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吾輩は召喚魔(ねこ)である  作者: 画猫点睛
第一章 ズッカ編
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5話 私をギルドに連れてって

「あら…えーっと……ルーナちゃん? だったかしら?」


 ルーナに抱かれて儀式の間を出ると、一人の女性に声を掛けられた。

 

「え? あ! 昨日の受付のお姉さん!? たしか、セシルさん?」


 どうやら昨日、ルーナの受付をした女性らしい。


「そうよ。 嬉しそうだけど……もしかして、召喚出来たの?」

「はい! この子がそうなのです」


 ルーナは抱いている猫、つまり俺を少し掲げてみせた。

 それを見たセシルはどこか複雑な表情を浮かべている。

 

「その子猫が…召喚魔?」


 その言葉の意図は「子猫が高位召喚魔なの?」なのか「あなた本当に召喚出来たの?」なのかはわからない。おそらく両方の意味だろう。

 その顔は「召喚失敗で落胆のあまり、その辺の子猫でも連れてきたのかしら?」とでも思っていそうだ。

 ここはルーナの名誉の為にも、俺が一肌脱ごう。


「オッス!おらクロム。よろしくな!!」


 さっきは出来なかった某龍玉アニメ風に挨拶してみたが、無反応だな。

 いいんだよ、自己満足だから。



「…………喋っ…た?」


 はいはい、またこのパターンね。むやみに喋らん方がいいのかもな。

 

「喋る…猫を…召喚……? なに? 何なのこの……」


 何なのと言われても、ただの普通のドジっ娘ですが?

 いや、そこまでドシっ娘でもないか?もしかしたらフェルナにしてやられたかもしれん。

 

「あっ!子猫だから話せるのか!子猫は…戦闘力無いわよね…ふつう」


 とりあえず、またまた勝手に納得したようだ。

 だが俺は、話せるし、戦闘力もあるし、ついでに“ふつう”でもない。そしてしつこいようだが、子猫ではなく小さな猫だ。

 


「…あぁ、ごめんなさい。クロムっていうのね。素敵な名前ね」

「素敵だって、クロム!よかったね」


 そうか♪素敵か!名前を褒められただけでもなかなかうれしいぞ。

 前の世界じゃお世辞でも“素敵”なんていう言葉は聞いたことなかったからな。


「ところでルーナちゃんは、これからどうするの」

「冒険者にならなくちゃいけないんです。あ!でもジャコモさんの所に先に行かなきゃ」

「ジャコモ? 金貸しの? ……やはりそうなのね」 


 セシルはそう言うと、苦虫を噛み潰したような表情で嫌悪感を露わにした。つまりはジャコモとはそういう輩なのだろう。



「あいつが昼前から事務所にいる訳ないわ!どうせ行っても待たされるだけよ。先にギルドに行った方がいいと思うわ」

「ギルド? ギルドってなんですか?」

「そうね…組合みたいなものね。冒険者になりたいなら冒険者ギルドに登録しないとないのよ」

「そうなのですね。でも冒険者ギルドって、ドコにあるのですかねぇ?」


 いや俺に聞かれても困るな、目の前の彼女に聞けよ。


「そうよね、ルーナちゃんは分からないわよね。ここを出たら左に…そうだわ!私もう少ししたら出かけるの…連れて行ってあげましょうか?」

「えっ? いいんですか」



 結局セシルの好意に甘えて、俺たちは冒険者ギルドまで連れて行ってもらうことになった。ドジっ娘なら道に迷うのは定番だからな、賢明だろう。


「出かけるには、まだ少し早いの。すぐそこに屋台が出ているはずだわ。その辺で待っていてね」


 そう言ってセシルは仕事に戻った。

 屋台で何か食べて時間をつぶせという意味だろう。

 屋台と聞いてルーナが目を輝かせているが、金はあるのだろうか、心配だ。




「クロムはお腹すいてる?」

「まあ、すいてるというほどではないな」


 うむ、ちょっと答えをミスったか? ルーナは食べたそうに肉まんの屋台を見ている。

 さっきの質問は“私は食べたいわけじゃないけど、クロムが食べたいのなら付き合うわよ”的な意味なのだろう。

 ここは紳士のマナーとして、乙女心を汲まねば!


「いや、なかなか美味そうだな、やっぱり食べよう。だが金はあるのか?」

「それくらいはあるのです!」

 

 ルーナは俺を屋台の出している椅子に置き、肉まんを買いに行った。

 ほどなくルーナは少し残念そうに、肉まんを一つ手にして戻ってきた。


「ごめんなのです、思ったより高くて一個しか買えなかったのです」


 すまん、残念だが俺も金は持ってない。猫だからな。

 実際、美味そうではあるがさほど腹はすいていないのは事実だ。

 ここは紳士の―(以下略)


 「いや、俺は一口あればいいぞ。後はルーナが食べればいい」

 「いいの? じゃあお言葉に甘えて♪」


 そもそも肉まんを食いたいのは、俺じゃなくてルーナだしな。

 お!意外といけるぞ。モグモグ


 俺は包みの上の肉まん(の欠片)を食べ終わると、思っていたことをやってみた。


『おい、ルーナ』

「ふぁっ?」

『俺だ、クロムだ、念話を使ってみた』

「あ、念話ね(モグモグ)知ってる知ってる。(モグモグ)で、なんで?」


 女性が食いながら話すなよ。


『俺が喋るとみんな驚くだろう?』

「セシルさんも術士さんたちも驚いてたですねー」

『だから、あまり人前では話さないほうがいいと思うんだ』

「なるほど(モグモグ)わかった」

『ところで、なんで念話で返さないんだ』

「えー…っとそれは…」

『使い方が分からんのか?』

「たぶん大丈夫」

『じゃなんでだ?はたから見たら、ひとり言を言ってる変な奴に見えるぞ』

「あー…たぶんそれも大丈夫かな」

『そういうことだ』

「だって、クロム…鳴いてるし」


『…え? 鳴いてる?』

「うん。ニャーニャーって鳴いてるの」

『俺が?』

「うん。だから“猫と話してる変な奴”には見えるかもだけど“ひとり言を言ってる変な奴”には見えないと思うよ」

 

 マジか!

 そういわれれば猫の鳴き声が聞こえる気もしたが、自分の声だったとは。

 とりあえず普段はいいとしても、大事な時は不味いな、気を付けよう。


『ま、まあ、何か食ってるときくらいは念話でな!』

『りょーかい♪』


 出来るじゃねーか!



 そうこうしているうちにセシルが小走りでやって来た。

 

「ごめんなさい、ちょっと遅くなりましたね。早速行きましょう!」


 

 こうして俺とルーナはセシルの案内で冒険者ギルドへと向かって行った。

 

 ちなみに、ルーナはギルドへ着くまで二回ほど、何もないところでつまずき転びそうになった。

 そのたびに俺は落とされたわけだが、猫なので特に問題はない。

 ただ、前言は撤回しよう。


 ルーナは間違いなくドジっ娘だ。


タイトルは、私をスキーに連れてって(映画)より

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