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流れ時…5プラント・ガーデン・メモリー20

 イソタケル神はアヤから目を離すと冷林を掴んだ。

 目を離された事によりアヤとカエルの力が少し緩む。


これ以上、何も言う気になれなかったし、何もする気になれなかった。

 脱力感がアヤの行動力全部を奪い取った。


 アヤはただ、呆然とイソタケル神の右手を見ていた。


イソタケル神の右手には剣のように鋭くなった草が握られている。


左手に掴んだ冷林を高くかざし、右手に持った剣のような草をつきつけて構える。


 「お前は花姫の責任をとらなければならない。あの時、責任を問いただした時、お前は逃げた。その責任、その罪をここで償ってもらおう。」


 アヤは一秒がやけに長く感じた。ここで動かなければ冷林は殺される。

 動けない中、アヤは冷林が何を思っているのか考えた。


 ……ああ、そうか……


 結論はすぐに出た。


 ……冷林は花姫が何をしていたのか全部知っていたんだわ……。


助けを請わない彼女の意見を尊重して気がついていないふりをして……禁忌に手を染めてしまった花姫を……黙ってみていた……。


 ……そして禁忌に手を染めた罰として冷林は花姫を見捨てた。そのことに花姫も気がついていて彼女はイソタケル神に何も言わずに死んだ。


 ……そういえば花姫、こんな言葉を言っていたわね……。


『私が彼の生までも無駄にしてしまったと……あなたはお思いなのでしょうね……。冷林様。』と。


やはり、花姫は冷林が自分の禁忌に気がついていると確信していた……って事。


 「ま、待って!」


 そこまで考えた時、アヤは声を発していた。

 隣にいたカエルはビクッと肩を震わせたが何も言わなかった。


 「なんだ。」


 イソタケル神が再びこちらを睨む。言雨が緩んでいたアヤとカエルを突き刺した。


 「れ、冷林は……責任をとりたくてもとれなかったのよ……!」

 アヤは倒れそうになりながらも必死で声を上げる。


 「……どういう事だ……。」


 「れ、冷林はもう……人間と密接にかかわってしまっていたから、あなたに処刑されたくてもできなかったのよ……。


 自分が死んだら人間は?この林は?魂はどうなる?って考えたんでしょうね……。だから……あなたから逃げたのよ……。


 それともう一つ……花姫を守ったの。」


 「花姫を守った?それはない。やつは花姫を見捨てた。一年も経っていない弱小神、自分の部下となる神を無情にも消したのだ。」


 イソタケル神の威圧でアヤはそれ以降何もしゃべれなかった。つたう汗とぼやける視界と戦いながら立っているのが精一杯だった。


 ……違うのよ……違うの……。

 

 冷林は花姫が自分のせいで死んだと周りに思わせるためにあなたに何も言わなかったのよ。


 もし、冷林が素直にこの出来事を言ってしまったら……花姫の禁忌は死んでからも消えない罪となってしまう。そして……天記神もただではすまない。


 アヤはそれが言いたかった。花姫の罪もすべて話したかった。


 だが言葉が声に変わる事はなく、アヤはただ怯えた目でイソタケル神を見つめるしかできなかった。


 押しつぶされるようにアヤは再び膝を折った。

 そのまま倒れ込むが腕で額が地面につかないように必死で耐えた。


 「アヤさん!」

 「っ?」


 誰かがアヤの前に素早く立った。

 すぐにアヤの身体から重いものがすべて取り払われた。脱力しつつ、前に立った者を見上げる。


 「……ひ……ヒエン……?」

 「アヤさん!大丈夫ですか!」


 アヤの顔を心配そうに覗き込んでいたのはヒエンだった。

 アヤはボウッとする頭で自分の顔を触り、地面に目を向けた。


 滝のように汗をかいていた。アヤの汗で地面の色が黒っぽく変わっていた。


 「ふいー……やばかった……。ヒエンが生きててよかった~……。」


 気がつくと隣でカエルが足を投げ出した状態で座っていた。気絶している花姫はカエルのすぐ横で無造作に放置されていた。


 「カエルさん……。」


 「ああ、もうやだ。

 

 こんなに疲れるんだったら別に泉が戻らなくてもいいや。

 

 現に今、向こうでは雨が降っているわけだし、今のあたしに不自由なかったわ。だいたい、あんなのといたら命がたりないよっ!」


 カエルは悪ぶれる様子もなくニヒヒとヒエンを見て笑った。


 「カエル!あなた裏切っといてそんな……!」

 アヤは腹が立って叫んだがすぐにヒエンに止められた。


 「アヤさん。もういいです。蛙とはそういう生き物なんです。

 

 雨雲のように感情がうつろいやすく単純で純粋。

 

 何も考えずに行動し、思った事はすぐに実行する。……その話は聞いたことがあります。」


 「やっぱり神様の常識は人間様には伝わらないって事ね。もういいわ。」

 アヤは諦めてもう一度ヒエンに目を向ける。


 「あなた、無事だったの?怪我は?」


 「あれくらいでは何ともありません。

 ただ遅くなってしまった事が心残りです。」


 イソタケル神は何をしているのか先程からまったく動きがない。それに気がついたヒエンは慌ててイソタケル神の方を向く。


 「お前が……草泉姫神というのか。先程そこのカエルから聞いた。」


 イソタケル神は消すはずだった冷林を離し、後から来た草姫と天記神に目を向けていた。


 「そうよ~。やっと正式に会えたわ~。

 

 キツネノカミソリね~。花言葉は再会。

 問題がキツネ関係だしちょうどいいわね~。」


 草姫はクスクスと笑う。その後ろで天記神が顔を引き締めて立っていた。


 「やはり花姫とは別神か……。……で、なんで書庫の神が来ているんだ?」

 イソタケル神の声で天記神はビクッと肩を震わせる。


 すべての視線が天記神に集まった。しかし、天記神は何も言わなかった。


 「そうか。歴史を改変しようとしている僕を止めに来たか。」


 「……違うわ……。」


 天記神はしばらくしてから口を開いた。


 「では何をしに来たんだ?」

 「あなた達を全員消しに来たの……。」


 「……なっ!」


 イソタケル神の問いかけに天記神は即答した。


 アヤもヒエンも草姫もカエルも皆予想していなかった答えだった。

 天記神はふっと顔をあげるとクスクスと笑った。


 「本の中は私の管轄よ……。」


 天記神は両手をバッと横に広げた。

 

 刹那、五冊の本がどこからともなく現れ、天記神の周りで五芒星を描いてまわりはじめた。


 「な、何……?」


 「本の裏側、紙と紙の間に連れて行ってあげる……。

 

 そこで全員この世界から消してあげる。」


 天記神は勝ち誇った顔でヒエンを見据えた。


 「な、何を言っているんですか!や、約束が違います!」


 「やっぱりあの件は……見つかりたくない。」


 天記神が目を閉じてそうつぶやいた。

 あたりは何の変わりもない。先程と同じ風景が広がっている。


 ただ、すべての物に動きというものがなくなってしまった。


 「……時間が止まった?」


 アヤは感知しようとしたが時間が止まっているとはどうしても思えなかった。

 止まっているのとは違う。だが止まっている。


 「本の中、木の記憶で歴史、現在進行形のものじゃないから時間が止まったのとは違うわよ。


 あなた達がページとページの間に入り込んだだけ。

 ここなら何をしても読者や外部の者に知られる心配はない。」


 「確かに絶対に見ない所ですね……。紙と紙の間は。」

 ヒエンはいたって冷静だ。


 「じゃあ、これは斬っちゃったほうがいいわね~。」

 草姫は大きなハサミを構えるとやみくもに周りを斬り始めた。


 「やめた方がいいわよ。この生きた歴史書がただの灰になるわ。」

 天記神の言葉で草姫の手が止まった。


 「植物の生死のバランスを保っている私が勝手に歴史書や木を伐採する事は禁忌。確かにやめた方がいいわね~。」


 「歴史書の中の木はあなただったら操れるでしょ。

 

 歴史書となっている木に


 『見なかった事にして』

 

 と言えばあなたが本の中で草花をいくら殺しても歴史になんの影響も出ない。

 

 ここに連れこめば記憶と記憶のはざまだから何にもない。

 あなたは草木と会話する術もない。」


 「あら~ずいぶん詳しいのね~。困惑しているわ~。クロタネソウよ~。」


 草姫と天記神の会話中、アヤは天記神の周りをまわっている本を眺めていた。

 

 タイトルが書いてあるのだがよく読めない。


 ちなみにカエルはとなりで止まってしまった草を触っている。

 色々と興味がなくなっているらしく、はやく元の世界に戻りたいらしい。


 「ここでは誰も能力を発動できないって事ですね。

 草花がないって事ですからね。」


 ヒエンはちらりとイソタケル神を仰ぐ。

 イソタケル神は戸惑っているようだった。

 なぜこんな事になっているのかを必死で考えているようだ。

 

 今現在、彼一人だけあの時起こった真実を知らない。


 いつの間にか花姫はイソタケル神の腕の中へと戻っており、イソタケル神に全身を預ける形で止まっていた。相変わらず気絶したままだ。


 アヤは所々見落とした文字を当てはめて予想でタイトルを作り上げた。


 ―動かぬ狭間

 ―留める紅炎こうえん

 ―轟く閃光

 ―唸る荒南風あらはえ

 ―落つる氷柱ひょうちゅう


 ……この五冊だ。一体どういう意味なのかわからない。


 ……動かぬ狭間……これだけはなんとなくわかるわ。今の状態よね。

 まさかあのタイトルどおりの事をここでするつもりじゃないでしょうね……。


 アヤは警戒しながら本を目で追う。


 ……荒南風っていうのは……漁師が使うあれよね……。

 梅雨時期の強い風……だったかしら?


 「アヤさん。この本が気になるの?」


 天記神は何の表情もなく問いかける。

 アヤは戸惑ってはいたものの何も言わなかった。


 「この本はね、子供が妄想で書いたノート。

 ゲームや漫画の影響でしょうね。


 自分もこんな能力使えたらとかこんな世界があったらとかそういうのを書いたものよ。子供が大人になるとこんなものはバカバカしくなる。


 これらノートは燃えてなくなり行き場を求め、私の所へたどり着く。

 

 小説でもなんでもないただの落書き。でもこの落書きは私が編集する事で霊的な能力へと変わる。……たとえば……」


 天記神は『留める紅炎』を読んだ。


 何と言ったのかはわからない。ほぼ一瞬の出来事だった。


 アヤ達の周りに深い紅色の現実にはないような炎が突如噴き出した。


 「あ……っつ!」

 カエルは慌ててアヤの側に駆け寄る。


 「この炎……ありえないくらい熱いわ~。水分が全部飛びそうだわ~。」

 草姫もあまりの熱さに真ん中にいるアヤに近寄ってきた。


 「あああう……!」

 ヒエンとイソタケル神は炎から離れていたのだが苦しそうに声をあげていた。

 

 火はもともと草木の神にはつらいものだ。


 「ヒエン!」

 「あ、アヤさん……大丈夫です……。」


 慌てて駆け寄ってきたアヤにヒエンは苦しそうに咳き込みながらつぶやいた。


 「あれはなぜ僕達を消そうとしているんだ……?」

 イソタケル神は肩で息をしながらヒエンに向かって歩いてきた。


 「それの原因を彼から説明してもらうはずだったのですが……お兄様。

 申し訳ありません。」


 「予定が狂ったという事か。それに関しては後で聞こう。


 ……草木を作り出した僕達にはこの炎は予想以上にきついな。


 天記神は僕達の弱点をついて一番に僕達兄妹を消すつもりだ。能力を使わせないようにする戦術から僕らを殺す以外の事は考えていないらしいな。」


 イソタケル神はツルのような髪から水分を花姫に渡していた。


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