室長達の戦争
桃奈は、大騒ぎするクラスメイトたちを一歩引いて見ていた。そして先程の戦争の、自分の立ち回りを思い出していた。
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「俺たち1年B組は、文化祭クラステーマとして職業を選択しました。」
「教室発表では様々な職業の服装をした生徒たちが接客するカフェを考えています。そして舞台発表では、カフェとは違う衣装でファッションショーを予定しております。」
「勿論衣装は全て手作りします。」
龍我と桃奈が話し終えると上級生たちの視線が鋭くなった。すると龍我が自分の後ろに桃奈を隠した。
「神戸、行くぞ!」
そして、龍我の声と共に第一回文化祭戦争が始まったのだ。
「来い!ポセイドン!」
龍我が自らの大きな槍を呼び出すとシュッと水を纏って手元に現れた。桃奈もそれに従い剣を腰から抜いた。
「行くわよ、アマテラス!」
龍我が槍を、桃奈が剣を構えるとすでに上級生たちは自分たちを排除するモーションへと移っていた。
「テーマだだ被りってことかしら…!」
「だな、まあ俺たちも負けるわけにはいかないんだけど!」
ガンッと音と火花をあげて槍と槍、剣と剣がぶつかり合う。
「…背中は任せて。サポートするわ。」
「ああ、頼む!」
たったの約半年で作り上げてきた信頼関係。3年間クラス持ち上がりのこの高校で、なによりも大切なもの。たったの半年だからこそ、お互いに大胆な動きができる。そしてこいつとは、最高に波長が合うとお互い確信していた。龍我は目の前の槍を吹っ飛ばし、次は桃奈が対峙する剣へと矛先を向ける。
「お、ら、よっと!」
「ふっ…!」
桃奈が相手を翻弄するように教室を駆け回る。この教室は、もう原型をとどめていない。すると再び、龍我が桃奈を呼んだ。
「っ神戸!」
「うあっ…!」
近接戦を得意とする二人が最も苦手とする相手。それは、近距離銃でも遠距離銃でもなく…魔導師なのだ。
「だいじょ、ぶだから、前見なさい!」
「悪い!」
絶体絶命。魔導師たちが、こちらを見ている。そうだ、自分たちは経験不足の1年生。倒すのにはもってこい。そして今のでバレてしまった。二人には圧倒的に、魔導師退治の経験値が足りないということが。
「神戸、一回立て直せ。ここは俺に任せろ。」
「ええ。…ごめんなさい。」
「謝んなって。俺ら二人で、生きて帰ろう。」
そう言うが早いか、龍我は魔導師の群れに飛び出した。
「ふう。」
桃奈にあって龍我にない弱点。それは、体力。桃奈は若干体力が少なめなのだ。その代わり彼女のステ値は、
「…行くわ。」
攻撃に全振りされているのだ。
「ーそこよ。」
「甘い!」
「これで、おしまい!」
龍我と共闘していたときには目立たなかった力が、溢れ出ている。彼女は本来猛攻型。それを、単独行動に向かない龍我のためにサポート型に見えるようにわざわざ工夫して力を奮っていたのだ。そのリミッターが外れた彼女を止められるものはどこにもいない。
「神戸、交代だ!」
周りが見えなくなる桃奈の肩を叩き、今度は龍我が猛攻を仕掛ける。なりふり構ってなどいられない。魔導師たちを全滅させなければ自分たちに勝ち目はない。幸い桃奈がほとんど倒してくれた。あとは龍我がやるだけだ。
「きゃあ!」
後ろで聞こえた悲鳴。桃奈が敵の弓兵に右腹部を貫かれていた。
「ちょっと、待って、ろお!」
最後の一人を殺すと、すぐに桃奈の方へ向き直り、弓兵に狙いを定める。一瞬、血が止まることなく流れ続ける苦しそうな女子室長を見た。そして、目線を戻した龍我は槍を弓兵へと投げた。見事に的中し、弓兵は光の粒となり消えていった。
「大丈夫か!?」
「え、ええ。もう、おわったのね。」
「ああ、そうみたいだ。」
何も全員が二人を狙っていたわけではない。いつのまにか全てが終わっていて、勝ち残ったのは前代未聞の1年生2人だったのだ。そしてここで、第一回文化祭戦争は終戦した。開始から約二時間のことだった。
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「…。」
桃奈は手当てされた右腹部を撫でた。龍我は怪我ひとつしていないのに、自分は。
「んん?どうした〜?」
そこにひょっこりと現れたのは名簿番号2番の伊阪奏多。
「何でもない。」
「へえ〜。俺には龍我くんとの力の差にやりきれない!って顔に見えたんだけど?」
「…わかってるなら、わざわざ聞かないで。」
「おっ正解!?やった〜!」
「んなっ…!貴方また!」
「おお、怒んなって!まあさ、冗談抜きで俺は頑張るお前すごいと思うぞ。これからも頼りにしてるぜ、しつちょ。」
「…ありがとう。」
ここで桃奈はようやく戦争が終わったような気がした。
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伊阪 奏多
性別 男
名簿番号 2番
武器 魔術
特徴 頭が良くかなりの策士。他人を嵌めることを趣味とする割と最低な男。ただし土壇場で見せる男気は侮れない。人を励ましたり心を軽くすることもしばしば。
交友関係
岩泉龍我→神戸桃奈
頼れる女子室長。たまに暗い顔をしているのが心配。
神戸桃奈→岩泉龍我
信頼する男子室長。実力の差に劣等感を覚えることも。
岩泉龍我→伊阪奏多
たまに悪いことするけど普段はいいやつ。お前俺のこと実は苦手だろ?
伊阪奏多→岩泉龍我
完璧爽やかで少し苦手。もう少しヤンチャしよ。
神戸桃奈→伊阪奏多
落ち込んでたら声をかけてくれる友人。いいやつ。
伊阪奏多→神戸桃奈
溜め込みすぎないか心配になる。神戸、お前実は俺の初恋(三日で夢は壊れた)だったんだぜ。