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吾輩は召喚魔(ねこ)である  作者: 画猫点睛
第一章 ズッカ編
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9話 六百五十三個のマーチ

 俺は今、ルーナのバッグの中にいる。



 途中から本当にスピードを緩めたのだが、ルーナは「ひどいですー」を連発した挙句、ズッカの町の近くで元の大きさに戻ったら「お仕置きなのですっ」と言って俺をバッグに押し込めた。

 俺をバッグに押し込めたところで、それはお仕置きではなくご褒美だ。猫が狭いところを好きなのは基本だろうに。


 俺がお仕置きと言う名のご褒美を満喫していると、そろそろ冒険者ギルドに着きそうなのかルーナはバッグを開けた。


「反省しましたか? そろそろ出してあげるのです」


 出してもらわなくても何の問題もないのだが、問題があるのはルーナのようだ。


「ところでクロム。冒険者ギルドはどこか知ってる?」


 迷子?迷子なの?迷子なのですね?ルーナさん。

 ギルドはどこかの前に、ここはどこなのですか?ルーナさん。

 ズッカの町なんて俺も知らないのに、迷子になられても困るんですよ。ねえ、ルーナさん。


 辺りを見回すと、どこか見たことがある景色だった。どうやら召喚所からギルドへ向かう道のようだ。

 なぜか召喚所に向かっているのはどういうことだろう。


「回れ右、前に進め!だ」

「は、はい」


 程なく歩くと冒険者ギルドが見えてきた。


「と、通り過ぎただけなのです。知ってたのです」


 知っていたのなら聞く必要もないはずなのだが、大人なので突っ込まないことにした。


「そうか、まあいい。とにかく入ろう」

「そうなのです」


 意味の分からない返事をして、ルーナはギルドのドアを開ける。ギルドの中には相変わらず冒険者はいなかったが、受付にはエフィルの他に、もう一人女性がいた。


「ただいま! なのです」


「え…っと、おかえりなさい」


 行くときに「行っていきます」なのだから、戻ってきて「ただいま」と言うのは正しい。

 正しいが、ここはお前の家じゃないぞ。対応しているエフィルに感謝するんだな。


「ああ、結局シュガルには行かなかったんですね」


 エフィルはどうも勘違いしているようだ。

 たしかに馬を使って往復したとしても、スライムを一人で大量に倒してくるには、時間が早すぎると考えるのが普通だ。


「行ってきましたです。スライムもやっつけたですよ」


「えっ!? …まだ2時間くらいですよ?いくらなんでも―」


 エフィルの言葉を遮るように、ルーナはガサゴソとバッグから王冠を出した。

 それを見たエフェルは驚いた顔をした後に、何かひとり言のように言い出した。


「いや、いくらなんでも…まさか…いや…」



 さすがに「いや」のエンドレス状態に嫌気がさした俺は念話でエフェルに話しかけた。


『おい、エフィルとかいったな。いい加減に話を進めたいんだがな』


「あれ? あ…猫さんですね。えーっと確か…」

『クロムだ』


「そういえば、ルーナさんがそう呼んでましたね。…で、クロムさん。クロムさんの言うことはごもっともですが、いくらなんでも早すぎませんか? シュガルまで馬で行ったとしても、大量のスライムを一人で倒して帰って来るのに2時間は早すぎます!」


『シュガルまでの往復は、俺が大きくなってルーナを乗せただけだ。それに、スライムごとき何匹いようが同じだ。2時間なんて早すぎるどころか遅いくらいだ』


 実際、迷子にならなければもっと早かったはずだしな。


「え、いや、でも…」

『でもも、へちまもない。スライム核も大量にある。ここぶちまければいいのか?』


「わかりました。とりあえず倉庫の方にご案内します」



 早すぎるというだけで、目の前にはクイーンスライムの王冠もある。さらに疑ってここに数百のスライム核を広げられては困ると思ったのか、エフィルはもう一人の女性に声をかけ、俺とルーナを奥へと案内した。

 ギルドの奥には、魔物の素材を一時的に保管する倉庫があった。

 それなりの広さを備えているので、数百のスライム核をこの場で出しても何の問題もなさそうだ。


『では出すぞ』


 エフィルがうなずいたので、俺は魔法で数百のスライム核をこの場に出す。


「え! こんなにですか? 二、三百くらいかと思っていたんですが…」


『スライム核652個にクイーンスライム核が1個なはずだ』


 異空間に入れると正確な数が分かる仕様だから間違いはない。

 しかし自己申告を鵜呑みにする訳にはいかないエフィルは、スライム核を箱に入れながらせっせと数え始めた。



「…暇だね、クロム」

『そうだな』


 エフィルは10分程かけてスライム核を何度か数え直し、ようやく作業を終えた。


「確かにスライム核652個とクイーンスライム核が1個です。王冠と合わせて清算しますので戻りましょう」


 エフィルとともに、また受付へと戻る。


「では清算します。スライム核652個で6520レオネ、特別報酬が1300レオネ、クイーンスライム核100レオネとクイーンスライムの王冠5000レオネで合計1万2920レオネです。ここから登録料100レオネを引いて1万2820レオネになりますが、よろしいですか?」


「あ…はい。よろしいです」


 たぶん計算なんてしてないのだろう。ルーナは俺の方を見て確認してから返事をした。

 それにしても数時間で1万3000レオネ、日本円だと130万円弱か。冒険者とはなかなかボロい商売だな。


「では白金貨12枚と金貨8枚、銀貨2枚でお渡ししてもよろしいですか?」


「えーっと…どうする?クロム」


 うーん、白金貨は使い勝手が悪そうだな。金貸しに返す分だけにしよう。


『白金貨は10枚だけにして、金貨を28枚にしてくれ』


 エフィルにも向かって念話で伝えると「わかりました」と言って奥へ行き、小さな皮袋をふたつ持ってきた。


「こちらに白金貨10枚、こちらに金貨28枚と銀貨2枚が入っています。お確かめください」


 そう言われ、俺はルーナと一緒に袋の中身を確かめてみたが枚数に間違いはない。


「あと、これはルーナさんのギルドの登録証タグです。それと冒険者の手引書とズッカの周辺地図、ズッカの街なかの案内図です。案内図にはお店や宿屋もついてますので便利ですよ」


 街の案内図とは親切だな。ジャコモの事務所も探しやすいだろうし、今夜の宿も探さないとな。


『って、おいルーナ! 何やってんだ?』


 隣を見ると、ルーナがワンピースの首元を編み込んでいる革紐を外し始めていた。


「ほら、こうやって護符チャームとタグを通して…ね!見て、いいでしょ!」


 ルーナは革紐に護符チャームとタグを通し、ネックレスのように首に下げて俺に見せた。革紐を外したせいで少し胸元が開き、なおかつ少し屈んだせいで胸の谷間が若干見え隠れしている。

 黒猫だからいいようなものの、白猫なら顔が赤くなりそうだ。


『そ、そうだな。意外と似合ってるぞ』


「ふふーん♪ でしょ、でしょ!」


 あとでシルバーチェーンでも買わせるとして、それより先に片付けないとな。


『それはいいとして、金も入ったことだしジャコモとやらの所に行こうか』


「そうだ、忘れてた! 急ごう、クロム」


 

 ルーナは俺を抱えて「さよならー」とあいさつして、速攻でギルドを後にした。

 あいかわらず切り替えだけは早いな。


 しかし忘れるかね、ふつう。



タイトルは、水前寺清子の「三百六十五歩のマーチ」より拝借

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