流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト13
夜になったらしい。アヤとウサギとプラズマは天記神の図書館で妄想ノートを読んでいた。
「ねぇ、これが弐の世界にたどりついたっていうノート?」
アヤは天記神にマス目のノートを見せる。
「そうよ。それは今の大人が子供の時に妄想で書いたノート。
もういらないからと捨てられて行き場のなくなったノートがこの弐の世界にたどり着く。まあ、この図書館に来ることはとてもめずらしいんだけどね。」
天記神はなぜか顔を赤くして恥ずかしがる。アヤは不思議に思い、中身を読んでみた。
「うっ……。」
アヤは唸った。中身は女の子の妄想ノートだった。
……佐々木君とショッピングしてデート。ちゅうかを食べてしゅうまいをあーんってし合う。きれいな花畑で手をにぎってあついキス。
小学生くらいの女の子だろう。ずいぶんませた事を書いている。漢字がうまく書けていないところをみるとまだ小学校二年生にもなっていなそうだ。
……まあ、大きくなった女の子がこれを見たら恥ずかしすぎて破って捨てるだろうな。
「ね?私、これが一番すきなのよぅ!佐々木君との妄想デート計画書!たまに少し挿絵が入るのよね!佐々木君、なかなかイケメンじゃない。」
天記神が興奮気味に話す。彼は女性というよりも主婦だとアヤは思った。
横でプラズマは爆笑している。
この内に秘めたノートを捨ててしまったがために見ず知らずの神々に読まれているとは……かわいそうな女の子。
アヤは同情した。ちなみにウサギは天記神の横で眠っていた。夜行性なのでそのうち起きるだろう。
「おい、アヤ、俺とやってみるか?この妄想で。おい、天記神、焼売あるか?俺、佐々木君やるな!ははっ!」
「な、何言ってんのよ!」
アヤは呆れながら叫んだ。
「焼売はないけどアンパンだったらあるわ!やってみる?」
天記神はノリノリだ。このままではこのノート通りの演技をずっとやらされる可能性がある。
プラズマはたしかすごく気まぐれな男だった。アヤについてくると言っていても途中でやめるかもしれない。
「私の目的は月に行く事!あなた達の遊びに付き合っている暇はないのよ!」
アヤは声を鋭くして言った。
「わ、わかった。悪かったよ。冗談だ。冗談。」
プラズマはアヤの気迫に押されじりじりと後ろに退いていた。
「ざーんねん。目の前で美しいラブストーリーが見れると思ったのに。」
「あなたねぇ……。」
天記神はため息をつくとウサギを起こしにかかった。
「ウサギちゃん、月にお帰りの時間よ。」
天記神にしばらく揺すられ、寝言を言いながらウサギは目を開けた。
「うにゅぅ……ニンジンは自分のものでありますっ……。」
「このちっこいのは夢の中でもニンジン食ってたのか。」
プラズマはもごもご言っているウサギに呆れた。
「ちょっと、起きなさい。月に行くんでしょ!」
「ああ……時神様。はあ!時神様二人!」
ウサギはなんとか起き上ったが起きるなり、アヤとプラズマを見て困惑した顔になった。
「私はアヤでいいわよ。」
アヤは今更かと思ったが口には出さなかった。
「アヤ様!……と……」
「プラズマだ。」
「ヴィラドゥム……?」
「プラズマ……だ。なんでわざわざ難しく言ったんだ。お前は。……ああ、未来神でいいよ。」
プラズマはウサギが口をパクパクさせているのでわかりやすい方を口にした。
「じゃあ、ミライでいいでごじゃる。」
「なんで俺だけそんなぞんざいな扱いなんだ……?」
ウサギはアヤの影に隠れながら頭を抱えるプラズマを見つめていた。
「じゃあ、とりあえず自己紹介も終わっているし、さっさと行きましょう。」
「ウサギンヌ!」
ウサギは元気よくジャンプした。
「もう現世の図書館は閉まっていると思うから現世に戻らずにここから月に行きなさい。」
天記神が図書館のドアを開けてくれた。外はむあっとした暑さはなく、適温だ。アヤ達は外に出た。ここからは月の使いであるウサギに頼るしかない。
「ウサギンヌ!自分はここからしか帰った事がないであります!」
「そうねぇ。ウサギちゃんはいつもここで遊びすぎちゃうからダメね。
まあ、ここは壱の世界と陸の世界に食い込んでいる場所だからここからなら壱に月があろうが陸に月があろうが関係なく帰れるもの。」
「じゃあ、私達もとっくに月に渡れていたんじゃないの。」
アヤは時間の無駄をしたとため息をついた。
「それはないわよ。だってアヤちゃん達は現世の壱と反転の世界陸に二人存在するじゃない。あなた達が壱から陸の月に渡る事はできないわ。
陸は壱と昼夜逆転の世界。もちろん、陸にも壱と同じ人間がいる。月や太陽の関係者なら壱と陸で一体しかいないからどっちに月があっても渡れるのよ。
原則、太陽が出ている世界にいるのが太陽神、月が出ている世界にいるのが月神。太陽が出ている世界で月神や兎がいる事はない。
だから月神や太陽神ではないあなた達は陸にもいるからここから陸にはいけない。」
「なるほど。」
「俺にはよくわからないな。」
アヤは天記神の説明に大きく頷いたがプラズマは頭を捻っていた。
「ま、いいわ。とりあえず行きなさい。ウサギちゃんが門を開いているからね。」
天記神は空を見上げているウサギを指差した。太陽に行った時は大変だったなとアヤは改めて思った。
あれからそんなに時間はたっていないはずなのにだいぶん前の記憶な気がする。
太陽の件はまた別の話。
アヤは後でゆっくり思い返してみようと思ったのでここから先は考えないようにした。
「みんなーっ!いっくよ~♪」
ウサギは突然、騒ぎ出した。
「あっつい君のハートに虹色シャワーかけてあげるねっ♪どっきゅんどっきゅん!ああ!世はきれいなファンタジー!幻想の月はすぐそ・こ❤あれー?君の月はどこかな~?君の月はここ❤わ・た・し・よっ♪」
よくわからない歌詞で歌を歌いはじめたウサギをポカンとした表情でアヤ達は見つめた。
ウサギは意味わからずにてきとうに歌っているらしい。正直、歌は上手とは言えない。
歌い終わると目の前に長いエスカレーターが現れた。
そのエスカレーターの前には鳥居がある。なんだかすごい違和感があった。
その鳥居の横にアイドル度と書いてある電光掲示板が貼り付けられており、その電光掲示板に五〇%と書いてある。
「くあ~……ダメでありました……。やっぱり自分のキャラって難しいでごじゃるなあ。」
「……。」
悔しがるウサギにアヤもプラズマも何も言えなかった。このエスカレーターを登った先に色々な意味ですごい奴がいるようだ。
「まあ、とりあえず行くであります!ラビダージャン!」
「ウサギちゃん、二人とも引いているわよ。もっと自分を出して行った方がいいんじゃないかしら?」
「おお。そうか!次はこのままで頑張ってみるであります。」
ウサギはそう言うと天記神に手を振り、鳥居の中に姿を消した。
「アヤちゃん、プラズマさん、ウサギちゃんを追った方がいいわ。」
天記神が二人の背中を押した。
二人は思考回路が戻っていないまま押されて鳥居をくぐった。
「あ、ありがとう。じゃあね。ま、また来るわね。」
アヤはぎこちなく挨拶をかわす。
「えーと……そうだな。俺もまた来るよ。」
プラズマも戸惑いながら手を振った。
「いってらっしゃーい。」
天記神は笑顔でこちらに向かい、手を振りかえしてきた。




