表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/560

流れ時…最終話リグレット・エンド・ゴースト8

私は忍だった。


 ……知っている……


 まあ、いいからちょっと聞いて。


 ……かまわん……


 私があの時、何を思って動いていたのか……あなたに見てほしいの。

 ……。

 

※※


 「鈴。」

 「はい。」


 ここは人里離れた山の中。ここに私達の隠れ家があった。私は当時十二歳。


 本当は七歳なんかじゃなかった。


ただ、顔が幼すぎなのと身長が低い事から子供によく見られていた。


七つと言っておけばどんな敵だって必ず隙を見せる。これも忍術のテクニックだ。


 ここは隠れ家内の畳が敷き詰められた部屋。


 「お前にやってもらいたい事がある。」


 私の目の前にいるのは伊賀流の忍術使いで霧隠と名乗っている男、私の父。才蔵ではない。


普段はみすぼらしい着物を着ている。ちなみに私も前で合せてひもで結んだだけの簡単な着物を着ている。


 「なんでしょうか?お父様。」

 私はなんだか嫌な予感はしたが逆らわずにとりあえず話を聞くことにした。


 「くちなわと鷹は知っているか?」


 「知っていますが。」

 「お前にそれの討伐を命じたい。」

 「!」

 嫌な事だとは思っていたけど予想をはるかに超える事を言われた。


 「お父様がやればいいじゃないですか……。」

 「まともに向かっては勝ち目がない。」

 父が何を言おうとしているのかすぐにわかった。


 「お父様は性転換もできるではないですか……。まあ、あれは凄く痛いらしいですが。」


 「伊賀流の忍術を使って女に化けてもあの者達は騙せない。だがお前ならできるだろう。お前は正真正銘の女だ。」


 「……。家を存続させるのが大事なのですね……。ここの城主にあの二人を殺せと命令が来ているのでしょう?」


 私の言葉に父は渋面をつくった。


どうせ私の事なんてただの駒くらいにしか思っていないだろう。私には兄がいる。


その兄に家督を譲るために父は頑張っている。


兄はここからそんなに離れていない城の屋敷に住んでいる。影の稼業でまわりを蹴落としてきたが一応、そこらで名の通った武将だ。


 蛇と鷹は敵国に住む殺人鬼のあだ名である。勘が鋭く、まわりの偵察忍者もかなりやられている。


かなりの腕利きで反射神経も忍をはるかに上回る。忍もこの国の武将もあまり会いたくない人物だ。


故に、自国は隣の国にも関わらずあの国を落とす事ができない。


 その腕利き二人を殺せと父は言う。


 「……わかりました。」


 私は諦めてこう言った。忍は組織で動いている。


武将は兄だがその下には蟻のように沢山の忍がいる。今も遠くで吹き矢を構えている男がいるらしい。私が反対したらきっと殺すつもりだ。


忍は情報を外には絶対に漏らさない。このまま、反対して逃げたらどこまでも追ってきて殺される。


 観念した私は七つの娘として敵国に入り込むことにした。着物などは父が用意してくれた。


父親が娘を敵国城主に売るという話でまとまった。金がない家を装い、汚らしい格好で父親役の男に連れられて取引所に向かう。


敵国の城主は鷹と蛇のおかげかピリピリしている様子もなく、他国から女を買っては遊んでいるらしい。


正室も側室もいるって言うのに。


蛇と鷹が消えたら終わりだろうなと私は思った。


ここ取引所で女達は使いの者が来るまで待機させられる。金のない農村の娘達が身体を震わせながら座り込んでいた。


見張りの多い門の前で待たされる。どの娘も十五、六くらいだろう。私よりも年上だ。


私が果たして彼女達と共に城の内部へ入れるか……少し疑問を持った。


やがて使いの者だと思うが、ひとりずつ顔から身体から眺めまくっている男が現れた。


選別しているらしいなと私は思った。弾かれた女は涙を流し、別の男に連れて行かれる。


……この中で素直に家に戻れる女がいるかな……。ここで弾かれたら自殺するしかないね。


……それか……

私は連れ去って行く男を睨みつける。


……あの男どもが手をつけてから別の所に売るか。

あの男達に殺されるか……。


まあ、いい選択肢はないね。


「なんだ?生意気な顔をしているな。」

「はっ!」


私は選別の男が前に立っている事に気がついてなかった。


……しまった……


「お前、まだ子供だろう?……まあ、長い目で見ればありか……。ふむ。体はそこそこ。顔は上々。」


男はそれだけ言うと隣の女へと行ってしまった。


私は他の男に連れ去られる事はなく、その場に残された。気がつくと残されている女はたった三人。


他の女はすべて弾かれたらしい。


私達三人は男に無造作に担がれ、樽の中へ押し込まれた。


……なるほど……正規ではなく、贈答品とかと混ぜて城に入れる気だね。


私は樽の隙間から外を伺った。


牛車に乗せられているらしく揺れが激しい。


前に樽が二つ。おそらく私以外の女。後は刀とか食べ物とか兜とかそういうのだ。


城に入ったところで前二つの樽は担がれて城の内部へと消えて行った。


しかし、私の入っている樽は一向に担がれない。


他のよくわからないものもどんどんと城の内部へ吸い込まれていく。


不思議に思っていると樽の蓋がパカッと開いた。


「……?」

私は上を向いた。眩しい太陽の光をさえぎって先程の男がこちらを見ていた。


「お前はまだまだ殿に奉仕できる女じゃないからな。城に入る前だ。」


「……。」

私は怯えたような顔をする。平気な顔をしていたら怪しまれるからね。


なんとなく見えてきた。


……お父様はこれを狙っていたんだ。


ここの城のつくりは覚えている。


城の近くの屋敷には名のある武将が住み、城の遠方にある屋敷には地位はそれなりだが手柄が多い武士が住む。


つまり、城主が要注意人物と思っている人間か、裏切る可能性が高い人間をこちらに住まわせているって事。


手柄が多いのに地位をそれなりにしているって事で予想がつく。


この城から遠い所にある屋敷は少し特殊で個人で屋敷を持っていない。


つまり沢山の武士が缶詰状態にされているって事。


故にお手伝い兼、夜の秘め事用に女が多数住み込みで働かされている。かなり特殊な屋敷だ。


……蛇と鷹は城の中じゃない……ここにいる……。


少し身震いしたが冷静な面持ちで樽から外に出る。


「怖いか?」

「……。」


男の問いかけに私は怯えて声も出せないフリをした。男はニッと下品に笑うと私の手を引いて歩き出した。


……下品な男……。


私はそう思いながらも男に素直について行った。

そして一つの屋敷の前にたどり着いた。


城からかなり離れていたがけっこう大きな屋敷だ。


「じゃあな。後はここの女どもに聞いてくれ。」


男は乱暴に私を突き飛ばした。私は受け身をとろうかとも思ったがやめて素直に転んだ。


 男はそれを満足そうに眺めると私に背を向け歩いて行った。


 ……中に入ってまず、蛇と鷹の居場所を突き止めるのが先だね。


 私は身体についたほこりを払うと屋敷内へと足を運んだ。


 屋敷内はきれいに掃除されていた。軋む音がする木の廊下を歩きながら物の場所を確認する。


 ここは廊下の両側に障子で仕切られた部屋が多数ある。これのうち、どれかが蛇と鷹の部屋。


 まずは内部調査からやっていかなければならないね。


 少し歩いた所で気配がした。私は振り返りたいところを堪えて気がつかないふりをする。


 「あなたが新入り?」


 声をかけてきたのは女だ。振り返るときれいな着物を着ているきつい顔の女が立っていた。


 「え……えっと……。私はどうすればよろしいでしょうか……。」


 私はわざと戸惑った声をあげる。演技には自信がある。私は何度もこういう潜入をして人を殺してきた。もう今更、なんとも思わないけど。


 「こっちにきなさい。」

 女は冷徹な笑みをこちらに向けている。


 ……ああ、なるほど。この女はいやがらせ、もしくはいじめの達人だね。


 私はわかっていたがあえて従い女の元へ向かう。

 女は私の手を引いて歩き出した。


手を握る力の強さ、引っ張り方でこの女が今、どういう気持ちなのかなんとなくわかった。


 単純に遊び道具が来たとしか思っていないね。

 私は呆れたが顔には出さずに従う。


 女は男達が住んでいる部屋から少し離れた部屋の前で止まった。中から女の声がする。


 ここは女部屋らしい。

 女が障子をそっと開ける。


 「ねぇ、見て。こーんなみすぼらしい子が入ってきたわ。」


 女がひどい言葉で私を紹介する。

女部屋には沢山の女がいた。


座る場所がないくらいだ。そして化粧や香の匂いだろうか、艶やかな匂いがする。


 ……夜は男の部屋に行っているから寝る部屋がなくてもいいのかな。


 私がそんなくだらない事を考えた時、女達の過激ないじめは始まっていた。


 「ねぇ、あなた、男に対するご奉仕の仕方知っている?」


 女の内の一人が私に詰め寄ってくる。いやらしい笑みを浮かべて化粧の濃い顔で近づいてくる。


 「知りません……。お姉さま。」


 「障子戸をいきなり開けてね、お水を盃に入れてあげるのよ。それでね……。」


 ……この女は私に恥をかかせるつもりだね。男の奉仕の仕方はある程度知っている。


 無茶苦茶言ってるけどなかなかおもしろいよ。お姉さん。


 「そうなのですか。参考にいたします。」


 私は無邪気な笑みを女に向ける。女は満足そうに頷いた。


 「あ、そうだ。ねぇ、この子、今日、栄次様付きにしてみない?」


 「あはは!それいい!」

 一人の女の意見に他の女達は笑いと共に騒ぎ出した。


 ……栄次様?


 「じゃあ、あんた、今日栄次様ね。」


 女は急にそっけなくそして冷たい目で私に命令をした。


 ……この女達がまともな男を指名するはずがないね。きっと危ない男だろうな。もしかしたら……。


 「あの、お姉さま、栄次様ってどういうお方ですか?」


 「とーっても優しい男よ。安心しなさい。」

 この笑み、この声の高さ……間違いない。嘘だね。という事は真逆かな。


 「戦で強いお方なのですか?」

 私は信じたふりをして目を輝かせる。


 「そうよ。とーっても強い方。」

 女は調子に乗ったのかペラペラとしゃべり出す。


 ……これは声の感じで嘘じゃないね。という事は強くて冷徹な男。……ありえるかもしれない。


 だが殺すのはちゃんとわかってからだ。しばらく、時間がかかりそうだね。


鷹と蛇の外見とかどういう性格か、いつ隙を見せるか……。いままでの殺しで一番、大変な仕事だね。


 まあ、私自身、男の子に化ける事が多くてこんなガチガチな女役なんて初めてなんだけど。


 まわりの女達を見ても笑顔が引きつっている。誰もその男の場所に行きたがってない。


 ……これは心してかからないと……殺される。


 時間はいくらでもある。長い年月をかけて確実に殺せる時に二人とも始末する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ