序章4
プフォォォォォオォォオっと大きな音で目的地への到着を列車が告げてくる。
前の席の2人組は「またねー」っと言うと去って行く。
俺たちも続いて列車からでる。
こんだけ大量の生徒が一斉にホームに出たらそれはもう大混雑、と思っていたがそれはなかった。
なぜならここは魔法大国であり、ここがその都市の駅であるからだ。
「ここって駅だよな?」
思わずアイリスに聞いてしまった。なんせこの建物がお城ですよって言われても信じてしまえるほどに広い。天井の高さも建物内の広さも規格外で列車が入ってきた入口が小さな丸になっているほどだった。
アイリスはこくっと頷くとスタスタと歩いて行く。
いく先は同じなので俺もついていく。
「この後は、駅を出たら魔操車に乗り学校を目指す。学校についたらクラス分けのための試験って感じか」
「そうね。」
「なんか緊張するよなー、馴染めるかなー。アイリスはもう魔法とか使えるのか?」
「少しだけなら。」
「へぇーいったいどんな魔法を使えるんだ?」
「秘密。」
「す、好き食べ物は?」
「ない。」
もうね、ずっとこんな感じだよ。同学年なんだからちょっとは話してくれよ。仲良くなれる気がししないぞ……。
こんなやり取りを繰り返しながら駅を出ると、今までの自分はなんて狭い世界だったんだろうと知らしめられる。
「な、んだよこれ、すげー」
駅を大通りにはズラリと並ぶ魔操車の数々に入ってすぐに目の前にい置かれている銅像。そして魔道具やら化粧品、ファーストフードなどなど数多くの看板が掲げられた建物の数。
「くっはーーー。」
あまりの景色に変な声も漏れ出る。
さっきの街も凄かったがここはまるで土地を取り合うかのように建物が並び立っている。本当に都会ってすげー!!
「ユーリ!」
癒し効果がありそうな、柔らかな声で呼ばれて振り返る。
「ユフィ!」
そこには可愛さの創造主だと言われても、なんの疑いもなく信じれるだろう可愛い女の子が俺に向かってきていた。
「やっと会えましたね!ユーリ!私はずっとあなたを探してたんですよー?」
そういうとくいっと体を屈めて上目遣いで見上げてくる。
「お、俺も探してたよ。」
「ほ、本当ですか?嬉しいです。へへへ。」
顔を赤くして照れながら笑う彼女は本当に綺麗な花が良く似合い、むしろ花よりも愛おしいとさえ思える。
「ユフィこの人は?」
などと俺があまりの可愛さに惚けていると、隣にこれまた何やら可愛らしい身長の低い女の子がユフィの後ろから出てきた。
なにやら重たそうなものを持ちながら「よいっしょ」と言ってこちらに顔をだしてくる。
紫色の短い髪をふわりとなびかせてこちらを見上げてくる。
「あ、この人はユーリ。ほら、この前言ったでしょ?トルタス様を失神させたって話の。」
「あぁーなるほど。」
そういうとトテトテとこちらにやってくる。
「初めまして、ルアナです。」
少しだけぶっきらぼうに言うとまたトテトテと魔操車の方に向かって歩き出す。
「ユフィ先に行きますね。魔操車を押さえておきます。」
重い荷物を運んでいく姿はなにか小動物を見ているような感覚を覚えて、頑張れ!っと思ってしまう。
「ごめんね、あの子初対面の人にいつもああなの。」
「いや、いいよ。また会えるだろうし、仲良くしていくよ。」
申し訳なさそうに、謝ってくるユフィもまた可愛くて仕方なかった。
「へぇー、君はあの時あそこにいたんだ。」
冷たい言葉が、耳を通り抜けて体温を奪っていったかのように背中に寒気を感じさせた。
そこにいたのは、冷たい微笑を浮かべるあの時の失神貴族さまだった。
しまった!あいつが一緒に乗ってたことを忘れてた。しかもさっきの会話を聞かれてたのかよ。
「そして、君があのこの世のものとは思えないほど臭い物を俺にぶちまけたわけだね。」
やばいやばいやばいやばいやばい。
完全に怒ってるよ。どうしよう……。こうなれば、
「いや?人違いでは?臭いものとか知りませんよ。それに勝手に人を臭いものを持ち歩いているイメージつけるのやめていただけますか?本当に心外だ!したらする!!」
よし!勝手に切れて相手が困惑している間に逃げる作戦うまくいきそうだな。あとは歩いていって徐々にスピードを上げて逃げ切るのみ。
「待ちたまえ。」
まぁ無理よね。はぁ。
観念して相手に向き直ると、
「こいつで間違いないんだろ?ユフィ。」
「ええ。確認も取れたし間違い無いよ。」
優しい癒しの声が聞こえた。
「え?」
え?なんでユフィとあの貴族が親密そうに話してるんだ?まるで前々から知り合いだったかのように、
「ごめんね、ユーリ。」
手を合わせて、舌をペロリとだし、なんなら軽くウィンクまでして俺に悪びれる様子もなく謝ってくる。
「ふっ、君みたいな田舎者は知らないかもしれないが、俺もユフィも選ばれたエリートである貴族なんだ。そんな貴族と気軽に仲良く出来ると思ったのかい?」
ふふっと蔑むようにこちらを一瞥をくれてくる。
「君はこれからまともな学校生活を送れないと思いたまえ、友も恋もなにもかも君は経験することなくこの学び舎を去るといい。」
淡々と俺の学校生活に終了宣言を告げるとユフィと共にスタスタと去っていく。
あぁ、俺の学校生活は始まる前にすでに終わってしまった。恋も友情も何もかも始まらずに終わってしまった。
心は暖かいこの陽気に反比例するように下がり続けて、今すぐ家に帰り潮の空気を浴びたいくらいだった。あの匂いが捨ててしまったのが惜しいとさえ思えてくる。
とりあえずは俺も魔操車に乗ろと歩き始めようとしたら、近くにアイリスがじっとこちらを見つめたいるのが目に入る。
「ア、アイリス、待ってくれてたのか?」
「まだ、さよならと言ってなかったから先に行くのも嫌だったので待ってた。」
そして、スタスタと近寄ってくる。
アイリスが、無表情だったアイリスが、こんなにも想ってくれてるとは思っていなかった。ありがとう、アイリス!
「アイリス、ありがとう。これからもよ、」
「じゃあ、また、さよなら。」
俺から5歩手前で止まると、そう告げて、振り返り魔操車に乗ってアイリスは去ってしまう。
「え?」
俺はそのあと一人で魔操車に乗り学校へ向かった。