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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト22

 「あれは……時神か?」

 栄次ははじめてその男を見た。


 「そうよ。ここは心の世界、弐。あの時神は弐の世界の時神らしいわ。」


 「心の世界か……。今ならわかる。……あの時神は俺が壊れる時間をはかっているのだろうな。おそらく。」


 「嫌なカウントをしているわね……。今、あなたを元に戻してあげる。」

 栄次はうつろな目でアヤを見上げた。


 「やはり俺は死なない方がいいか?」

 栄次はいままでにないほどの弱々しい瞳でアヤを見上げ、口を動かす。


 「当たり前じゃない……。あなたは今死ぬべきではないわ。」

 プラズマの弓を射る音がまた聞こえる。一人でトケイと戦っているようだ。アヤは構わず続ける。


 「私達の為に生きようと思わなくていいわ。あなたが生きなければならない理由は後ろにある。」


 アヤはすぐ後ろを指差した。アヤは栄次と向かい合う形で話し込んでいるため、栄次は前を見上げる形となる。


 「更夜……鈴……。」

 栄次の瞳に映ったのは切なげにこちらを見ている更夜と鈴だった。


 「あの人達は、あなたとどういう関係かはわからないけどあなたの心にいる霊達。」


 アヤは栄次にそっと時間の鎖を巻く。ここは弐の世界。時間の巻き戻しも簡単にできた。栄次の傷は巻き戻り、どんどん消えて行く。


 「更夜と鈴は俺が作った者達だ……。今はいない。」


 「違うわ。彼らはあなたの心に住んでいるのよ。あなたが死んでしまったら彼らはどこに行くの?」


 「彼らは……本物……なのか?」

 栄次は半信半疑でアヤを見上げた。


 「弐の世界は心と霊が住む世界。心を持つ者が映す独特の世界、それが霊達が住む世界なの。


この世界に詳しい人から聞いてきたわ。あなたがここを住みやすい世界に変えれば彼らがあんな顔をして佇む事もなくなる。


彼らは憶測だけどつらい生活をしてきたんじゃない?もう幸せにしてあげてもいいと思うの……。」


 アヤは話しながらなぜか泣いていた。あの女の子も男も知らない人だというのになぜか涙が止まらなかった。


 時神は三人で一人。この世界で無意識にアヤは何かしら関わっていたのかもしれない。


 そしてあの二人の本当の心をどこかで見てしまったのかもしれない。


 「アヤ……何故、お前が泣く……。お前はまったく関係ないだろう……。」


 「わからない。でもなんだか悲しいの。どうしてなのかしら……。」


 アヤはよくわからないまま涙を流していた。


 「更夜……鈴……お前達は俺の心の中で俺に操られて動いていたんだな……。」


 「……。」

 栄次の問いかけに二人は何も話さなかった。


 「……栄次、あなたの望む更夜と鈴はどんな?本当にあなたが考えている姿は?」


 「栄次、お前の望む更夜と鈴はどんなだ?本当にお前が考えている姿は?」


 アヤとプラズマは同時にこんな言葉を発していた。無意識に口が動いた。


 アヤとプラズマは驚いて目を見開いていた。自分が言った事が信じられないという表情だ。


 鈴や更夜といった名前は知らない。それがすんなりとまるで昔から知っているかのように口から出た。


 「俺の望む更夜と……鈴……。」


 栄次の傷はほとんど治っていた。栄次は身体をゆっくりと起こす。濡れた髪が滴となって栄次の頬を垂れる。


 「俺が望む二人……。」

 栄次は消え入りそうな声でつぶやき、二人を見つめる。


 「?」

 プラズマは弓を構えるのを突然やめた。無機質だったトケイの瞳から涙が流れていたからだ。表情は変わらない。動くのを止め、じっと栄次を見つめていた。


 「鈴は成長していて美しい娘になっていて……更夜は忍をやめて鈴と楽しそうに生活しているんだ……。それで……。」


 栄次は早口につぶやきはじめる。鈴は栄次が夢中で話している間、そっと目を閉じて聞いていた。そしてふっと目を開けて大人の姿へと変身した。更夜も初めて柔らかい表情を見せ、栄次を見ていた。


 「実はね……わたし達は望んであなたの心に住んでいるんだよ。」


 「そうだ。お前からあの計画を持ち出された時は驚いたもんだ。俺達を追い出し、自分も死のうなんてな。しばらく計画に乗ってやっていたが本当は乗り気じゃなかったんだ。」


 大人になった鈴と更夜は栄次を柔らかい表情で見つめながらつぶやいた。


 「俺はそんな計画立てていないぞ。」

 栄次は大人になった鈴に少し驚きながら言葉を発した。


 「無意識に心の中でね……。心って怖いんだよ。」


 鈴はふふっと笑った。大人になった鈴はとても美しかった。髪型は変わっていないがさっきよりも髪が伸びていた。目は鋭いが凛々しく、気品のある顔立ちだ。身長も伸び、大人な女性になっていた。


 「無意識に……か。俺はこの世界に意識がない時に来ていたのか……。」


 「そういう事だね。……わたしって大きくなるとこういう風になるんだね。やっと大人になれた。」


 鈴の言葉に更夜が顔をしかめていた。


 「俺を責めるな。俺だってあの時は必死だったんだ。」


 「震えている子供にあんなことしたのに?危険な事も……したのに。」


 「そう言うな……。沢山償っただろう?俺は何をしたらお前に許されるんだ?」


 二人の会話を聞きながら栄次はこれが本当の二人かと思っていた。あの時にはなかった仮面をはずした二人の姿。


栄次がこの世界を壊していたらこの二人の本当の顔を見る事ができなかった。栄次自身も忘れていた二人の面影をハッキリと思いだし、二人が忍ではなかったらきっとこうなっていただろうというビジョンが浮かんだ。


 「俺の心にはお前達がずっといてくれたのか……。」

 栄次はそっとつぶやいた。


 「あの時、唯一わたしに優しくしてくれた人だったからね。」

 「お前は唯一俺を斬り殺した人間だ。お前は忘れていたかもしれないがな。」

 二人はふっと笑った。


 「俺はやはりまだ死ぬわけにはいかないという事か……。」

 三人が打ち解けてきた時、トケイが動き出した。


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