ。」


 こばるとはあの時のナイフを取り出す。アヤの足は震えていた。


 ……そう……私はあれでこばるとを殺した……。自分が生きる為だけに……。


 「あれは前現代神立花こばるとか!」

 プラズマと栄次は驚き、声を発した。


 「ねえ、アヤ。こいつはなんでこの世界にいるか知っている?」


 こばるとは目の前に力なく座っているトケイを蹴り飛ばす。トケイは瞬きもせずに石像のように固まっている。


 「弐の世界に入り込んでしまった壱の世界の時神を始末するためでしょ?」


 「そうだ。こいつはね、僕が作ったんだ。いや、僕の妄想だ。僕は狂った時神がどこへ行くのかずっと考えていた。もう何百年も前からね。狂った時神の魂を壊す時神がいるだろうと僕が描いたストーリーだ。ここまでの形になったのはつい最近だけどね。感情がなくてただ時神を壊す時神、楽しいでしょ。」


 こばるとは笑顔をこちらに向けた。


 「……。」

 アヤは言葉がなかった。単純に震えていた。この人は自分を許してはいない。あのナイフで刺して冷たい言葉をかけた自分を死んでからも未だにずっと憎んでいるという事だ。


 「さてと。僕はね、あの時、助けてもくれなかったあいつらも許せないんだ。どうせ皆時間の事なんて何一つ考えずにそこの栄次みたいに狂っているんだろ?そんで、皆この世界に入って来てしまった。じゃあ、トケイが壊す価値があるよね。」


 こばるとが冷たい目でトケイを見つめる。トケイはこばるとの言葉を合図にゆっくりと立ち上がった。


 「ちょっと待って……!」


 アヤが叫んだと同時にトケイは栄次とプラズマの元へと飛んで行った。


 「アヤ、君はこっちだよ。」


 こばるとがタンと靴で地面を鳴らすと周りの風景がまたぐにゃりと歪んだ。そして今度はアヤとこばるとだけが残された。


 あの時、アヤは時神にまだなりきっていなかった。人間の力と時神の力を両方持っていた。


アヤはこばるとよりも力の強い現代神だった。故にこばるとの時神としての力は衰えて行った。


こばるとの身体に人間の力が流れ込み、時神としての力はどんどんなくなっていった。衰えていくこばるとは焦ってアヤを消しにかかった。時神のシステムはとても残酷だ。今存在している時神よりも強い時神が出てきたら存在していたその時神は消える。


そして強い時神が時神としてこの世に生きる事になる。こばるとが考えた事は弱っていく自分の力を止めるには時神になっていくアヤを消せばいいという事だった。


強い時神が消えれば自分が消滅する事はない。だからアヤを殺そうと思った。だが、こばるとはアヤと戦い、負けてしまった。


 こばるとはアヤに自分はもっと時を守って行きたいのだと言ったがアヤはそのナイフでこばるとの胸を刺した。それは少し前の記憶。アヤが時神になったばかりの時に起きた事件。


 この真っ暗な空間は……アヤがこばるとを殺したあの空間……。


 思い出したくなかった。逃げたかった。自分が犯してしまった罪の重さはずっとアヤについてまわる。


 「僕は時神としてのシステムを壊したい。だから、もう一度、君を消すよ。」

 こばるとは手を横に広げ、水色の着流しに着替える。


 「私はまた……あなたと向き合うのね……。」

 アヤは怯えた目でこばるとを見上げた。


 「君の着物はオレンジなんだね。似合っているよ。」

 こばるとは冷笑を浮かべると一瞬でアヤの前に現れた。そしてアヤの腹を蹴り飛ばした。


 「うっ……。」


 アヤはその場にうずくまった。痛みよりも恐怖がアヤを襲っていた。逆らってはいけない。このまま自分は消えなければならない……。アヤはそう思ってしまった。


 「今回は抵抗しないんだね。」


 こばるとはアヤを仰向けにさせると冷たいナイフを首元へつきつけた。アヤは身体を震わせながら泣いていた。


 「私は……私は……。」


 嗚咽で言葉の先が出てこない。このまま消えてしまった方がいいのか……。


 ……アヤ、心を強く持ちなさい……。これはあなたの罪の意識が生んだものです……。

 ふいに声が頭で響いた。


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