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真実

「ーー起きない」




 凛とした声がまるで頭の中で響き、現れた少女に俺の意識が向く。


「姿がないままだと話し辛いわね」


 そう言うと少女は、PCを操作するかの様に何もない空間で指を動かす。

 すると、普段の学生服に身を包んだ姿で、俺は体を取り戻す。

 試しに上半身を動かしみるが、いつもの生活と全く同じ感覚だ。


「一応、アンタが轢かれる少し前の姿で再現したわ」


(そうだ……俺はさっき車に轢かれたはず。なんだ、さっきのは夢? いや、この状況が夢か……?)


 困惑し頭を掻き毟るが、なにも状況を整理できない。

 そして前方にいる少女が俺に歩み寄ってくる。


「少し落ち着きなさい。面倒だけど何となく説明してあげるから」


 すると少女は自分の胸に手を当てて


「私の名前はβ。そしてここは、電脳世界よ」


「……は? 電脳世界?」


 なにを言っているんだこの小学生は?


「いいから聞きないミジンコ。まず、アンタが今まで生きてきた世界は、ある研究の実験として作りあげられた電脳世界『ノット』よ。そして現実世界の人間が『ノット』を作り上げている量子コンピューターのサーバー内に、自分達の保存した人格を再現しているデータが、アンタたち人間の正体」


 βと名乗る少女は再び何もない空間で指を動かして操作する。

 すると俺とβの横の空間に、なにか映像が投影される。


「この映像が現実世界の光景よ」


 その映像には、映画で見たことのある様な近未来的な街並みが写っている。

 そして映像が変わり、宇宙服の様な姿の人間達が、見た事もない機械に囲まれた真っ白な部屋で研究している映像となる。


「この研究の目的は、完璧な人の心をもつ人工知能をつくること。『ノット』は現実世界から30年前の世界を設定して、アンタたち人格投影データの人間に近い反応や感情パターンを記録し、完璧な人工知能の研究をしている訳」


  βは淡々と説明してくるが、それを情報として記憶するのが精一杯で全く飲み込めない。

 俺はこの不可解な状況に次第に苛立ちを募らせ、それをβに向けてしまう。


「……さっから意味わからねぇことばっか言ってんじゃねぇよ!?」


 俺はβに詰め寄り、彼女が着ているワンピースの胸ぐらを掴む。


「この領域では、私が絶対なの。分をわきまえなさい」


「がはっ!?」


 突如、何もない空間に巨大なピコピコハンマーが現れ、それがひとりでに動き、俺の体側面を叩く。

ピコピコハンマーは悠々と俺の体を吹き飛ばし、何回転も転がる。


「この領域だけでは私の思うがままに空間を操る事ができるから、こんな風におもちゃのハンマーを出したりすることも可能なの。これに懲りたら私に歯向かわない事ね」


 耳鳴りが酷く、叩かれた体が激痛が走り、俺は呻き声を上げてその場で身をよじらせる事しかできない。


「それじゃあ話が進まないじゃない。あんなおもちゃのハンマーでも思いの外威力がでるものね。まあハンマーで叩く前の状態に戻すから黙って真剣に話しを聞きなさい」


 βがそう言うと、俺の体が光に包まれる。

 すると、体の痛み等が一瞬で消えたのでその場から立ち上がり、これ以上痛めつけられるのは堪らないので仕方なく相手の言う事に従う。


「ここからが本題なんだけど、アンタには理由は分からないけど『死の運命』が設定されてるの」


「死の運命……?」


 また不吉なワードが出てきて吐き気がする。


「死の運命っていうのは……その前にパラレルワールドについて説明しないといけわね。 アンタが認識している世界ってのは、いくつもの平行世界のうちのひとつ。現実世界ではこのパラレルワールドの存在が化学で証明されたの。これは電脳世界といえど、『ノット』は忠実に現実世界を再現しているからパラレルワールドも存在している」


 また頭が痛くなってきた。


「というのも『ノット』内を観測してる現実世界においてだけ、パラレルワールドの存在がデータ上で観測したの。そしてアンタはどのパラレルワールドにおいても、日にちはバラバラだけどある日までに死を迎える設定となっていた、これがアンタの『死の運命』。この死の設定に気づいたのは現実世界の『ある研究員』」


 そしてβはこの研究員を『研究員X』と仮称すると言う。


「理由は分からないけど『研究員X』はアンタを死の運命から回避させようとしている。そして何故かアンタの一部設定データがブラックボックスとなっていて、書き換えれないと知った『研究員X』は、誰にも気づかれないままある人物の人格データを基にアシスト人工知能『β』、つまり私を作り上げたの」


「お前こそが、意味分からねぇ研究目的の、完璧な人工知能ってやつじゃねぇの?」


「まあアンタみたいなグズから見たら私は完璧に見えるでしょうけど、実際はそんなものじゃないわ」


 よく分からないが、まあ俺としはどうでもいい事なので「ふ〜ん、あっそう」と適当に返答しておく。


「そして私はアンタが死の運命を回避して『8月10日』を迎えるアシストをする様に設定されてるの」


「な、なんだよ『8月10日』って?」


「アンタのデータを一部解析できて、そしたらどんな行動をしても『8月10日』までに死亡する様に設定されてるの。ただ『研究員X』は初期値鋭敏性によって、無数に存在するパラレルワールドのいずれかには、必ずアンタの死の運命を回避できる可能性があると考えているわ」


 βはケータイの様な機械を俺に投げ渡してくる


「その情報端末は、二つの機能があるの。一つはアンタが現在いる時間軸を認識できる機能。もう一つは現在いる時間軸にアンタの意識を保存する機能。これによって、アンタは保存した時間軸のいずれかからやり直す事ができる」


 自分の手の平にある情報端末を呆然と見てみるが、そんな機能を自分が使えるイメージが全く湧かない。


「この機能を使って、無数にあるパラレルワールドのうち生き残れる世界に辿り着く『ルート』を探して 」


 説明が終わると、情報端末が俺の手の上から突如消え去る。


「アンタが次に目を覚ました時に、その情報端末が手元にある様にしとくわ。 それじゃあ一通り説明したから、向こうの世界に戻ってもらうわ」


 βは疲れた様にフゥと息をつき、説明を終えようとする。

 なんだコイツ、ただ疲れから適当に終わらせようとしている気がする。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!? まだ全然訳が分からなーー」


 βは指を耳に当て、煩わしい表情をして俺の声を遮る。

 コイツ俺をアシストするとか言っていたくせに、対応が雑じゃないか?


「あーはいはい。まあ私もたまにはそっち行くから、とりあえず頑張んなさい」


 その言葉とともに俺の体が光に包まれる。

 そして意識が朦朧とし、体の感覚もなくっていく。


「もう一度言うけど、アンタの行動一つ一つによってパラレルワールドが変わるわ。よく考えて行動して、生きのびて」


 体の感覚が消え、僅かな意識の中で遠くからβの声が聞こえる。




 ーーそして再び意識が閉じる。


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