パンドラの箱
拝啓、この頃日差しが強くなり肌が焼けるような暑さになって参りましたがいかがお過ごしでしょうか。私はこのような暑い日差しの下に置かれて生活しているにも関わらず、毎日あなたの美しい姿が眩しくてより一層、熱くなってしまう日々でございます__
「ノンタよ、さっきから一生懸命なにを書いておるのじゃ?」
全神経を集中させて書いているのか少女の声は青年には届いていない。
「コラ、ノンタ無視は良くないぞ?妾、悲しくて泣いてしまうぞ?」
それでも青年は手を止めなかった。
堪忍袋が切れた少女は青年に近づくと強引に紙を奪いとる。
「ああードラ!なんてことするんだ!それは、カノンちゃんへのラブレターなんだぞ!?」
「ほほう、これがラブレターか」
青年がラブレターと言った原稿用紙は、思わず眉間にしわが寄るような堅苦しくクサい文章でラブレターの内容としてはあまりにもひどいものだった。
「ノンタ、妾はそなたをリア充とやらにするために来たがこれでは何年いや何十年かかっても恋人なんて出来ないと思う」
「そんな冷たいこと言わないでさ~なんとかしてくれよドラ~俺このままじゃ童貞のまま土に埋められちまうよ~」
泣きつくかのように青年は少女にすがり付いた。その様子に呆れたのか少女は溜め息をもらしている。
このみっともない青年は、野良ノンタ。
華山市のミクロ高校に通う普通の高校生だ。
一つ他とずれているとするならば人一倍、性欲が強いところだろう。そのため学校で同級生の女子に告白を繰り返しているが驚くほどに告白が下手なため今まで一度も成功したことがない。
そんな哀れな青年を見て神は一人の使いを送った。
その名は、パンドラ。ノンタをリア充にさせるためだけに下界へとやってきた猫耳娘だ。
「あっそうだ!ドラ、ラブレターが上手く書けるアイテム出してくれ!もちろんあるよな?」
「いや、あるにはあるがやはりラブレターは自分の手で書いた方が······」
「さっき、俺のラブレター見てボロクソに言ったのはドラだろ!?」
「むっ······わかったわかった。しばし待て」
そう言ってパンドラは豊満な自分の胸の谷間に手を入れると、そこから一つのタブレットのようなものを取り出した。
「ラブラブビジョンパット~」
パンドラには、ノンタをリア充にするために役立つ様々な道具<シークレットアイテム>を神から授かっており、それを自分の胸の谷間<パンドラの箱>にしまっている。しかし、神からはなるべく本人の力でやらせるように言われているのでアイテムを使いまくるのはタブーである。
「なんだよドラ、ただのタブレットじゃねえか」
期待を裏切られたかのようにノンタが暗い表情になる。
「ノンタ、タブレットを見て、思い人の姿を浮かべてみるのじゃ」
パンドラの言葉に疑いを感じながらもノンタは顔を上げ何も映っていない画面をじっと見つめた。
すると、しばらくして何も映っていなかった液晶に一人の少女が映りこんだ。
「あー!!カノンちゃんだー!」
興奮したノンタがパンドラからタブレットを奪い取り顔を液晶に近づけた。
「落ち着くのじゃノンタ、それはあくまで画像だ」
そう、ラブラブビジョンパットは別に好きな子が液晶から飛び出してくるとかそういうものではない。
「わ、わかってるよ。つか、これのどこがラブレター書くのに役立つんだよ?」
ノンタは、再び期待を裏切られた気持ちになったのか、今度はパンドラに向けて口をとがらせた。
「まあ、そう怒るでない。とりあえず椅子に座ってラブレターを書く準備をするのじゃ」
気が進まない足取りでノンタが椅子に座る。
「まずこれを見れば、カノンの可愛らしさや魅力がよーく分かるはずじゃ」
そう言ってパンドラが机にタブレットを立てた。
「うん、すげえ分かる。このほんわかとした瞳が無性に守ってあげたくなるような魅力があるんだよな~」
「ならその感じたことをそのまま書けば良いのじゃ。やはり女子は自分を見てくれていると分かれば嬉しくなるものなのじゃ」
その言葉にノンタが「そういうもんなんだなー」と頷き、さっそく紙にペンをはしらせていた。しかし、しばらくしてその手が止まる。
「う~ん、見た目のことだけだとあんまり書けねえな~」
「うむ、見た目だけを見ていたわけではないのだな。偉いぞノンタ」
パンドラに頭をなでられノンタは露骨にうれしそうな表情を浮かべた。
「安心しろ、ラブラブビジョンパットは見た目だけではなく相手の声や仕草、表情も設定できるのじゃ」
そう言ってパンドラがタブレットの下にあるボタンを押すと、画面の少女が喋りだした。
「ひゃー!なんだこれ!最高じゃねえか!」
「興奮している場合ではないぞ、この子の魅力をどんどん紙に書いていくのじゃ」
ノンタは、うれしそうに頷くと鼻歌を歌いながらどんどん紙を文字で埋めていった。
(果たして、うまくいくじゃろうか······)
そんな心配も束の間、ノンタはしばらくして「出来たー!!」と声を上げて言った。
「ほほう、意外とはやいのう。どれどれ妾に見せるのじゃ」
するとノンタは自信満々に鼻を指で擦りながら紙を手渡してきた。
「こっ、これは······」
[君のそのほんわかとした瞳が守ってあげたくなるくらい魅力的です。
思わず抱きつきたくなるような魅惑の可愛らしい美声はそれだけで、ご飯三杯いけるレベルで好きです。
あなたを見ていると、もうとにかく全身なめ回したくなるような衝動にかられます。
つまりなにが言いたいかというと、僕と寝てください。]
「うむ、ノンタ書き直すのじゃ。これではラブレターを渡しても返事を聞く前に、お縄にかかってしまうのじゃ」
「ええ~もう一回とか面倒くさいよ~」
「いや、しかしこれを渡すわけにもいかんしな······」
するとノンタは、またパンドラへとすがりついた。
「もうドラが彼女になってくれよ~そうすれば俺の願いは叶うし、ドラだって使命を果たしたことになるだろ?」
「妾は使命を果たしたら天界に戻ることになっているが、それでも良いのか?」
そう言うとノンタは、ぽけーとパンドラを見つめた後、急に泣き出してパンドラに抱きついた。
「駄目だよ~!帰ったら駄目だ~俺が許さないぞ~もし帰ろうもんなら足にしがみついてでも帰らせねえからな~!」
「わかったわかった!冗談じゃよノンタ、だから落ち着くのじゃ!」
しかし、聞こえなかったのかノンタは泣き止まなかった。
「ドラ~!帰っちゃ駄目だよ~!」
(まったく世話が焼けるのう······)
もう気付いていると思いますが、この作品は某国民的人気アニメを意識して作りました。
こんな感じだったらどうなるだろうなーという思いつきを何故か小説に書いてしまったという自分でもよく分からない作品になってしまいました······(^^;)