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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト17

 「月子さん!ただいま帰ったであります!」

 ドア越しにウサギが声をかけるが何の反応もなかった。


 「おい、いないのか?」

 「そんな事はないであります。」

 プラズマの問いかけにウサギは困った顔を向けた。


 「まあ、とりあえず開けてみるであります!」

 「ちょっと、いきなり開けるわけ?カギかかっているんじゃないの?」

 アヤは慌ててウサギを止めたがウサギは勢いよくドアを開けた。


 ……カギはかかっていなかった。


 開けた瞬間、爆音が聞こえてきた。どっかのアイドルグループの曲がかかっているらしい。恐る恐る中を覗くとレースのカーテンの奥で影が揺れていた。飛び跳ねたりしているのが見える。踊っているのか?


 部屋はピンク色で床は真っ赤なハートが描かれている絨毯がひかれていた。鏡台の上には化粧道具が沢山乗っており、アイドルのポスターがあちらこちらに張ってある。アイドルが着ているステージ衣装もウサギに作ってもらったのか沢山ハンガーにかけられている。


 「月子さん!帰ったであります!」

 ウサギがこの爆音の中、ひときわ大きな声を出して影に向かい叫ぶ。


 「えー?」


 かわいらしい女の声が爆音の中から聞こえてきた。すぐさまカーテンの奥で影が揺れ、爆音は消えた。アヤ達は塞いでいた耳から手を離した。


 「月子さん、時神様を連れてきたであります!」


 「え?ちょっと待って!ノックしなさいっていつも言っているでしょ!この馬鹿兎!ああ、もう!ノーメイクなんだから、まだ絶対開けちゃダメ!ダメだからねっ!」


 レース越しに慌てている影が映る。何かを準備しているようだ。


 「ノックしたでごじゃる……。」

 「はい。いいわよ。カーテン開けなさい。」


 ウサギはため息をつくと声に従いレースのカーテンを開けた。アヤ達の目に最初に映ったのはピンク色の髪の毛だ。


がらつきの大きなリボンで髪をツインテールにしている。まつげはエクステをつけているのか異様に長く、ナチュラルに見えるがけっこう時間がかかりそうなメイクをしていた。そして十二単を身に纏っていた。


挑戦的な目つきで立っているその姿は子供だ。


 「ずいぶんと……まあ、あれな見た目ね……。」

 「人形みたいだな……まあ、あれもありか……。」


 プラズマとアヤがこそこそ話をしていると目の前にいるその少女が話しかけてきた。


 「私ね、月子さんって言うの。よ・ろ・し・くね❤」

 人差し指を唇に当て上目づかいでアヤ達を見上げる。ぶりっ子を演じたいらしい。


 「……はあ……。」

 アヤ達は反応に困り口から息を漏らした程度の返事しかできなかった。


 「きゃっ!トノガタ!私初めて見ましたー……。こわーい❤」

 月子さんは両手を握り、口元に当てる。


 「なんのキャラをマネしているのかわからないが先程から何度もハートまみれにされた男の月神とすれ違っているんだが……。」


 プラズマがアヤにそっとささやく。


「ええ。知っているわ。……なんだかイライラするのは私だけかしら。」

「いままで会った事ないタイプだな……。」


「月子さん!本題に入るであります!」

 二人が戸惑っているとウサギが話を勝手に進めてくれた。


 「ああ、ええっとね、そうねー。弐の世界に過去神が入り込んじゃったって言うのは知っているよね?それでね、こっちから弐に入れる門を開くからね、過去神を連れて戻って来てほしいのね?わかった?」


 月子さんはやたら「ね」を連発しながら可愛らしい声をあげてこちらに向かいウインクを投げた。


 「半ばよくわからなかったけどとりあえず、栄次を連れて戻って来いって事ね。」


 「わかってんじゃない。話は以上。じゃ、頑張って。あ、その子つけるから。」

 月子さんは甲高い声から一変して低い声になった。


 「あなた、嫌な性格って言われない?」

 「えー、そうかなあ……?月子さんわかんない❤」


 眉毛がぴくぴく動いているアヤに月子さんは人差し指を頬に当ててウインクをした。


 ……こんなアイドルいるかしら?


 誰をマネしているかわからないがアヤは心の中でそう思った。なんだか腹が立つのでさっさとここから出たかった。


 「で、どうやって弐に行ったらいいんだ?」

 プラズマも呆れていた。


 「おねえちゃんの部屋から行けるよ❤頑張って❤頑張れハートあげるねっ!ぷいーん!」


 月子さんはまた可愛い声に戻ると指でハートマークを作りプラズマに飛ばす。


 「じゃあ、月子さんはお疲れのようなのでそろそろ行くであります。」

 「どう見たってお疲れじゃないだろ!どこを見たんだお前は!」

 「そうよ!どこからそうなるの!」


 ウサギの発言で二人は思わず声を上げてしまった。月子さんはさっさとカーテンを閉めるとまたアイドル曲をかけ始めた。ウサギは慌ててアヤ達を追い出すとドアを閉めた。


 「何なのよ!あの女は!」

 アヤはついに怒りが爆発した。


 「……月子さんは自分がアヤ様達を連れてくるのが遅かったからご立腹のようでごじゃる。」


 「君も大変なんだな。てか、あれ、怒っていたのか。」

 ウサギがため息をついたのでプラズマは同情した。


 「はあ……もう、いいからさっさと行きましょう。」

 アヤはうんざりした顔でウサギを見た。もうどうでも良かった。


 「ふぃ……。わかったでごじゃる。この横の部屋が月子さんのお姉様のお部屋。」


 「近っ!」

 ウサギは月子さんがいる部屋のすぐ横のドアを指差した。この部屋のドアは一つだけだったはずなのだがいつの間にもう一つドアができたのか。


 「こんなところにドアあったかしら?」

 アヤは無機質な茶色のドアを眺めながら目を細めた。


 「ああ、月子さんの力でこのドアは普段封印されているでごじゃる。」

 「なんでだ?」


 プラズマはこのドアの異様な雰囲気に気がついていた。この建物自体異様だがそれとは違う雰囲気だ。このドアだけ違う世界のようなそんな気がする。


 「お姉様は眠っておられるであります。そしてこのドアは弐の世界に通じてしまっている。なぜこうなってしまったかはよくわからないでごじゃる。


 自分達は弐の世界の表面を管理しているのでごじゃるが、何があったか昔に当時月神トップだったお姉様が弐の世界に望んで行ってしまわれたらしい。月子さんはお姉様が帰ってくるのをずっと待っておられるのであります。ラビダージャン!」


 「そのお姉さんは弐の世界からこっちに戻って来られるの?」


 「普通は無理でごじゃる。一度入れば帰れなくなるでごじゃる。だがお姉様はなにか意図があって入ったと月神達からはささやかれているであります。故、あまり心配はしてないでごじゃる。」


 「なるほどね。」

 アヤはなんだか怪しいなと感じたが月の話なので関わらないようにしようとそこから先は特に聞かなかった。


 「で、その俺達も弐に入ったら帰って来られないんじゃないか?」

 プラズマが心配そうにウサギを見据えた。


 「ここからなら弐を間接的に見られるので弐に入らなくても過去神の心を探し出せるでごじゃる。見つけたらそこに入り込めばいいであります。時神は三人で一人。誰かがはぐれるという事もないと思われるでごじゃる。


 ただ、過去神を見つけてから弐の外へ出るにはどうすればいいか……。月子さんは時神の問題だから時神が何とかするべきだとおっしゃっていただけでごじゃるし……。」


 「無責任すぎるだろ……。」


 「なんせ、弐の世界はわからないからどうしようもないでごじゃる。それと、弐の世界には一人時神がいるそうで、月子さんはその時神を頼って戻ってきたらどうだろうかと言っていたでごじゃる。」


 「時神……。」


 アヤとプラズマはウサギの言葉に息を飲んだ。不安定な弐の世界に時神がいる……。その時神は弐の世界で何をしているのか。少し不気味だが頼みの綱にせざるを得ない。


 「まあ、このまま怖気づいて栄次をほったらかしにもできないし、行きましょう。」


 「そうだな……。戻れなくなったら……どうする?」

 プラズマはアヤの意見を伺う。


 「それを考えたらダメよ。今を考えるの。」

 「……だな。」

 アヤの言葉にプラズマはフフッと笑った。


 「じゃあ、ドアを開けるであります。」


 「ちょっと待って。あなたも行くって事はあなたも帰れなくなるかもしれないわよ。」

 アヤはウサギを止めた。


 「自分も戻れなくなったらとかは考えないで行くであります。」

 「それでいいの?」


 アヤの問いかけにウサギは微笑んで頷くとドアノブを握った。


 「君、意外に勇気あるな。」

 プラズマの言葉を最後にアヤ達は月子さんのお姉さんが眠っているという部屋へ入って行った。


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