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流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト12

 主が私の件を外に漏らさぬよう処理しろと下の者達に言ったらしい。城ではなく、屋敷で私は詰問をされた。


もちろん、『城の中の人間に』ではなく、『爆破した屋敷の連中に』である。私は何も語らなかった。


語るわけがない。私は忍だ。情報は漏らさない。


手と足は縄で縛られている。これから拷問されるのかなと考えた。だが誰一人、手を出してくる者はいなかった。


 「幽閉……するのはどうだ?」


 男の内の一人が声を上げた。私の外見が子供なのと女である事から情けをかけたんだと思われる。


 「そ、それがいい。いくら忍といっても子供だ。」


 男達は声を震わせながら次々と賛成した。殺されず一安心といきたいところだがおそらく更夜がそれを許さない。


この意見で団結し始めた時、更夜が男達を黙らせた。底冷えするような殺気が室内を包んだ。更夜は鷹というあだ名で恐れられている。


まわりの人間も更夜に恐怖心を抱いていた。故に誰も更夜を怪しい男だとは思わない。更夜は常にこうで、皆から怖い男と認識されているためだ。


 ……賢い男だね……本当に。


 「まったくぬるい。この子は忍です。忍は情報を持ち逃げし、一度逃げたら足あとを追う事も不可能。


おまけにこの子は城の内部に潜入し、殿の首をとろうとしている。私も信じたくはないが城内部に潜入している所を栄次が見てしまっている。」


 更夜は感情のない声で栄次に同意を求める。栄次は小さく頷いた。


栄次は更夜を真面目で正義感の強い男だと思っているらしい。栄次は城に入り込む『私』を見てしまい、動揺しているようだ。


更夜が殿につくす男だと考えている栄次は更夜の正義感を無視できず、困惑した顔で同意する。栄次がどういう性格なのか更夜はわかっていたんだろう。


『私』になりすまして城に侵入するついでにわざと栄次の前を通ったらしい。


 ……本当にどこまでも最低だ。


 「皆さんがこの子を殺せぬというのならば私が殺しましょう。この子はいくら拷問してもおそらく何も吐かない。」


 更夜は冷たい瞳で私を見る。私は更夜を睨みつけた。

こいつだけは殺してやりたい。


 今の私は怒りと後悔と屈辱でいっぱいだった。知らずに溢れ出る私の殺気にまわりの男達が恐怖して距離をとる。栄次は諦めたように目を閉じていた。


 更夜が遠ざかる男達を避け、私に近づいてきた。腰に差している刀を抜いた後、私に目線を合わせるようにしゃがんだ。顔を近づけ、私の耳にそっとささやく。


 「忍に思いやりや同情の心はない。お前に同情したら俺がお前に殺される。忍は隙を見せた方が負けだ。


お前は今も俺を殺したいんだろう?殺したくてたまらないんだろう?普通の子供はな、そんな冷酷に……そして簡単に人を殺す事はできないんだ。


まったく騙す事と殺す事を最優先に考える子供というのは悲しいな。お前の素直な笑顔が一度見たかったものだ。嘘で塗り固められたものではなくて……な。」


 更夜の声が最後だけふと柔らかく優しくなった。


更夜の仮面の下を見たような気がした。だがそれは一瞬で消えた。すぐに私から離れるとまた冷酷な瞳で刀を振りかぶった。


 ……おかしい……更夜がこんなに隙を見せるはずがない。


 私は更夜の刀の振りかぶり方が隙だらけに見えた。


このままだと死にきれないと思い、左手に仕込んでおいたクナイで手の縄を切り、そのクナイを一か八かで更夜に投げつけた。


クナイはまっすぐに飛び、更夜の右目に深々と刺さった。


 「ふむ。ここまで抵抗するとはな……。見事だ。」

 更夜はまったく怯まず、そのまま刀を振り下ろし……私を斬り殺した。


私が最後に見たのは自分の身体からあふれ出る真っ赤な血とせつなさと悲しみを含んだ蒼い鷹の左目。


 ……隙を見せた方が負け。彼はそう言った。


最後の最期、彼は私に大きな隙を見せた。私に殺してみろと言ったようなものだ。それに気がついた私はわざと目を狙った。


最後まで更夜の思い通りになるのは嫌だったからだ。少しだけだが彼に復讐できた気がした。


 でも今思えばそれは『復讐させてやった』という事なのだろう。


 私が死んでからすぐに更夜は栄次に殺されたらしい。


そこから先の記憶は栄次から聞きたい所だね。この件は栄次が思い出す事に意味がある。わざわざ私の心を公にしたんだから思い出してくれないと困るんだよね。


計画上。


 私は今もずっと……更夜を殺す術を探している……。


* * * *

 

 わたくしは人々が作り出す個々の世界、弐を眺めながら思うのです。

 栄次の世界は栄次の心が明るくならないかぎり……幸せになれない。


わたくしはそう思うのです。このままでは更夜は無限に鈴を殺し続け、鈴は無限に更夜を殺そうとする。


 弐の世界は心の世界。死んでしまった生命も住む世界。生きている生物の心が霊達の住む所。


 ……栄次……あなたの心で鈴と更夜の人間像を変えないといけないのです。生前の人間像に囚われているとその人間の魂はずっとそのままで変わりません。


あなたがきっと今はこうなっているに違いないといい方向に想像するだけで二人の魂は救われるのです。


 ……あなたは知らずの内に沢山のものを引きずってしまっている。それの処理の仕方がわからず、鈴を常世に出現させてしまった。


そしてあなたは自らの心にカギをかけた。


 ……お願い。気がついて……栄次……。このままではいけません。

 わたくしは栄次の心を見ながらずっと訴えかけるのです……。


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