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序章 7-5


「……隠れてても無駄だよー?」


 彼女の声が廊下から聞こえる。その声は穏やかにも聞こえるが、確かな殺意が潜んでいる。


 俺は震える身体を必死に抑え、教室の教壇の下に隠れ必死に息を殺す。


(ーーな、なんで、アイツがこんな事を……!)




 一時間程前の記憶を遡る。




 幼馴染である朋也、そして中学からの友人である麻衣、そして俺を含んだ三人は、地元にある廃校に集まっていた。


 俺たちを呼んだのは麻衣で、相談したいことがあるからとメールが届いており、休日の夕方にこの廃校を指定された。

 俺と朋也は、決して変な冗談をつかない真面目な性格の彼女を知っており、何故廃校なのか? どういった内容かいくら尋ねても教えてくれない対応に、余程深刻な相談なのだろうと受け取った。


「ごめんね二人とも、こんな所まで来てもらって」


 そして指定場所の廃校に着くと麻衣が待っており、非常に可愛らしい顔を困った表情で迎えた。


 正直、深刻な様子を想像しており、いつも通りの姿に俺と朋也は拍子抜けした。


「い、いや良いけどよ、相談ってなんなんだ? というか、なんでこんな場所に呼んだんだー?」


 朋也の溜息混じりの質問に、麻衣は可愛らしい仕草で腕を後ろに組みながら


「それなんだけど、もう一人呼んでて、その子と一緒に話しを聞いてもらいたいんだ」


 そう言うと麻衣は廃校の非常扉を開け、こっちと手招きして校内を進んでいく。


「へぇー、ここって中に入れたんだ。 初めて中に入ったけど、結構薄気味悪いな……」


 俺は少しだけ震えた声で、先頭を歩く麻衣に向けて話しかける。

 外は太陽がほとんど沈みかけており薄暗い廃校という状況に、ホラー耐性は人並みの俺だが恐怖を感じてしまう。


 そんな俺の質問も麻衣は何故か無視しながら歩いていくと、1階の空き教室の前で止まる。


「中に入って」


「なんだよ急に、無視しておきながら……」


 俺と朋也の不平を聞こえてない様子で、麻衣は俺たちを教室の中へ促す。

 俺たちは半ば強引に背中を軽く押されながら教室の中に押し込まれる。教室の中は、机が部屋の片側に全て寄せられており、空いた空間に、黒い箱が置いてあった。


「その箱、開けてみて?」


「はぁ? なんか今日のお前なんかおかしいぞ? というか、もう一人呼んでるって奴も居ないし、結局相談ってーー」


「いいから箱を開けて!」


 突然の麻衣の怒声に、俺たちは身体をびくっと震わせる。無表情の麻衣だか、そこから静かな威圧を感じ、俺と朋也は言われるがままに箱の蓋に手をかけた。


「ひ、ひぃぃぃ!!」


 俺と朋也は箱を突き飛ばし、その場で腰が抜け倒れこむ。

 突き飛ばした箱が倒れ、その中身が床に転がり、腐敗してる様子もない人の生首がこちらを向く。


「……く、首……!?」


「もう、酷いな二人とも」


 俺たちは恐怖に慄いてると、麻衣は冷静そのもので転がった生首を拾い抱きかかえる。


「鈴ちゃんが痛がってるよ? 可愛そうに」


「り、鈴……!?」


 麻衣が生首を愛おしそうに頭を撫でながら、俺たちのクラスメイトの名前を口にする。

 鈴は麻衣の親友で、俺と朋也もよく一緒に遊ぶ友達だ。


「そうだよ、鈴ちゃんの顔を忘らちゃったの?」


 麻衣は抱えた生首を俺たちに向け、その顔を恐る恐る確認すると、見るも無残なクラスメイトである鈴そのもであった。


 俺はその顔を認識してしまい、抗いようもない吐き気に襲われ、その場で嘔吐する。


「ーーさぁ、二人に問題です。なぜ鈴ちゃんはこんな姿になっているのでしょうか?」


 麻衣は抱えていた鈴の首を箱の中にしまうと俺たちに突然質問を投げかけてくる。この非日常の空間で麻衣のその様子は、まるでクイズを出題する小学生かのようである。


 俺と朋也は恐怖で身体を震わすばかりで、その場に固まってしまい麻衣の質問どころではなくなってしまう。

 すると麻衣は、また教室の隅に置かれている箱を開け、なにかを取り出す。

 その手には、刃渡り20センチもあるであろう刃物が握られいた。目を疑う光景に固まったままの俺たちの元へと麻衣は歩み寄る。


「正解は……お前ら二人のせいだよぉぉ!!」


 そして、麻衣は刃物を振り上げ、朋也の首にそれを振り下ろす。


「が、が、ガガゴゴァァァ!?」


 振り下ろされた白刃の軌跡のあとに続き、朋也の言葉といえない悲鳴ととも鮮血が舞い散る。


 麻衣は刃物についた血を振り払うと俺に向き直る。そして刃物を逆手に持ち替え、切っ先を俺の顔に向ける。


「ーーひ、ひぃぃぃ!?」


 俺は振り下ろされた刃物を、反射のまま横に転がり寸でのタイミングでかわす。


「チィッ!」


 狙いを外した刃物は固い床に弾かれてしまい、その衝撃で刃物が吹き飛んでしまう。

 それを拾いに行こうと背を向けた隙に、俺は弾けるように飛び上がり教室を飛び出す。

 ただ逃げることしか考えられないまま全速力で走り、侵入てきた非常扉を目指す。


「はぁ、はぁっ! ……な、なんで開かないんだ!?」


 俺は非常扉に突進する勢いのまま取っ手を回すが、鍵がかけられてる。しかも内側にはサムターンがついていないタイプの取っ手だ。


 麻衣の足音が聞こえてきて、それが思考を一気に逃げるものに変える。


「なんなんだよぉぉ!?」


 幼稚園児の様な嗚咽とともに叫び、再びその場を駆け出す。






 ーー先ほどまでの鮮烈な記憶から、現在の状況に意識を戻す。





(……わ、訳わかんねぇよ! 麻衣が朋也を刺しやがった! なんで!?)


(それよりも逃げねぇと……! どうする、窓から飛び降りるか……!? )


 逃げるシュミレーションをするが中々思考がまとまらないうえに、恐怖で身体が全く動かなくなってしまう。


 そして足音はどんどん近づいてくる。


「ーー君もバカだよね。 血でどこに逃げたかバレバレだよ」


 教室の扉をバタンと開ける音とともに、麻衣が隠れていた教室に入ってくる。


「うわぁぁぁっ!!」


 俺は慌てて教壇の下から飛び出て逃げようとするが、躓いてしまい、机に向かって転倒してまう。


「ーーもう諦めなよ」


 倒れた俺の顔前に刃物の切っ先を突きつけられる。


「死んで、鈴に詫びろ」


 そう言い放つと、麻衣は刃物の様に冷たい表情で再び刃物を振り下ろす。




 ーーそして俺は死んだ。


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