氷点の記憶
彼女はシャボン玉のような人間だった。
周りの風向きに合わせてふらふらとする様も、繊細で少しの傷で壊れてしまいそうなところも。
彼女の白いワンピースには大小様々な淡い青の水玉模様がついていて、まるでシャボン玉のようだった。
彼女は大切な思い出をすぐに忘れてしまう。
覚えておこうとするほどに、大切な記憶は爆ぜてしまう。
失くした記憶にも、記憶を失くした事実にも彼女は気づけない。
彼女の記憶はきっとシャボン玉なのだ。
氷点を超えるとシャボン玉は凍るらしい。
ただ、大きなものほど凍る際に飛び散って壊れてしまう。
彼女はシャボン玉のように、大切なことばかりを失ってしまう。
小さな思い出だけを残して、一番を失くしてしまう。
だから私は、今日も彼女に忘れられる努力をする。
これからもずっと、私だけは彼女の記憶に残れない。