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お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。  作者: とーわ/朱月十話
第一話 女騎士先生とインテリヤクザ
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第一話・1

 昨日は岸川先生に急な用事ができたとのことで、弁当をお裾分けしてもらえるという約束は順延となった。


岸川先生:すまない、急に職員会議の資料作成を頼まれてしまった

岸川先生:昼休みは屋上に行けそうにない

自分:俺は大丈夫です、気にしないでください

岸川先生:本当にすまない、この埋め合わせは必ずする


 俺としてもショックは大きかった。パブロフの犬であるところの俺は、昼休みが近づくにつれて先生の弁当が待ち遠しくて仕方なくなっていたのだ。


 残念ではある。しかし決して立ち直れないほど消沈しているわけではない。


 先生の料理がいかに楽しみであっても、それは善意によるものなので、約束がポシャってしまっても仕方がないことなのだ。


 仕方ないことなのだが――焼きそばパンと牛乳のみで昼食を済ませることになり、少なからず侘しさを感じた。


 先生と知り合うまでは、ずっと単調な食生活だった。


 俺も自分で料理を練習すべきだ。先生に甘えてはいけないと思っているのなら、そうするべきだと分かっている。


 しかし料理というものが練習して容易に上手くなるわけではないこと、自分で作った料理を自分で食べてもそれほど美味しくないということを、すっかり身体に教え込まれてしまっていた。


 ◆◇◆


 今日は二限が体育で、A組とB組が合同で授業を行う。体育館でバレーボールをするのだが、最初に通らなければならない関門がある。


「では出席を確認する。誰か休んでいる者はいるか?」


 二年生から、体育の担任は岸川先生になった。美人はジャージを着てもさまになる――あまりにもプロポーションが良すぎて、みんなの目が泳いでいるが。


 ジャージの前が閉じられないなどというのは、漫画などで出てきても笑ってしまうような場面だと思うのだが、それを岸川先生は体現してしまっているのである。


「せ、先生。うちのクラスの上杉が、風邪を引いて休んでます」


 真面目で堅物なクラス委員長ですら、岸川先生を前にして声が上ずっている。そう、今日は純が休んでいる――俺にもメールしてきたが、純がいないと一つ厄介なことがあるので、朝から微妙に気分が重かった。


「そうか、分かった。昨日の夜は少し冷え込んだからな、皆も風邪には気をつけるように。では、二人組を作って準備運動を始めたまえ」

「「「はい!!!」」」


 どれだけ忠誠心が高いのかと思ってしまう。このクラスだけでなくて全校の男子から熱烈な支持を受けているので、無理もない話なのだが。


「あ……う、海原君、いつも組んでる上杉がいないんだよね。俺らと三人でやる?」

「準備運動くらいなら一人でも大丈夫だ。やむにやまれない事情だしな」


 こうやって気を遣われるのも結構メンタルを削られるが、クラスの男子からは微妙に壁を作られているので仕方がない。俺の「怖そうな人」というイメージは、悲しいかな、男女共通の認識なのである。


 純のありがたみをこういうところで感じる。さて、何もしないとさらに気を遣われるし、適当に柔軟でもしておこうか。


「海原は先生と一緒に準備運動をするか。相手がいないのなら仕方がない」

「えっ……せ、先生。いつもは誰か休んでも、代わりはしてなかったと思うんですが……」


 先生と組むなんてとんでもない、それは俺たちの間でのルールにも触れることになる――と至極まっとうなことを考える俺だが、周囲の反応は違っていた。


「女騎士先生が、この機会に海原君をシメるつもりだ……!」

「海原君も辛うじて拒否してるぜ。もしかして今から乱闘になるんじゃ……」


 なぜ俺のイメージが喧嘩っ早い方向で固まっているのかと思うが、インテリヤクザという言葉がさらなる憶測を呼んでいる気がしてならない。


「さあ、時間もないからすぐに始めるぞ。私が海原のことをサポートしてやる」

「は、はい。それじゃ、お願いします」


 俺は普通に受け入れたのだが、周囲からはついに俺が折れて嫌々ながら受け入れたというような解釈をされてしまう。


 あまり見ていると俺に怒られるとでも思っているのか、みんなから少し離れた場所で準備運動を始めても、こちらの様子をうかがってくる人はいない。


「まずは屈伸からだな。さあ、海原も一緒に」


 先生と一緒に屈伸を始める――向き合ってやる必要はないと思うのだが、と何とはなしに先生の方を見て、俺は自分が油断しきっていたと痛感させられた。


「基礎の運動だからこそ……しっかりとやっておかなくてはな……っ」

「き、基礎というか……先生、そんなに速く屈伸したら……っ」

「ゆっくりとやりすぎても効果が薄いのでな。勢いをつけすぎてもいけない、じっくり筋肉をほぐすことを意識しながら……5、6、7、8……」


 先生は普通に屈伸をしているつもりなのだろうが、正面にいる俺からすると衝撃的な光景と言わざるを得なかった。


 ジャージの前を閉じることができないほどの、岸川先生の双子の山が屈伸という縦方向の運動によって大きく弾む。痛かったりしないだろうかと心配になるが、先生が自分の手で支えるわけにもいかないだろうし、実は慣れっこなのだろうか。


「2、2、3、4……海原、しっかりしておかないと怪我をしてしまうぞ?」

「は、はい……すみません、先生」


 このやり取りが「俺が先生に注意されてキレかけている」というように見られているのだが、お前らの目は節穴かとそろそろ言いたい気持ちもある。


 だが先生の胸が揺れすぎて準備運動どころではないなんて、とても説明できない。二つの山の残像が目に焼き付けられて、幻覚が見えてきてしまっていた。

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