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7. 栄連合

『勇者のパーティに格闘家が参加しました』


 何度見返してもナカトの目に映っているメッセージは変わらなかった。


「離して……」

「えっ?」

「もう暴れないから、離して!」


 そう言われて、ナカトは自分がその女性の腕を押さえっぱなしになっていた事に気が付いた。


「あ、ごめん!」


 慌てて手を話すと、女性は数歩後ろに下がって、


「ごめんなさい。みっともない所を見せて」

「いえ……」


 ナカトはそう言いながら、その女性のステータスを確認した。


名前:ハスコ・カワキタ 

レベル:1

職業:格闘家

体力:11

魔力:0

力:13

速さ: 12

魔法: 0

守り: 11

スキル:防御術(Lv.4)、格闘術(拳)(Lv.2)、格闘術(肘)(Lv.1)、格闘術(蹴)(Lv.4)、格闘術(膝)(Lv.1)、格闘術(頭)(Lv.1)、格闘術(関節)(Lv.1)

称号:導師の卵



 カワキタ ハスコさんというのか……


 ナカトは職業を確認し、彼女が勇者パーティの一員である事をあらためて認識した。

 そこで、


「えーと、カワキタさん」

「え? 何で私の名前を?」


 ハスコは更に数歩下がって、こちらを汚いものを見るかのような目でみつめた。だがナカトはそんな視線を無視し、


「僕がなぜあなたの名前を知っているのか、ついでに外で何が起こっているのかを、今から説明します。ちょうど今、シノに説明しようとしていたので、一緒に聞いてください……何も無いですが僕の部屋でもいいですか」


「はい、ナカトさん」


 シノは階段の上からあっさりと答えた。

 ハスコは、


「ちょ、ちょっと待って。もう一人、連れてきてもいい?」

「もう一人? 同居人がいるのですか?」


 基本的にこのアパートは二人入居不可のはずだった。それとも、そんな条件を出されたのは自分だけだったのだろうか? そんな事をナカトは考えたが、


「あ、お隣さん。ちょっと訳があって、私が面倒を見ているの」


 と、ハスコが理由を説明してくれた。


(パーティ以外のメンバーに事情を知られるのは避けたいのだが……とりあえず、このアパートで二人も仲間がいたという事は、まだいる可能性もゼロじゃない)


 そう考えたナカトは、


「いいですよ。ついでに他の部屋の方にも声をかけてみましょう」


 そう提案してみた。


***


 ハスコが住んでいるのは103号室。1階の一番端だ。

 1階は2階と同じ4部屋。階段に一番近い場所が管理人室で、その隣から101号室、102号室、103号室になっている。


 ハスコが呼ぶと、102号室からまだ中学生か高校生くらいの女の子が出てきた。外にいるナカトとシノの姿を見ると不安そうにハスコの腕にしがみついた。


「お蓮さん。この二人は……?」


 女の子はハスコに小さな声でそう質問をした。


(おれんさん?)


 ナカトはそう思いつつも、先に女の子のステータスを確認した。


名前:マリ・クライ 

レベル:1

職業:魔法使い

体力:5

魔力:9

力:2

速さ: 2

魔法: 11

守り: 3

スキル:初級水撃魔法(Lv.1)、初級土撃魔法(Lv.1)


(そうじゃないかと思ったよ……)


 ナカトは職業欄を見て溜息をついた。


(仲間を集めるのは大変かと思ったが、このアパートの中だけで事足りたりするんじゃないか……あ、そうなると大家さんが亡くなったのは痛かったのかも)


 ナカトはマリの事をじっと見つめながら、そんな事を考えていた。


「お連さん、あの人、私の事をじっと見ている……キモっ」

「そ、そうね。とりあえず、私から離れないで!」


(聴こえているって)


 ナカトの耳に二人の会話が届いてしまい、ナカトは肩を少し落とすのであった。


「あとは、101号室なんだけど……」


 先程、ハスコがマリを呼びにいっている間に、ナカトは101号室の呼び鈴を押していたのだ。その時は、中で物音がしたような気がしたので、出てくるかと思っていたのだが、結局誰も出てこなかった。


 ナカトが101号室のドアの横についている呼び鈴を、もう一度押す。ちなみに、この栄荘には残念ながらインターフォンのような上等なものはついていない。


「誰かいるような気配はあったんですが……出てこないですね」


 そういって、ドアノブをガシャガシャ回してみるが、鍵がかかっているようで、ドアは開かない。ナカトもこんな非常時じゃなければ、ここまで非常識な事はしないのだが、しつこく、何度か呼び鈴を押してもみた。


(いっそ壊すか……いや、さすがにそこまでは出来ないか)


 中でペットに襲われている人が助けを求めているかも……そういう考えも浮かんだが、ドアに耳を当て中の物音を聞いても、何の音もしない。


 少し粘ってはみたものの、出てこないなら、出てこないだけの事情があるのだろうという事で、無理やり自分の気持ちを納得させ、


「じゃあ、お二人とも、俺の部屋へ。シノも上がって……一応、俺が解っている範囲で、この状況を説明したいと思う」

「はい、ナカトさん」

「「……」」


 シノは嬉しそうに返事をし、ハスコとマリさんは怪しそうにナカトを見ながらも、頷いている。どうやら、ナカトがじっとマリの事を見たことと、その後、無造作に101号室のドアを開けようとしたり、何度も呼び鈴を押す姿で、不信感を抱かせてしまったようだ。


(ま、どっちにしろ説明するしか無いんだし……今はいいか)


 ナカトは軽く肩をすくめ、シノに続いて階段を歩き始めた。


***


「それじゃぁ、最初に自己紹介をさせてもらいます」

「はい」

「「……」」


 ナカトは部屋に上がると敷きっぱなしだった布団を端に寄せ、積み上げられているダンボールを少し整理して4人が座れるスペースを作った。座布団のような上等なものはなく、畳の上に直接座ってもらう事になった。


 ナカトが部屋の一番奥に腰を下ろすと、シノがその隣に座った。


(短時間で、随分懐かれてしまったものだ。こういうのも吊橋効果っていうのだろうか)


 ナカトはそうボンヤリ考えつつ、ちょっと狭い部屋の中で不自然までに距離を取って座るハスコとマリを見た。何があってもすぐに部屋の外へ飛び出せる位置取りだ。面倒を見ていると言っていた通り、マリの方がドア側に座っている。いざとなればハスコが身体を張って……くらいの事は考えてそうな雰囲気を醸し出していた。


「田和中人、この201号室の住人です。昨晩、引っ越してきました」

「昨日の軽トラックの人?」


 マリがそう呟く。


「そうですね、昨日はご挨拶もせずに、申し訳ありませんでした」


 ナカトは、10歳以上は離れていそうなマリに頭を下げた。


「そっちの人は?」


 ハスコはシノの方を見て、こう言った。


「私? 私は202号室の小久江詩乃です」

「202号室……やっぱり人が住んでいたんだ」

「初めてみた」


「へへ。社交性が低くて……申し訳ありません」


 二人の反応にシノが頭を下げる。


(やっぱり住んでいたって、全く交流がなかったのかな?)


 ナカトはそう思いながらも、自身が住んでいたタワーマンションでは、入居から引っ越しまで、お隣さんとも顔を合わせた事が無かったことを考え、そんなものかと、余計な口は挟まなかった。


「私は川北です、103号室に住んでいる。で、こっちの子が倉井真理。102号室」

「倉井です」


 二人はそういって、軽く頭を下げた。


「倉井さんは一人暮らし? 失礼だけど、随分若そうに見えますが……」


 ナカトは思っていた疑問を口にした。


「は、はい」

「この子は事情があって一人で暮らしているの。一応、教え子なので私が気にかけているから一人でも大丈夫」

「教え子?」

「お蓮さんは、私の高校の体育の先生……です」

「おれん?」


 マリが事情を説明したのだが、ナカトは「おれん」という呼び方に引っかかってしまった。その質問にハスコが顔を赤らめ、


「わ、私がハスコっていう名前が嫌いなので、生徒たちにが『レンコ』とか『お蓮さん』というアダ名を付けてくれているの」

「お蓮さんは、私達生徒の……私の味方なんです」


(何かややこしい事情もありそうだな)


 ナカトは二人の様子に、ただの教師と生徒という関係以上のものを感じ、それ以上質問するのをやめた。


「解りました。それでは俺もお蓮さん……じゃおかしいですね。レンコさんとお呼びした方がいいですか?」

「勝手にしてもらっていいわよ」

「解りました。それではレンコさんと倉井さん」

「真理でいい」

「……わかりました。マリさん、一応、この後は突拍子も無い話しになりますので、一旦口を挟まずに最後までお聞きください」


 そう言って、ナカトは朝、シロに襲われた所から、外の状況までの説明をした。勇者に関する説明は除外して……


***


「大家さん、亡くなったんですね」


 ハスコ改め、レンコがそう呟いた。


「俺が見た時には、もう……間に合わなかったよ」


 説明しているうちに、ナカトの口調は砕けたものになっていた。とりあえず全員年下のようだし、まだ、一緒に魔王討伐をするパーティとなるという話しは誰にもしていなかったが、この先、パーティを組むのであれば、敬語はおかしいだろうという判断だった。


「魔法……なんて信じられない」


 マリが相変わらずナカトを疑わしそうに見ている。


「まぁ、そうだろうね」


 ナカトは素直にそう答える。


「事実です! 私はバンバン、魔法が撃てましたよ!」


 シノがマリにそう抗議するが、


「でも、そんなの見ないと信じられない! だいたい、その人が引っ越してきたら、こんな事になったんじゃないの!?」


 マリが少しヒステリックに叫び、レンコにしがみついた。


「確かに……タワさん」

「ああ、俺の事もナカトでいいですよ」

「……ナカトさん、私達は昨日まで、ここで平和に暮らしていました。確かにジュリアが……おかしくなって……その後、消えちゃったのは事実です。だから、状況的に、これまでの常識が覆るような事が起こっている事は理解しています。だからって、あなたの言う事を無条件に信じる事なんて……」


 レンコがマリの背中をさすりながら、ナカトに向かって、ゆっくりとそう言ってきた。レンコにとっては、ナカトとシノが味方になる存在なのか、そもそもこの事態を引き起こした現況なのかの判断が出来ていないようだ。


 ところが突然、


「ナカトさんは主人公キャラだから、それは仕方ないんです!」


 シノは立ち上がり、このシリアスな雰囲気をぶち壊すような事を言いだしたのだ。


「「はぁ?」」


 その言葉にナカトとレンコが揃って反応する。


「私はこの目で見ました。外の猿を木刀で倒すところや、魔法を撃ち出したナカトさんを。アスファルトの道路が、土に変わって、そこから猿が浮かび上がってくるのを。何より、ナカトさんに教えられたようにしたら、私も魔法が撃てるようになったんです!」


 レンコとマリは、胡散臭い事を言い出しているシノに完全に引いてしまっている。


「それもこれも、ナカトさんのおかげです! ナカトさんが主人公なんです!」


「お蓮さん……あの人おかしい」

「そうかもね」


(陰口になってないから! 聴こえているから!)


 ヒソヒソと囁く二人にナカトは心の内でツッコミを入れたが、そんな3人の反応にお構いなく、シノは再び爆弾発言をする。


「きっと、ここで出会ったあなたたち二人も、ナカトさんに関係する何かなんですよ……ほら! ナカトさんのハーレム要員とか?」

「ハーレム!?」


 レンコがその言葉に過剰に反応して、マリをぎゅっと抱きしめた。


「ああ、確かにそんな話しは多いですね」


 だが、レンコに引き換え、マリの方が冷静な反応を示した。


「私が読んでいるラノベにも、そんなお約束展開がよくありますが……」


 そこでマリはナカトを見て、


「キモ」


 そう言って、目をそらした。


(地味に堪える)


 ナカトがシノのせいで話しが変な方向に走ってしまった事に苦虫を潰したような顔つきになりながらも、シノの話しを遮ろうとはしなかった。あの調子だと、ナカト自身を疑われ、この先、一緒に戦ってもらう仲間として行動が出来なくなりそうだったが、シノの発言で、その暗い雰囲気は一掃され、なんとか会話を進める土壌が出来たように感じたからだ。


「ひどい! ナカトさんは主人公キャラですよ!」

「そのキャラとか、意味わかんないんですけど!」

「そんなの、一緒に戦ってみれば、すぐ解りますよ! ね、ナカトさん! きっと彼女たちにも、何か使命があって、チート的な能力があるんですよね? ね?」

「チートとか、マジありえないんですけど」


 マリは思ったよりも言葉がきついようだ。

 だが、ここはチャンスだ。


「レンコさんは今のところ無理だけど……マリさんは魔法が使えるよ」

「はぁ?」


 にしがみついてたマリが食いついてきた。


「マリさんは、シノと同じ魔法使い……のはず」


「え? へへ、お仲間ぁ」

「魔法使いって、一体何の根拠があって?」

「魔法……私が魔法……?」


 ナカトの言葉に三者三様の反応を示した。

 マリの様子を見る限り、ナカトを信じているようには見えないが、魔法が使えるという事について、満更でも無いようだ。


「そ、それで、私が魔法を使えるって、どうやって!?」

「魔法を使うには、このアパートの敷地の外に出て、魔法を使う具体的なイメージを浮かべてから、特定のキーワードを言う事で、実行できるよ」

「そう……ですか……」

「マリさんは、水と土の魔法が使えるみたいなので……キーワードは『スイ』と『ド』かな……これは試してもらわないと何とも言えない」


 だが、その言葉にレンコが再び反応をした。


「外に出るって……駄目です! ナカトさんの話しでは、外は命にも関わるような危険な場所なんですよね」

「ああ」

「マリ! 駄目よ! あなたをそんな危険な場所に連れていくなんて、先生は許しません」

「お蓮さん」

「駄目! 絶対駄目!」


「レンコさん! 落ち着いて!」


 ナカトは、軽いパニックを起こしそうになったレンコの様子を見て、慌てて少し強めの声を出した。


 大きな声を出したナカトに一瞬びくっとなったレンコだったが、すぐに落ち着きを取り戻した。むしろマリとシノの方がびっくりしてナカトの方を凝視している。


「……すみません、取り乱してしまって」


 そして、強く抱きしめていたマリを離す。


「お蓮さん……」


 レンコが落ち着いたのを見て、ナカトは新たに提案をした。


「レンコさん、マリさん。それなら二人はアパートの敷地内から、俺とシノが戦う姿を見ていてくれないかな? 今の所、出て来る魔物であれば、それなりに対処が出来ているので……それで大丈夫そうだったら、ちょっと出てきて、マリさんの魔法を試してみる……そんな感じでどうかな?」


 その言葉にマリがレンコを玄関のそばまで引っ張っていき、こそこそと相談を始める。


「これなら……お蓮さん……これなら多分大丈夫だよ」

「そう……そうかしら? 私はどうしても、あの人達が信じられないんだけど……」

「でも、ジュリアの事もあったし……状況は確認しなくちゃならないでしょ?」

「ええ」

「それに、私が読んだ本にも、こういうチート能力みたいな事は、よくあったから……そういうパターンだとすると、ここは早めに確認しておいた方がいいと思うの」

「マリ、本と現実の話しは違うわ」

「お蓮さん、今は現実よりも本の方が参考になりそうな状況でしょ」

「そ、そう? そう……なのかもね」

「なら……」


 そこまで言って、マリがナカトに向かって、


「とりあえずアパートの門の所から見ています。危ないと思ったら、部屋へ逃げる……それでいいですか?」

「ああ、それでいいよ。じゃぁ、シノ。もう一仕事になるけど、いいかな?」

「ええ、少し休めましたし。大丈夫です!」


 そういってシノが立ち上がり、3人を見回し、


「栄連合の結成ですね」


 こう言った。

 それと同時にナカトにメッセージが届く。


『パーティ名を栄連合に変更しました』

まだ始まったばかりという事もあり、PVも少ないのですが……感想をお待ちしております!

これを含めて同時に3つも連載する事にしてしまったのですが、交互に更新していきますので、エタるような事は無いはずです!


他の作品も合わせて、よろしくお願いします。

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