世界五分前仮説
回るよ世界
ある日、日常にほんの少しだけ違和感を感じた。
魔法が使えるようになったり、異世界に飛ばされたりした訳ではなく。
いつも学校の前に居る先生がいるのに、今日は誰も居なかった程度の違和感。
始めは気にも留めていなかったその小さな違和感は、時間が経つごとに徐々に大きくなっていった。
例えば、いつも吠える犬が今日は静かだったり、教室に見覚えのない本が置いてあったり、教科書の内容が少し違ったり。
例えば、時間割が違ったり、見覚えのない先生が居たり、仲のいいクラスメイトが休みだったり。
例えば、知らないクラスメイトが居たり、聞いたことのない有名人がいたり、買った覚えのない本を持っていたり。
決定的な異常は家にお母さんが居なくて、知らない女の人がいた。
その女の人はまるでお母さんみたいに私に話しかけてきた。私はそれを無視して家から逃げ出した。
何かが、おかしい。街には腕が三本ある人が歩いていた。顔が無い人が煙草を吸っていた。
何かが、ズレる。人型を保っている人が少なくなってきた。みんなナメクジみたいに地面を這いずり回っている。
何かが、狂う。もう人間はどこににも居なかった。いるのは大きなナメクジだけ。
私が、おかしい。少し腕が痛い。見ると腕から小さな腕が生えている。
私が、ズレる。二本足で走るのが辛くなってきた。犬みたいに四足で走る。
私が、変わる。六足で走るのも辛い。それでも止まらないように這いずる。
世界が変わる、私が"わたし"でなくなる。
世界は回る、何も変わらないように、日常は続く。
世界は狂う、私は狂えない、変わっても狂えない。
周り全てが異常な時、本当に異常なのは私なのか周りなのか。
答えは考えても出ない。私は"わたし"、世界は世界。ただ、それだけ。
変わらないのが一番辛い