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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト14

アヤ達は勝手にエスカレーターに乗っていた。


上に進んで行く内に天記神がいる所に白い霧がかかり始めた。おそらくウサギが開いた、月へ行く門が閉まり始めているのだろう。


 いつまでも下を見ているわけにはいかないのでアヤ達は上を見る事にした。エスカレーターのまわりには灯篭が多数浮いている。


まわりは白い霧で覆われており、とても静かだ。


 「静かで落ち着くでごじゃる。」

 いつの間にかアヤ達の近くに戻ってきていたウサギがほっとした顔でこちらを見ていた。


 「そうね。静かね。」

 「お、あれ見ろ。」


 プラズマが前を見るように促した。アヤはプラズマに従い、上を仰いだ。


周りの霧が少し上でなくなっている。霧の先で夜空に散りばめられている輝く星々が目に入った。


 「あそこから図書館の空間が終わるのか?」

 プラズマはウサギに質問した。ウサギは困惑した顔で首をかしげていた。


 「考えた事もなかったでごじゃる……。」

 「まあ、別にどうでもいいか。」


 プラズマがつぶやいた時、バッと霧が晴れた。周りは一瞬で星に囲まれた。星は暗い夜空によく生えていた。


 「きれいね。」


 アヤは星々を眺めながら下をふと見た。ビルや家々の明かりで様々な色に染まったきれいな夜景が眼下に広がっていた。


 「雲が多い日は残念でごじゃるが、そうでない日は創作意欲をかられる美しさであります!」


 「創作意欲ね……。まさかこのエスカレーターも作ったとか?」

 アヤの質問にウサギはにんまりと笑って頷いた。


 「このエスカレーターは階段を改造したのでごじゃる!」

 「そうだと思ったわよ。ほんと、あなたって凄いのね。」


 こんな会話をしている内に月が見えてきた。月は白いような黄色いような輝きを放ち、静かにそこに浮いていた。


やがて周りの風景がクリーム色に染まった。月に入ったらしい。


 「そろそろ月の宮に到着でごじゃる。ラビダージャン!」


 ウサギの言った通り、すぐに建物が見えてきた。建物は和風のお城。天守閣というのか。


 「うーん……城はいいと思うんだけど……。」

 アヤはうーんと唸っていた。プラズマも顔をしかめている。


そのお城はなぜかショッキングピンクに染められていた。パッと見て偉い人が住む城には見えない。それどころか入る気にもならない。


 「はい。到着であります!」


 固まったままだったアヤを動かしたのはウサギだった。ウサギはこの何とも言えない違和感に気がついていないのか平然とエスカレーターを降りる。


 「なんて言うか……入る気を失くさせる城……だな。」

 プラズマもアヤ同様戸惑いながらエスカレーターを降りる。


 「ご案内するであります。」

 ウサギはぴょんぴょん元気そうに飛び跳ねながら半ば引きずるようにアヤ達を誘導した。


 城の周りにいるのは男の兎だった。


兎はもともと小さい生き物だからか人型になってもそんなに大きな男はいない。耳だと思われる髪の毛は皆、ダンロップのようにぺたんと垂れていた。


どの男も着物を着ていたがその着物が可愛くアレンジされていた。皆、不本意で着ているように見える。


 「ただいま帰ったでごじゃる。」

 「あー、はいはい。月子さんがまっているよー。」


 男は城の前に座り込みながらニンジンをかじっていた。警備をしているらしいのだがどの兎もそういう風には見えない。


 アヤ達はその男を通り過ぎ、城の内部へ入る。


 「うわあ……。」


 二人は同時に声を上げた。城の中もショッキングピンクに染まっていた。


あちらこちらに真っ赤なリボンがつけてあり、床はピンク色の絨毯。その絨毯に赤いハートが無数に書いてある。


天井からは星とハートの飾りが垂れ下がっている。そして目の前にはエスカレーターがある。ちなみにエスカレーターもピンク色だ。


 「おいおい……なんだ。この夜の気分にさせる建物は……。」

 「知らないわよ……。ああ、これはだいぶイタイ事になっているわね……。」


城の内部にいる兎達は皆、女の兎で着物とメイド服を混ぜたような格好をさせられていた。


あんまり先に進みたくなかったがアヤ達はウサギに従い渋々エスカレーターを登りはじめた。


この城の神々や兎がおかしいのかと思っていたがどうやら違うようだ。

皆、嫌々やらされている感じである。


すれ違った男の月神も可愛くされていてもう見ていられない。男の月神の表情は暗い。せめてもっとメンズな格好をさせてくれと目が言っている。


月はほぼ例の月子さんに侵略されているようだ。

アヤ達は顔をひきつらせながらエスカレーターを登った。


「ああ、そうでありました!」

ウサギが何かを思いだしたようにアヤ達を見た。


 「何よ?」

 「月子さんは正装を望むのであります。」

 ウサギはアヤ達の格好を眺めながらポリポリと頭をかく。


 「ああ、着物になれって事な?」

 プラズマは「まあ、当然だよな。」とつぶやいた。


 「えーと……ヴェラッドゥム?」

 ウサギはまた下を噛みそうになりながらプラズマを呼ぶ。


 「プラズマだって言ってんだろ!いちいち難しく言うな。」

 「ミライ、さっさと着物になるでごじゃる。」

 諦めたウサギはやっぱりミライに戻ってしまった。


 「結局それに戻ったな……。ったく、いちいち失礼な兎だな。」


 プラズマはうんざりしながら手を横に広げる。神々の正装、霊的着物に着替えるのは実に簡単だ。手を横に広げるだけである。


プラズマの身体が光りで包まれたと思ったらもう着物に着替えていた。プラズマは青い水干袴に烏帽子をかぶっていた。


 「やっぱ霊的なものは軽いな。この着物はいいんだが今の時代、これで外歩いていたら写真とられるからな。」


 「たしかにそうね。……それがあなたの着物なのね。初めて見たわ。」


 アヤは感心しつつ、自分も着物に着替える。鮮やかなオレンジ色の今どきの着物。きれいな着物なのでアヤは結構気に入っていた。


 「アヤもよく似合っているな。」

 「ありがとう。」


 そんな会話をしている間に五階にたどり着いていた。五階は月子さんとやらがいる階だ。壁に現世のアイドルグループのポスターが多数張られている。


 「女のアイドルグループが好きなんだな。ここまで来るとファンと言っていいのかオタクと言っていいのかわからんな。」


 プラズマはため息をついた。


 「このポスター、一体どこから持ってきたのかしら?月子さんも月神も兎も人間に見えないじゃない。」


 「ああ、それは自分が……。」

 「複製したのね……。」

 ウサギが言いかけたのでアヤは結論を先に言った。


 「ラビダージャン!」

 ウサギはにっこりと笑って頷いた。


 なんだかどうでもよくなってきたので先に進むことにした。


廊下を挟んで沢山のドアがある。月神が住んでいるのか兎が住んでいるのかわからないがどのドアもピンク色で真っ赤なハートが大きくプリントされていた。


 ……ああ、目が疲れる……


 アヤはうんざりしながら進んだ。


まっすぐな廊下をしばらく歩くと大きなドアにぶつかった。一番奥にある部屋だ。


 「ここが月子さんのお部屋であります!ウサギンヌ!」


 ウサギはニコニコ笑いながらひときわ立派なドアをとんとんと叩いた。


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