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5話

 騒ぎの中で、ずっと骨太の肩を震わせていたラビナは、貴族たちの興奮が止むころに、金切り声をあげた。

「何よ…! 何なのよこれ!! 何であんたがみんなの中心にいるのよ…!!」

 ラビナは、騎士団長の力強い腕から逃れようと身をよじりながら、フランセアを睨みつけた。

「あんた、悪役令嬢のくせに、どうして役割を果たさないのよ!! あんたがあたしをいじめて、みんなに嫌われないから、あたしがこんな目に合ってるんじゃない!! あたしはヒロインなのよ!! みんなに囲まれて、愛されて、王子さまと結婚して、幸せになるはずだったのよ!! それなのに…!! あんたのせいで、全部台無しじゃない!! 一体どうしてくれるのよ!!!」

「………」

 ラビナの言葉に、やはり彼女も転生者だったのだとフランセアは悟った。

 そんな気はしていたのだ。だって、フランセアがどんなにゲームにあったヒロインいじめのイベントを避けようとしても、まるで辻褄を合わせようとしているかのように、事件は起こったのだから。

 フランセアがラビナをいじめたという全ての事件は、ラビナが、王子と結ばれるルートを実現させるために、彼女が自ら起こしたのだとわかった。

 でも、それを理解できるのは、この場では、いや、恐らく、この世界では、フランセアただひとり。

 王や王妃をはじめ、会場にいる者たち、そして、ラビナの味方をしたカリトス王子をはじめとする、ゲームの攻略対象者でさえ、眉をひそめる。

 会場にいるものほぼ全員が、おのおの不快な気持ちでいる中、ラビナの言葉の真意を理解しないながらも、ザカリアス王が口を開いた。

「娘よ、お前の願いが、カリトスとの婚姻ならば、好きにするがよい」

「えっ…!」

 王の言葉に、ラビナの瞳が希望に輝く。

「どのみち、1年後のわたしには、お前達を止める力はないのだからな。カリトスはどうだ? お前は、この娘との婚姻を望んでいたが、今もその気持ちに変わりはないか?」

 王が問うと、カリトスは、目を左右に泳がせた。

「わ、わたしは…」

 もごもごと口の中で何かしゃべりながら、ちらりちらりとどこかへ目線を向けている。

 それが、父オッテスの腕の中にいるフランセアに向けられていることに、やがて王も気づいた。

「聖女が…、フランセアが…、これまでラビナにした愚行を悔い改めるというならば、…フランセアと婚姻を結んでもいいと思っております」

「――――」

 その一瞬、会場にいた誰もが、息を飲み込んだ。

 それまでは、一見平静を保っていた王までも、驚きに大きく目を見開いていた。

「………」

 王妃は、扇で顔の全てを隠しているが、その奥には、落胆の表情があるのだろう。

 王は、頭を抱えようと自然に動く手を、精神で押さえつけながら、諦めたように言った。

「…お前は、あくまでも、フランセアさまが、そこの娘に暴行を働いたと言うのだな?」

 その問いに、王子ははっきりとうなずいた。

「はい、間違いありません」

「お前の傍に控えている、わが弟の息子であるセラム・リグル、宰相の息子、ウルマ・サートス、ラフド侯爵の息子レグルス、カタニカル伯爵の息子ラムサが証人で、間違いはないか?」

「はいっ、間違いありませんっ」

 カリトスは、またしてもうなずいた。

 王には、カリトスの後ろから、小さく焦ったような声が聞こえてきたが、カリトス本人には、どうやら聞こえていないようだった。

「……」

 恐らく、カリトスは、ここでフランセアの冤罪を認めてしまえば、ますます自分の立場が悪くなってしまうと思っているのだろう。

 だから、カリトスは、完全にフランセアの罪を肯定した。彼女が聖女であると証明された今もなお。

 この事実は、ザカリアス王を打ちのめした。

 もはや情けなさを通り越して、憐憫の瞳を息子に向けるザカリアス。

 そんな、悩める父であり国王である彼の後ろに、2人の男が立った。

「――――兄上、これは、もはや庇いきれませぬ」

「……そうですな。陛下。ご采配を」

 1人は、王の弟であり、セラムの父親、そしてもう1人は、王の右腕として、長年共に国を治めて来た宰相だった。

「………そうしよう」

 2人の言葉に背中を押され、ザカリアスは、カリトスをはじめとする、5人の少年たちに目を向ける。

「…カリトス。お前は知っているだろうが、王族には、常日頃より、不測の事態に対処できるよう、『影』と言う名の護衛がついている」

「もちろん、存じております」

 それが何か? と首をかしげるカリトス。

 その後ろで、宰相の息子の表情が、さっと青ざめた。

 恐らく、彼は気づいたのだろう。

 その利口さを、ぜひ他のところで役立てて欲しかった。

 大きな才能を失うことを残念に思いながらも、王は、話を続けた。

「『影』が守るのは、王族と、それに並ぶ重要人物。となれば、聖女であらせられるフランセアさまも、その護衛対象になるのは当然のこと」

「…!!」

 今度は、王弟の息子がひっと息を飲んだ。

 次第に青ざめて行く甥の様子を目の端に留めながら、王は結論を述べた。

「その、『影』から、フランセアさまが他人に暴力を働いたという報告など一度も受けていない。お前が、フランセアさまをないがしろにし、そこの娘と逢瀬を繰り返していた報告は、うんざりするほど受けたがな」

「…あっ…」

 ここでようやく、カリトスと他の2人も、自分たちの計画が穴だらけだったことに気づいたようだ。

 だが、もう遅い。

 ザカリアス王は、大きく息を吸うと、高らかに宣言した。

「よって、第三者の証言により、フランセアさまの無罪は、完全に証明される。と同時に、聖女にいわれなき罪を負わせようとしたお前たちを、罰せねばならん」

「…!!」

 恐怖におののく少年たち。

 今、彼らにできることと言えば、せいぜい、互いに身を寄せ合い、倒れないようにすることぐらいだ。

 そんな中、1人の少年が、王の前へ飛び出した。

「ち、父上! わたしは無実です! わたしは、ラビナや彼らがわたしに悪意ある言葉を吹き込んだのを、信じてしまっただけなのですから!」

「で、殿下!?」

 カリトスの言葉に、この中では一番身分の低い、伯爵子息のラムサが声をあげた。

 しかし、日ごろから仲間から虐げられがちだったラムサの言葉が、カリトスに届くことはなく、逆に一喝されてしまった。

「黙れ! お前らがわたしを騙したのだ! わたしを罠に嵌めて、聖女から遠ざけようとしたのだ! この、罪人どもめ、恥を知れ!!」

「…!!」

 カリトスに罵られ、びくついたのはロイズだけだった。

 他の者たちは、幾分か冷めた様子で、カリトスの暴言を聞いていた。

「さあ父上、ご采配を」

 まるで、自分が舞台を整えたとばかりに胸を張るカリトス。

 目の前でカリトスの言動を見ていたザカリアスは、もう憐憫すら通り越して、ちょっとおもしろくなってしまった。

 ……うちの息子が、残念すぎる。

 言葉にしたら、これまで作ってきた緊迫した空気を、すべてぶち壊してしまう。

 さすがにそれは避けたかったので、身体的にはする必要がひとつもない小さな咳払いをして、気分を持ちなおした。

「先程聖女を断罪したカリトスを含むそこの5人と、娘ラビナ、お前たちが新大陸へと渡るのは許さん」

「…え?!」



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(C)結羽2017

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