流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト19
「ねぇ、プラズマ、見つかった?」
アヤは遥か下にあるそのぐちゃぐちゃな世界を眺めながらプラズマに問いかける。様々な世界は姿を変えながら動いている。
「いや、残念だが……まったくわからん。」
「それっぽい夢は?」
「それもわからん。」
アヤとプラズマの頬には絶えず汗が伝う。上から眺めるだけでは無謀だ。手がかりすらない。
「ウサギ、少し世界を動かして。」
「ラビダージャン!」
ウサギは小さい鉄の棒に見える謎の装置を触る。弐の世界が少しだけ動いた。弐の世界を動かすそれは地球儀を動かすのに近い。
ウサギが少し装置をスライドさせると弐の世界が少しだけ横にスライドする。そうする事によってまた別の世界を見る事ができるのだ。
「困ったわね……。確かに弐の世界は入ったら出て来れないわ。心の世界って怖いのね。」
「ん?ちょっと待て。」
アヤがため息をついた時、プラズマの顔が険しくなっていた。
「どうしたの?」
「あれを見ろ。」
プラズマが右下あたりを指差した。アヤも指の先に目を向ける。
「……何あれ……。」
様々な世界を一人の人間がまっすぐに飛んでいた。こんなに様々な世界があるというのにその人間はためらいもなく進んでいる。アヤ達はその姿を上から眺めた。
「人間じゃないな……。」
プラズマもアヤも何か違和感を覚えていた。
「ウサギ!あの人を追って!」
「ラビダージャン!」
ウサギはアヤの指示に従い、飛び去る人間を追う。
その人間はオレンジ色の短い髪に肩無しのユニフォームのようなものを着ており、下は長ズボンだ。ズボンの腿あたりに飛行機の翼のようなものがついている。おそらくそれで空を飛んでいるのだろう。背格好から分析すると男だ。
「プラズマ、あの人……。」
アヤはなんとなく気がついた。雰囲気というか直感に近い。
「ああ。あれが弐の世界の時神……か?」
プラズマもアヤと同じ答えだった。
「しかし、ずいぶんと奇抜な格好をしているのね……。」
「ここは弐の世界だろ?なんでもありなんじゃないか?上からでもわかるくらいにこの世界は意味不明なものであふれている。あれもきっとよくわからないパーツを身体にくっつけているだけだろ?」
プラズマは男を目で追いながらつぶやく。プラズマの言葉にウサギが嬉しそうに答える。
「まあ、自分は弐の世界からこちらに飛んでくる意味不明なものを使って創作をしているでありますが!」
「そうなの?」
「そうでごじゃる!この装置も……。」
「おい!ちゃんと動かせ!見失うぞ。」
楽しそうに話しはじめるウサギにプラズマはぴしゃりと言い放った。
「うー……。」
ウサギは頬を膨らませながら男を追う事に専念し始めた。
しばらくして男は一つの世界で止まると急に消えた。
「消えた!」
「中に入り込んだんじゃない?」
男が消えた場所は真夏の太陽が草むらをただ照らしている世界。上から見ただけだとよくわからないが世界としては現世に似ていて普通だ。
「消えたって事は中に入ったって事か?」
プラズマがウサギに目を向ける。
「まあ、そう考えるのがよろしいかと。あの男は弐の世界の表面、夢のさらに表面を飛んでいたのでごじゃるな。そしてあの男は夢の中に今、入り込んだ。見た所、あの世界を探して入ったようにも見えるから何かあると思われるでごじゃるなあ。ウサギンヌ!」
「……だよな……。どうする?アヤ、行くか?」
プラズマはウサギから目を離し、今度はアヤに目を向ける。
「手がかりが何もないんだから行くしかないんじゃない?」
「だよな……。」
アヤも正直怖かった。あの弐の世界の時神だと思われる男も話のわかる男かどうかも怪しい。協力的かどうかもよくわからない。
まず、時神かどうかもわからない。だが、栄次に会うためには行くしかなかった。
「ウサギ、あの世界に行くわ。どうやって入るの?」
「狙いをさだめて飛び降りるであります!」
ウサギはビシッと手を前に出した。
「飛び降りる?ここは無重力よ。飛び降りるなんて……。」
「ここから先はちゃんと落ちるであります。」
ウサギは少し先に進み手を広げた。空間は宇宙と同じなのでどこからそうなっているのかはよくわからない。ウサギが立っている先は重力があるらしい。
「間違った世界に入ったらどうするんだ?狙いをさだめてもここから落ちたんじゃその横の世界に入ってしまうかもしれないだろ。」
「別世界に入ってしまったら終わりでごじゃじゃのごじゃごじゃ!ですが!自分がジャンプの達人であると時神様達は知らないでアルカ!デアルカっ!」
「誰だよ……。」
なぜか気分が上がっているウサギにプラズマは静かにツッコミを入れた。
「まあ、でもウサギに任せるわ。只者じゃなさそうだし。」
「ラビダージャン!」
ウサギはアヤの言葉に大きく頷いた。
「じゃ、さっそく行くか……。」
「そうね。」
「じゃあ、自分につかまるであります。」
ウサギがアヤとプラズマに手を差しのべる。二人はウサギの手をそれぞれ握った。
ウサギはしばらく目を忙しなく動かし入るべき世界との距離を測っている。
「見えたであります!」
ウサギは元気よくその世界に向けて飛び込んで行った。アヤとプラズマはウサギにすべてを任せた。
ウサギがいた場所から先はウサギの言った通り重力がかかった。下に引っ張られるようにアヤ達は落ちて行った。
きれいな星空はいつの間にか、絵で描いたような星に変わり、お菓子やら何かのネジやらぬいぐるみやら電車やら得体のしれないものが次第に舞い始めた。
それを眺めていたら、だんだんと眠たくなってきた。心が身体から離れていくようなそういう感じた事のない感覚がアヤ達を襲った。アヤはたぶんそこで気を失ったのだろう。そこから先の記憶はあまりなかった。




