6話
カリトスは、罰せられた中に、自分の名前が含まれていることに、驚愕した。
「ち、父上! なぜわたしが新大陸に渡れないのですか!」
息子の問いに、ザカリアスは、淡々とした様子で答える。
「先ほども言ったろう。お前が罪を犯したからだ」
「ですからその罪は、全て彼らに負わされたものです!!」
「だが、彼らの言葉を正と判断し、実際に聖女を国外追放に処したのはお前だ」
「で、ですから…、それは…」
どうやら、痛いところを突かれたようで、カリトスの勢いが弱まる。
……ようで、弱まらなかった。
「で、では、誰が次の王になるのですか…! 父上と母上の息子は、わたし1人ではありませんか!」
カリトスがまたきゃんきゃんと吼え出した。
……粘り強いのは、ある意味長所か。
ザカリアスは、冷静に息子の性格判断をしながら答えた。
「新しい国の王など、まだ決まっておらんよ。国名すらまだなのだからな」
「それなら、わたくしがつけて差し上げましょう!」
まかせろ! とばかりに、胸にどんと手を置くカリトス。
公衆の面前で、これだけ叩かれながらも、決して折れない鉄の精神の持ち主。
……育て方が違っていたら、いい王になれたかもしれない。
そんなことを考えながらも、話の流れは変えずに進める。
「お前に、新しい国のことを考えている時間などないだろう。お前はこれから、聖女の加護を受けられない、このエルフィア国を治めて行かねばならないのだから」
「で、でも、先ほど、ここにいる有力貴族全員が、新大陸に渡ると言っておりました。この国に、一体どれだけの民が残ると言うのですか?」
「恐らく、聖女が新大陸へと渡ると知れば、他の民たちも皆同行するだろうな」
「民のいない国に、王など必要ないではありませんか!」
「では、王をやめてしまえばよい」
「そんな…!」
「だが、お前が王をやめてしまうと、お前が愛したというそこの娘の願いを叶えることはできなくなるな」
王がふともらしたつぶやきに、カリトスは、すっぱりとした口調で答えた。
「彼女は罪人です。もはやわたしとは関係ありません」
「…むぐっ! ふごっ!」
ちなみに、ラビナは、カリトスに罪人扱いされたあたりから、ずっと何か言いたげなのだが、騎士団長が、しっかりと口を押えているため、言葉を発することが出来ない。
騎士団長が、呼吸のために、すこしばかり開けている隙間から、わずかに吐息と混ざった声が漏れていたが、たいした雑音にもなっていなかった。
「そうか…」
王は、見事掌を返したカリトスの言葉に、わざと仰々しくうなずいた。
「では、カリトス。そこの娘が罪人だと言うなら、お前は娘にどのような采配を下すのだ?」
王に訊ねられ、カリトスは、ふむ、と腕を組んで考えた。
「そうですね…。上級貴族と王族を欺いたわけですから…。やはり、国外追放が妥当かと。そこへ聖女への侮辱罪も付け足して、無人島への追放と致しましょう」
「…っ! っ!!」
カリトスの言葉に慌てたのは、他でもないラビナだった。
無人島に連れて行かれたのでは、たとえラビナが元平民で、どんなに逞しくても、ひとりで生きて行くのは難しい。
「…むっ! ぐっ…!」
ラビナは、ドレスが乱れるのもかまわず、髪を振り乱して何かを訴えるが、やはり、その声が言葉になることはない。
王は、カリトスの言葉に、「そうか」と小さくうなずくと、騎士団長に指示を出す。
「その娘を、地下牢へ入れておけ」
「はっ」
騎士団長は、厳かに命を受けると、片手でラビナの口を押えたまま、もう片方の手でラビナの腰を持ち上げた。
「抵抗しなければ、苦しくはないはずだ」
小さな声でラビナに伝えると、騎士団長は速足で会場を去って行った。
「他の4人も裁きましょうか? 父上」
「………」
聖女への断罪に加担した4人にも罪を与えようと、爽やかに言うカリトスに、王は眉を顰めた。
「いや、もうよい」
ザカリアスは首を振る。
正直、息子がここまで思慮に欠ける人間だとは、思っていなかった。
先ほど、ザカリアスは、カリトスに、再度ラビナへの罪を問うことで、ラビナの罪を軽くする機会を与えたのだ。
カリトスとラビナの絆を見せることで、今や、貴族たちの間では、地にまで落ちているだろうカリトスの評価を少しでも上げることが出来たら…、と思ってのことだった。
カリトスが下した採決が軽すぎるならば、もちろん新たに罰するつもりだった。
しかし、まさかその逆、むしろ罪を重くするとは、さすがのザカリアス王にも想像がつかなかったのだ。
「……お前の、娘への愛情は、その程度だったのだな」
「わたしは彼女を愛しておりました。それを、裏切ったのは彼女です」
「裏切り、か…」
ザカリアスは、カリトスの言葉をなぞるように、ぽつりとつぶやいた。
自分にとって心地のよい言葉は、疑いなく受け入れ、それが嘘だとわかると、てのひらを返したように、背を向ける。
しかも、罪の全てを臣下に押し付けて。
この場で、裏切り者と言う言葉が、今一番当てはまるのは、間違いなく王子カリトスだろう。
残念ながら、彼には、国を治める為に最も必要な資質が欠けているようだ。
「……まあ、お前が娘をどのように思っているかなど、もはやどうでもよいか」
肩を落としたザカリアスは、この話は終わりだと言わんばかりにカリトスに背を向け、フランセアに視線を送る。
フランセアは、父にすがっていた手を離し、1人で立った。
「聖女さま」
ザカリアスが膝を折り、フランセアに頭を下げる。
フランセアもまた、細い指でドレスの裾をつまみ、腰を曲げると、頭を深く下げた。
「大変恐れ入りますが、聖女さまには、準備が整い次第、新大陸へと渡っていただいたく存じます」
フランセアは、王の言葉に、ゆっくりとうなずいた。
「……かしこまりました」
「ザカリアス王よ、我らマナミートの一族は、娘フランセア――――聖女さまと共に、新大陸へ赴こうと思います」
「ああ、それがよいだろう。必要なものがあれば、何なりとそこの宰相に言うがよい」
「お気遣い、痛み入ります。では、早速準備に取り掛かりますので、わたし共はこれにて失礼させていただきます」
「うむ、頼んだぞ」
「はっ」
「―――――ああ」
王の了承を得、マナミート親子が、退出しようとした時、王がふと何かを思い出したようにつぶやいた。
「?」
王に背を向けかけていたマナミート親子は、立ち止まり、王の様子を伺う。
すると、王は、フランセアににこりと笑いかけ、言った。
「ご卒業、おめでとうございます。聖女さま」
「あ…」
言われて、マナミート親子は目をまるくした。
そういえば、今日は王立学院の卒業式でもあったのだ。
王子たちの浅慮な行動で、式は滞ってしまったが、今日この場には、フランセアと一緒に学院を卒業する者たちも沢山いる。
「―――――ありがとうございます。陛下」
フランセアは、薄紫色の瞳を輝かせながら、小さな唇をほころばせた。
清廉さの中に、可憐さの含まれたその笑みは、その場にいた者全てを魅了したと言う。
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(C)結羽2017
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