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吾輩は召喚魔(ねこ)である  作者: 画猫点睛
第一章 ズッカ編
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4話 猫と少女と二人の術士(をとこ)

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン!!!」



 ……あれ?登場の仕方をミスった?

「オッス、おら○○!」も捨てがたかったが、残念ながら俺には名前がまだない。

 とりあえず何か反応してくれないかな?

 

 召喚された部屋には、儀式の術者の男が二人、そして俺の契約者になる予定の少女、ルーナがいた。何故か三人とも固まっている。

 俺の登場の仕方が少々寒かったのだろうか?失敗だ。




「「「しゃ、喋ったー?(♪)」」」


 どうやら、俺が喋ったことに驚いているようだ。そういえば話せる召喚魔はごく一部だったような気もする。

 まあ約一名微妙に反応が違うのは気のせいだろう。


「長年、ここで術士をしているが、話せる獣型など初めてじゃぞ」

「儂は、話す召喚魔自体初めてだ」

「しかも通常形態が子猫というのがなぁ」

「子猫の高位召喚魔なぞ聞いたこともないぞ」

「失敗か?いやしかし話せるし―」」


 術者じじいどもが何やらひそひそ話し合っている間に、ルーナが恐る恐る俺の所にやって来た。


「あ、あの…」


 なんだろうか、何か質問か?


「モフモフしてもいいですか?」

「お、おう」


 反射的に返事をしてしまったが、可愛い少女に触られるのは問題ない。

 いや、むしろ嬉しい。


 

 モフモフ、モフモフ、モフモフ―



 いやしかし……何だこれ?


 荘厳な広間の床に描かれた魔法陣。

 その魔法陣の中心で猫をモフモフする少女と、その傍らで論議をする法衣の術者じじいが二人。

 それなりにエキセントリックな光景だ。

 

 

 モフモフ、モフモフ、モフモフ―



 ルーナに黙々とモフられているうちに、術者じじいどもは勝手に結論を出したらしい。


「あの子は見たところ、大したものではなさそうだから、ぎりぎり高位の召喚魔が出たのじゃろう」

「だから子猫だということですか?では、話せると言いうのは?」

「うむ、獣型だが戦闘力が低いというのはどうじゃ?」

「ああ、なるほど。だから子猫の姿なのですね」


 いやいや、ぎりぎりでもないし、戦闘力も高いよ。ついでに言うと、子供じゃないから小さい猫と言って欲しいね。

 とりあえず術者じじいどもは、失敗ということにしたくないのだろう。


「ウホン! そろそろ良いかな?」


 術者の声を掛けられ、ルーナは俺をモフるのをやめて、隣に座った。

 その時「モフモフが……」と小声で言っていたが、聞かなかったことにしよう。


「召喚は無事成功したようじゃ!続いて互いに聞きたいことを質問し合うがよい」

「問題がなければ、名前も決めておくがよいぞ」

 

 質問内容は聞かない方針なのか、それとも俺の事について論議を続けたいのか、術者じじいどもは広間の隅の方へと移動し、何かヒソヒソと話し始めた。

 しかし、質問と言われても、俺には特に何もない。

 さて、どうしようかと思っていたら、ルーナが先に声をかけてきた。


「あの、猫さん!わたし、訳あって冒険者にならなきゃないんですよ」


 うん、知ってるぞ。


「猫さんと契約したいんですけど、猫さんは冒険者とか大丈夫ですか?」


 彼女は少し不安そうな顔で聞いてきた。

 それもそうだ、いくら契約魔が召喚されようと、契約を断られたら、それは彼女にとって娼婦になることを意味するのからだ。

 まあ、そんなことを俺がするわけないのだがな。

 

「俺なら全然大丈夫だ。契約も何の問題もないぞ」

 

 ルーナは、俺の答えに笑顔で目を輝かせた。が、思い直したように少し顔を曇らせた。


「でも、冒険者って何か怖そうだし、危険そうだし、不安ですよね?」


 冒険者なら怖い目にも危険な目にも合うのが当たり前、むしろ危険な場所に行かない者を冒険者とは言わないだろう。

 何の心構えもない少女が不安にならない方がおかしい。

 だが、そんな不安は俺が払拭してやろう。


「そうか? むしろ楽しそうじゃないか!」


 その台詞に、ルーナは少し驚いた表情で俺の顔を見たあと、少し考えるような表情に変え、また笑顔になった。

 猫の姿の俺が言うのも何だが、猫の目のように表情がころころ変わる子だ。


「そうですよね、危険なこともあるかもしれないけど、きっと楽しいですよね!」

「ああ、そうだな」

「猫さんといっしょならやれる気がしてきました」


 なんだか切り替えが早い気もするが、嫌々よりはマシだろう。


「魔物なら俺に任せておけば大丈夫だ」

「猫さんは強いんですか?」

「まあ、戦ったことがないが、弱くはないはずだ」

「そうなんですか、スゴイですね」


 何がスゴイのかよくわからんが、言いたいことはわからなくもない。


「そうだな。ルーナは俺が守る」(キリッ!)


「……えっ!?」



 いやいや「えっ」とか言われると恥ずかしいんだが。

 猫じゃなければ赤面してるぞ。


「何で名前知ってるんですか?……わたし言ったっけ?」

 

 そっちかい!

 

「あ! 名前と言えば、猫さんの名前考えなくちゃ。ええと―」

 

 だから切り替え早いって。


「黒いからクロは?」

「却下」

「えー、ダメなの?」

「駄目です」

「じゃあ、クロコ」

「もっと駄目です」

「えー、んじゃあ、クロト、クロケ、クロハ、クロ…クロ……」


 いや、クロから離れようよ、なっ!


「クロロ…クロム……」

「お! それだ!」

「え? えーっと“クロロ”?」

「い、いや、そっちじゃなくて」


 その名前だと、どこかの旅団の団長になってしまっていろいろと不味い。

 非常に不味い。

 

「“クロム”の方ってこと?」

「そうだ、クロムでどうだ?」

 

 クロに“ム”を付け足しただけだが、それなりにカッコいい。。

 銀毛も纏っているし、ちょうどよい名前だ。


「いいよ! クロムにしよう♪  すいませーん」


 俺の名前がクロムに決まった途端、ルーナはすぐに術者じじいどもに声をかけた。

 だから早いって!


 

「おお、契約の準備は整ったようじゃの」


 気が付くと、俺とルーナの下の魔法陣が薄ら光っている。双方が契約を合意した証なのだろう。


「ではルーナよ。召喚魔の名を教えてくれぬか」

「猫さんの名前は“クロム”です」

「ふむ“クロム”か。いい名じゃ」


 いや、黒に“ム”を付けただけだ。そんな俺の思いも知らず、術者たちは儀式を続ける。


 術者じじいどもが呪文のようなものを唱え始めると、床の魔法陣から光が溢れ、俺とルーナを包み込む。


「主神よ、召喚の神よ、そしてすべての神々よ、ルーナ・ハーツと召喚魔との契約を名付けによって締結いたします」


「その名は“クロム”、“クロム・ハーツ”!!」


 

 え?なっ!ちょ、ちょっ―



 俺の動揺は無視された。

 俺たちを包み込んでいた光は強くなり、爆発するかのように宙に散って光の粒子となり、俺とルーナに降り注いだ。


 「これで、儀式は完了じゃ。高位召喚契約者の証としてこれを授けよう。収納具ストレージとして使える銀の護符チャームじゃ」


 魔法陣が刻まれた丸い銀の護符チャームは鎖や紐を通してネックレスのように使えるリングがついている。


 

 銀…シルバーねぇ……。

 しかしミスったな、まさかルーナの苗字ラストネームがつくとはな。

 まあ、フルネームで呼ばれることもないだろう。

 それに、異世界人が知ってるはずもない…


 “クロム・ハーツ”がシルバーアクセサリーのブランド名だってことなどな!



 


 その後、俺はルーナに抱かれ儀式の間を後にした。

 それはルーナが抱きたがったからで、決して俺が望んだわけではない。


 決して……ない。



タイトルは、猫と庄造と二人のをんな/谷崎潤一郎 から拝借

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